田中ボルケーノ

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えっ?なんて?
上官なのに思わずタメ口で返してしまった

いや、だから、あの、ダメだって
迎えに来れないらしい

はあ?ふざけんなよ

マジでぶん殴ってやろうかと思った、けどなんとか留まる

いや、課長が言ったんじゃないすか
あそこまで頑張ればなんとかなる、必ず迎えがくる、だから頑張れ、って

そうだよな、俺もね、きっと迎えに来てくれると思ったんだよ、
だけどダメだって
お金ないから自分らでなんとかしてって
部長謝ってたよ珍しく
ゴメンね、だって

ゴメンね、じゃねえよ、クソ豚部長が
怒りを堪えて振り返る

だから俺、言ったんすよ
無難に引き返した方がいいんじゃないですか、て

いやあ、だって
助けに来てくれると思ったんだもん、今回のはさすがに

だもんじゃねえんだよ、だもん、じゃ
お前が行けと、言うからこっちに向かったんだよ

そのまま地球に帰ったら責任取らされて恥かくから保身の為に月に向かえつったんだろうが、と言いかけて止める、
今コイツに言っても仕方がない

で、どうするんすか?

んー、帰るしかないよな、地球に

ないよな、じゃないんだよ
いちいち腹が立つ、運転できん癖に簡単に言うな


月に向かう途中、僕ら二人は宇宙で彷徨った
計器の故障で通信が途絶え、船を動かすには手動で操作するのみ
目標が大きい地球に帰ろうと進言するも、大丈夫だから月へ向かえと命じられる

速度と距離をメモ紙で計算し
月の座標と地形情報を思い出しながら
豆粒単位の着陸地点を捉え
レバー一つで操縦した
課長はそんな最中、隣で頑張れ、頑張れと応援してくれていた
そんな奇跡の月面着陸を果たした、ばかりである


さっきの人生最高のハイタッチを返して欲しい


月面から眺める地球は恐ろしいほど美しい

こうなったら自力であそこに帰ってやる

コイツと二人であの奇跡をもう一度

          
          『奇跡をもう一度』

10/2/2024, 11:24:21 AM