田中ボルケーノ

Open App
10/4/2024, 12:46:01 PM

私が思うに

世界がこうなると決まってしまった以上

もはや誰の責任でもありません

でも私は有り難いことに

こうやってこの場に立ち

皆様にメッセージを送れる立場にありますので

最期にお伝えしたいことがあります

人類は長い期間を経て

この地球の責任を授かる立場にまで発展いたしました

簡単に申し上げると

それは争いの歴史でもあり

憎しみの連鎖でもあったように思います

誰かが幸せを得るために

誰かを傷つけ

我々は傷だらけになりながら

教わった幸せを求められ

必死に藻掻いてきた

いつか世界の皆が

笑える日が来ることを夢みて

だが、それはついに叶わなかったかのように思います

始めに申し述べましたが

世界がこうなると決まってしまった以上

もはや誰の責任でもありません

でも、それは

つまり、今夜は

今夜だけは

その夢が叶う

明日、夜明けを迎える頃

空から流れてきたデカい隕石が地球にぶつかる、とか

はあ?

だから、なんだってんだ

だから、どうした

どうってことないやろ

私達が長い時を経て

築いたものは

そんなに脆く崩れるものだったのかよ

私達が夢みた世界は

今夜、この時だからこそ成し得るものだと思います

手を繋ごう

音楽をかけよう

好きな歌を空高く

響かせるのだ

そう

今夜は

今夜だけは

世界中のみんなで手を取り合い

地球の隅まで音楽を響かせ

好きな歌を

爆音で

空高く掲げて

だから、一緒に踊りませんか



そして時間が来た

空を裂いて赤い陽を見上げる



          『踊りませんか?』

10/3/2024, 3:15:19 PM

出会いとは摩訶不思議なもので

なんの脈絡もなく突然現れ

かと、思えば

いつの間にか音も立てず去っていく


例えば

偶々聴いていたラジオで

偶々気になっていた本の紹介がきっかけだったりして


見知らぬ街で

思い出してなんとなく本屋に立ち寄って

探していた本を見つけ手を伸ばすと

同時に隣からも同じ本に手が伸びて

それが最後の一冊で

あ、どうぞ

いや、そちらがどうぞ

と、譲りあったりして

そうこうしてる内にその女性は

昔どこかで会ったことがある様な気がして

あちらも僕に気づいて

あれ?えー、久しぶり

なんてことになったりして

お茶をしようということになり

会話の中で偶々聴いていたラジオを彼女も聴いていたりなんかして

昔から知っていたのに

こんなに気が合うなんて思いもしなかったりして

会話は弾み

夜は更けて

帰る時間になったりして

駅のホームでお互いが逆方向の電車を待つ間

なぜかわからないけど

もう会えない様な気がして

踏切が鳴り彼女の電車が先に迎えにきたりして

客のまばらなドアが開いて

彼女は電車に乗るとこちらを向いて

格好つけるつもりはないけど

また巡り会えたら

と、声をかけたりして

ホームに発車のベルが鳴り響いて

小さい声で彼女が

もう会えないかもしれないよ

と呟いて

気づいたら

腕を伸ばして閉まる扉をこじ開けて

電車に乗り込んでたりして


駆け込み乗車はご遠慮下さい


それが二人の始まりだったりして


           『巡り会えたら』




10/2/2024, 11:24:21 AM

えっ?なんて?
上官なのに思わずタメ口で返してしまった

いや、だから、あの、ダメだって
迎えに来れないらしい

はあ?ふざけんなよ

マジでぶん殴ってやろうかと思った、けどなんとか留まる

いや、課長が言ったんじゃないすか
あそこまで頑張ればなんとかなる、必ず迎えがくる、だから頑張れ、って

そうだよな、俺もね、きっと迎えに来てくれると思ったんだよ、
だけどダメだって
お金ないから自分らでなんとかしてって
部長謝ってたよ珍しく
ゴメンね、だって

ゴメンね、じゃねえよ、クソ豚部長が
怒りを堪えて振り返る

だから俺、言ったんすよ
無難に引き返した方がいいんじゃないですか、て

いやあ、だって
助けに来てくれると思ったんだもん、今回のはさすがに

だもんじゃねえんだよ、だもん、じゃ
お前が行けと、言うからこっちに向かったんだよ

そのまま地球に帰ったら責任取らされて恥かくから保身の為に月に向かえつったんだろうが、と言いかけて止める、
今コイツに言っても仕方がない

で、どうするんすか?

んー、帰るしかないよな、地球に

ないよな、じゃないんだよ
いちいち腹が立つ、運転できん癖に簡単に言うな


月に向かう途中、僕ら二人は宇宙で彷徨った
計器の故障で通信が途絶え、船を動かすには手動で操作するのみ
目標が大きい地球に帰ろうと進言するも、大丈夫だから月へ向かえと命じられる

速度と距離をメモ紙で計算し
月の座標と地形情報を思い出しながら
豆粒単位の着陸地点を捉え
レバー一つで操縦した
課長はそんな最中、隣で頑張れ、頑張れと応援してくれていた
そんな奇跡の月面着陸を果たした、ばかりである


さっきの人生最高のハイタッチを返して欲しい


月面から眺める地球は恐ろしいほど美しい

こうなったら自力であそこに帰ってやる

コイツと二人であの奇跡をもう一度

          
          『奇跡をもう一度』

10/1/2024, 2:11:35 PM

学校帰りいつもの公園で

いつものように一郎とキャッチボールをしていたら
いつのまにか今日も陽が沈み始めていた

やっべ、また母ちゃんに叱られる!
顔を見合わすと二人で笑って土手沿いを走って家路を急ぐ

土手を流れる河と向こう岸の間でカラスが夕焼けにたなびいていた


あれ?おい、ちょっと止まって

後から走ってきた一郎を止めると
あれみろよ、と指さしで教えた

河岸を一人眺めてポツンと体育座りしている後ろ姿、どうにも背中が寂しい

あれさ、田中じゃね?一郎と確認する

白いTシャツ、黒のジャージ、体育座りのまま、なんか河に石を投げてうな垂れているその男
遠目にもあれは我が母校の熱血教師、田中に見える

ちょっと近づいてみんべ、

こっそり近いてみる
近づけば近づくほど田中、どうやら間違いない

熱血すぎてボルケーノの異名がついた、あの田中がなぜか、河辺に夕焼けでたそがれている


なんとなく察する
一人になりたいんだろう、と
声をかければ一線を越えてしまうかもしれない、でも僕らは声をかけた

先生、何やってんの?

一瞬、田中の背中が反応した、
ゆっくり振り返り平静を装っているのがわかった

お、おう!小谷と鈴木じゃないか、お前らこそなにやってんだ、こんな時間に

帰り道だけど、
ていうか先生さ、今、たそがれてたよね?
石とか投げてたでしょ、なんでたそがれてんの?

せ、先生はたそがれてないぞ、別に
河の石の分析をしてたんだ、物理学的によく跳ねる石はどれかなあ、つって
ピョンピョン飛ぶやつを探してたんだ、ピョンピョンて

田中は明らかに動揺している

我々はその一瞬の隙を見逃さない、まず一郎が先陣を切る

ははあん、先生さては
やられたな、上から、こっぴどく
恐らく教頭あたりでしょ


な、なに?なんだと?


段々見えてきましたよ

恐らく熱血漢の部分、先生、以前語っていましたよね

令和だろうが教育は熱くありたい、と

その周辺に不具合が見えます

先生が持つポリシーと時代との不調和、不協和音

恐らく、あまりに熱い先生の教育スタイルが環境にそぐわず

現場監督である教頭あたりから指摘があり、自身の理想と教育現場の矛盾で思い悩んでいる

教頭はあまりに熱血なのを好まない、

なぜなら保護者からは普遍的な教育者を求められ、先生の様に尖った教育感をお持ちの教師は現場監督からは目の上のたんこぶ、であることに気づいた

先生は保護者なんかより子供に寄り添いたい、が、

今の時代保護者を無視すればそれは職業教師としては死を意味する、自分の信念と現場とのギャップに思い悩む

そんなところではないでしょうか?


鈴木、な、なぜそれを、


そしてバトンは一郎から僕に渡された


先生、たそがれるのをやめましょう


学校に乗り込むモンペアがいたり、教室を見れば教師をバカにする生徒がいるし、

弱い者イジメは後を絶たず不登校は当たり前、教師をやっていたら誰しも聞いたことがあるような問題があると思う

だが、たそがれてしまっては超えられないので、

僕らは今日超えるために、先生がトップになるために来たので

先生だけはたそがれを捨てて、勝つことだけ考えていきましょう


こ、小谷、お前、、


河辺から見えた

大地が陽が飲み込む最後の瞬間
今年一番の炎で燃えさかり
僕らの顔を赤く照らした


             『たそがれ』

9/29/2024, 1:28:27 PM

友人の誕生日が迫り、僕らは会議を開く

普通じゃつまんねえだろ、ということになりドッキリサプライズの方向へ舵を切ることにした

こうなると、みんなノリノリで次から次へアイディアが出される

最終的に、
学部の教授からクラス内のイジメを友人が主導していたとの罪で友人へ退学の勧告がなされ友人が最終弁明を行ったタイミングで

裸にマント、頭にパンティを被った私が
正義の味方パンティマンJrとして勢いよく登場し
バースデーコールに移る、という壮大な企画に決定する

教授に協力を仰ぐと最高の笑顔で引き受けてくれた

大学の会議室はあいにく満室で
わざわざ駅前の貸し会議室を借りて友人をそこに呼び出した

パンティとマントを買い揃えいよいよ本番、である


パンティマンJrの状態でドアの前でスタンバってると聞こえてきたのは教授の迫真の演技

教授が友人に迫る、お前がやったんだろ、言いたいことがあるなら言ってみろ!と

泣きそうになりながら友人が弁明を始める

合図のLINEが届いた、いよいよ出番だ


ふぅ、と息を吐き出し、持っている最大限、全力のテンションでドアを開ける、いくぞオラァ!


話は聞いた!!!
弱い者イジメはおよしなさい!!!

パンティマンJrの登場である

一瞬の響めきのあと部屋は静寂に包まれた


勢いよく開けたその会議室には、見知らぬスーツ姿の男女
プロジェクターにグラフが並び、机の上には資料やら
私の方を向いてみんな口が開いていた


間違えたのである、部屋を


察した私は、

では、さらばだ

と言い残し静かにドアを閉めた


隣の部屋で待機する仲間たちに
部屋を間違えた、とも言い出せず

色々考えた結果、着替えてそのまま家に帰ることにした

正義のヒーローだって間違うことあるやろ、と呟きながら


        『静寂に包まれた部屋』

Next