拝啓
桜の蕾もようやくほころび、どこか恥じらうように春を告げております。貴方はお変わりなくお過ごしでいらっしゃいますか。
この頃は、夜の静けさがいっそう深く感じられてなりません。まるでこのひとときが夢の中にあるかのようで、燈火の揺らぎを見つめておりますと、現と夢の境がわからなくなってしまいそうでございます。
今の私は、言いようもなく満ち足りております。あまりの幸せに、これが夢ではないかと疑ってしまうほどでございます。けれどそれゆえに、ふとこれは夢なのではないかと、胸が少しだけ騒いでしまうのです。
貴方とお会いしている折には、どうしてこんなにも心がやわらぐのでしょう。何でもないお話さえ楽しくて、つい時の経つのを忘れてしまいます。
だって、貴方と共にあるひとときは、少しも退屈などしませんもの。
この時が永久に続けばいいのにという想いを抱くのは、少しばかり幼いことでしょうか。それでも、貴方の隣にいられることが、何より嬉しいのでございます。
けれども時折、この幸せがふと消えてしまうのではないかと、怖くなることがございます。
貴方と過ごした日々も、交わしたお言葉も、春の花びらのように、はらはらと散ってしまうのではないかと。
ほんの少しだけ、心細くなるのでございます。
されど、夢であろうと現であろうと、貴方をお慕いするこの気持ちだけは、偽りのないものと信じております。
もしもこの現世が夢であるのならば、どうか醒めるその時まで、貴方のお傍にいさせてくださいませ。
叶うことなら、あとほんの少しだけ。
貴方の隣で、同じ時を重ねてゆけましたなら、これ以上の幸せはございません。
やがて朝が訪れ、この夜が終わりを告げるとしても、その時まで、どうか私の手を離さずにいてくださいませ。
そしてもし、夢から醒めたその後も、貴方が隣にいてくださるなら、これ以上の幸せはありません。
どうかこの夢が、やがて現となりますように。
敬具
追伸
日々懸命に歩まれている貴方に、「頑張ってくださいね」と申し上げるのは、いささか差し出がましいようにも思われます。
けれど、貴方様のご努力は、いつもこの胸に確かに映っております。
どうかご無理なさらず、それでもなお、貴方様らしく歩んでいかれますよう、心よりお祈り申し上げております。
拝啓
春風もやわらぎ、心なしか日差しの温もりに胸ほどける頃となりました。貴方はいかがお過ごしでいらっしゃいますか。
連絡の知らせが届くたび、もしや貴方ではないかとつい急いで確かめてしまうのでございます。違っていた時は少しだけしょんぼりしてしまうのに、貴方のお名前を見つけた途端、すぐに頬が緩んでしまうのですから、われながら単純でございますね。
このようにすぐ言葉を交わせる時代におりますことを、ありがたく思います。もし時代が違っておりましたなら、歌などを詠み交わしておりましたのでしょうか。
けれども私にはそのような才もなく、すぐに貴方に呆れられてしまいそうでございますね。
貴方は言葉を選ばれるのがお上手でいらっしゃいますから、さぞや他の方々からも慕われておいででしょう。
そう思うと、ほんの少しだけ面白くない気持ちになってしまうのです。子供のようでお恥ずかしいのですけれど…どうか今しばらくは、私だけを見つめていてくださいね。
たったひとつの通知でさえ、このように胸が高鳴ってしまうのですもの。われながら、なんとも可愛らしいことでございますね。けれど、この鼓動は未だに静まることを知らず、貴方を思うたびに早まるばかりでございます。
本当は、私からも折々に文を差し上げたいと思っておりますのに、言の葉の綴り方が分からず、つい筆をためらってしまいます。もししばらく便りが届かぬ折には、どうかほんの少しだけお目こぼしくださいませ。
このように胸を騒がせておりますのに、いざお目にかかる折には、どれほど心が乱れてしまうのでしょう。
考えるだけでも可笑しな心地が致します。
またお逢いできる日を、指折り数えてお待ち申し上げております。
敬具
拝啓
本日もこうして貴方にお手紙を差し上げられること、ささやかながら嬉しく思っております。今日一日は、どのようにお過ごしでいらっしゃいましたか。
遠く離れている間は、時の流れがひどくゆるやかに感じられ、一刻さえも長く思えてしまいます。けれど、ひとたび貴方と同じ時を過ごせば、その時間はまるで溶けるように過ぎてゆき、あっという間に手の届かぬところへ行ってしまいますね。
時というのは、まったく思い通らないものでございますね。幼い頃に聞いた物語の妖精たちが、どこかでこっそり悪戯をしているのではないかと、つい考えてしまいます。もしそうでしたら、少しくらいはこちらの願いも聞き届けてほしいものです。
本当は、ずっと貴方のお傍にいられましたなら、時のことなど気にせず、ただ穏やかに過ごしていられるのにと、そんなことを思ってしまいます。
それでも、別れの折にふと見せてくださる、あの寂しげなお顔は、思い出すたびに、どうにも愛おしく感じられてなりません。
離れる時間はやはり好きにはなれませんが、あのようなお顔は滅多に拝せぬものですから、不思議と嫌いになりきれずにおります。
願わくば、その別れもほんのひととき…お仕事の合間の時間や、数日ほどお会いできぬくらいであればと、つい現実にはならぬ夢を思い描いてしまいます。
こうして毎日お手紙をしたためておりますと、貴方を想う時間ばかりが増えてゆくようで、少し可笑しくもあり、また幸せにも感じております。
どうか本日もお健やかにお過ごしくださいませ。
また明日もこうして筆を取れますことを、心より願っております。
敬具
前略
春のやわらかな陽射しが、そっと頬を撫でるような日和となりました。かような折、貴方のことを思い、静かに筆をとっております。
貴方とお目にかかるようになってからというもの、それまで胸の奥へと押し込めておりました思いを、少しずつ言の葉にして伝えられるようになりました。
人に頼ることを知らぬまま歩んで参りましたゆえ、寄りかかり方も、縋り方も未だ拙く、心許ないばかりでございます。
ご迷惑をおかけしてはならぬと、ただひとりで耐えておりましたが、何も申さぬことこそ、かえって貴方のお心を遠ざけてしまうのではないかと、近頃考えるようになりました。
涙がこぼれそうな夜には、貴方へご連絡差し上げるようにいたしました。いまだ迷いはございますものの、貴方のお声を耳にいたしますと、胸の内に溜まっていた寂しさはたちまちほどけ、先ほどまでの涙さえ忘れてしまうほど、あたたかなひとときへと変わるのでございます。
ゆえに私は、もう独りで涙をこらえることはいたしません。この想いはすべて、貴方へとお預けいたします。
貴方の胸をお借りして、私は少しずつではありますが、自分の弱ささえも大切に思えるようになりました。
いつも貴方は、静かに私の言葉に耳を傾け、やさしく励ましてくださいますね。
そのお心に触れるたび、私はますます貴方を愛おしく思うのでございます。
不器用な身ゆえ、人を慰める術は未だ拙くございますが、それでももし、貴方が想いを抱えきれぬ夜がございましたら、どうか私をお頼りくださいませ。
この胸は、いつでも貴方のためにございます。
どうかこの先も、変わらず私の隣にいてくださいますように。
草々
前略
あなたへの想いを綴り始めてからというもの、
貴方と共に過ごした折々のひとときを思い返しながら筆をとるこの時間が、 私にとって何より心待ちのものとなっております。
静かな机の灯のもと、あの時の笑みや言葉を一つひとつ辿っておりますと、胸の内にやわらかな温もりが満ちてまいります。
人にはそれぞれ、胸の奥をふと震わせるような恐ろしいものがあるのでしょう。
私にも、夜更けの静けさや、得体の知れぬ気配に心細くなることがございます。
けれども貴方と時を重ねるうちに、貴方にもまた、同じように胸を曇らせるものがあるのだと知りました。
共に過ごす時が増えるほど、貴方のそうした小さな不安や恐れを、私は一つひとつ覚えてゆきたいと思うようになりました。
そしてもし叶うのならば、その恐れが少しでも和らぐよう、そっと寄り添える者でありたいと願っております。
怖いものを前にして、無理に平気なふりをなさらなくてもよろしいのです。
どうか意地を張らず、二人で肩を寄せ合いながら、その恐れを少しずつ追い払ってゆけたなら、それほど嬉しいことはございません。
これから先、末永く共に歩むことが許されるのなら、怖くて眠れぬ夜もまた訪れることでしょう。
その折には、静かな灯りをともして他愛のない小噺など語り合いながら、共に夜更かしをいたしましょう。
やがて心地よい夢に誘われ、朝の光に目を覚ましたとき、隣に貴方の姿がある。そう思えば、昨夜の恐ろしさなど、きっと遠い夢のように消えてしまうのでしょう。
そのような未来をふと想い描き、胸の内が穏やかなぬくもりで満ちてまいりましたので、今宵はこのあたりで筆を置くことといたします。
草々
追伸
ようやく心にもゆとりが生まれてまいりました。いつも静かに耳を傾け、私の拙い言葉を受け止めてくださること、心より感謝しております。もしご迷惑でなければ、また折に触れて貴方のお声をお聞かせいただけましたら、これに勝る喜びはございません。