【泣かないで】
先輩方が引退されてから、早数ヶ月。
近々行われる合同演奏会に向けての練習中、
同級生のあいつが泣いているのを見つけた。
「…グスッ…。」
平気な顔をしようとしていても、
目が充血しているうえに潤んでいる。
誰が見ても、泣くのを我慢しているとわかる。
更に、既にわかっていること。
それは、こいつは"大丈夫か?"と聞くと
必ず"大丈夫"と答えること。
本当は大丈夫じゃなくても、そう言えないやつだ。
『なぁ、セッティングの確認をしたいんだが、少しいいか?』
「…うん。」
『よし。ここだとうるさいから、場所を移すぞ。』
人が集まりつつある部室を出て、誰も来ない楽器庫へ向かう。
「…わざわざ鍵まで開けて…。」
『いいだろ。この部屋は俺たちの管轄なんだ。』
「まぁ…そう、だけど…。」
ほんの少しの躊躇いの後、室内へと足を踏み入れる。
…合奏が始まるまで、まだ時間はある。
『で?何があったんだよ。』
「…何が?」
『…話しにくいなら、話さなくてもいい。
だけど、無理だけはするな。』
「…。」
お前が泣いていても、
俺は、何もしてやれない。
先輩みたいに、笑わせてやることはできない。
気の利いた言葉をかけてやることも、俺にはできない。
お前が落ち着くまで、側にいることしかできないんだ。
だから、頼む。
――泣かないでくれ…。
11/30/2024, 3:21:25 PM