田中ボルケーノ

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2/20/2025, 12:26:02 PM

故人を偲ぶという時間が割と好きである

もちろんいなくなったのは寂しいんだけど

ふ、とした時になんとなく

そう言えば、こんなこと言ってたなあ、とかつって

思い出したりして


例え泡が弾けても

その飛沫が

糸で結びつき

誰かとの繋がりを示してくれる


その巡らされた糸の中に立ち

幾度と思い出しては

私は生きる、ということの意味を

また感じるのである


            ひそかな想い

2/4/2025, 1:36:18 PM

今回のもハズレだったわ

あんなのの為に三ヶ月も費やして
私の人生計画狂っちゃったじゃないの

なあにが貴方を幸せにしてみせますだ、バカヤロウ

思い出して、流し込んだタバコが喉にひっかかり、むせる



初めて会ったあの日、彼はまだ9月なのにタートルネックで現れた

この季節にタートルネックを着てるのは彼かナダルぐらいだろう

初めて会ったけど、私に食いついたのはヒシヒシと感じる
そして、これはハズレだな、と一目で気づいてた

でも、なんとなく一生懸命な態度に
なんか無下に冷たくするのも感じ悪いし、仕事での不満とか愚痴とか
職場では言えない穢れがたまっていて
丁度いいわ、と思い切り吐き出してみた

彼はうんうん、と聞くだけで
あーしろ、こーしろとか言わず
ただ大変なんだね、と静かに頷いている

これまでは金も持ってないくせに
優位に立とうと偉そうに私にアドヴァイスしてくる男もいたから
なんとなく拍子抜けしちゃった

この日の一回限り、のはずが
また会えませんか、のメッセージに
次の相手を探すまでの暇つぶしに、と思い
それから何度か会うことになった

どうやら金はなさそうだけど
ただ愚痴を吐き出すのに丁度いいから

そんな気持ちで何度か、
それだけの気持ちだったのに


今日も待ち合わせで
いつもの場所で彼を待っていた、その瞬間

街中を歩いていた人が

突然、静止する

まるで世界がバグったみたいに

え?何事?と思うも束の間

爆音でBGMがかかる

ビートに合わせて
周りで静止していた人達が踊り始めた

この曲はたしかマイケル・ジャクソンのビリージーン

動きに妙にキレがある
練習していたかの様な動きだ

そして人の波をかき分けて
彼が現れた

いつものタートルネックを身に纏い
一際キレッキレのダンスを披露しながら
私に近づいてくる

その目には自信が宿っている

そしてその手にはこれでもか、という程の大きな花束

これは、マズイ
と気づいた時にはすでに遅かった

BGMが止まると同時に
エキストラも停止する

つかつかと、人を分けて
私の前に現れたタートルネックのマイケル・ジャクソンは
国道まで響くような高音で叫んだ


必ず貴方を幸せにしてみせます
僕と結婚して下さい

片膝をつくと私に花束を向ける


一瞬の静寂

冬の静けさが

永遠を誓う

その瞬間を

待っているようで

私は花束を受け取った


停止していたモブ達が一気に動き出す

その場の全員が

おめでとう、と言いかけたその刹那

私は受け取った花束を

右手に持ち替え

背筋に力を込め

思いっ切り踏み込んで

タートルネックの上を目がけて

全力で振り下ろした


恥ずかしいんじゃ、ボケ

チラチラと花びらが舞う


家に帰りタバコに火をつける

あんなのの為に三ヶ月も費やして
私の人生計画狂っちゃったじゃないの

なあにが貴方を幸せにしてみせますだ、バカヤロウ

なんで普通にしてくれなかったんだよ

普通でよかったのに


            永遠の花束

2/2/2025, 12:10:09 PM

あっさり
なんの前触れもなく
ぽっくり逝ってしまった

もちろん涙も流したが
あまりに突然で
なんとなく実感も沸かず
今に至った、という感じだ

1年はあっという間で
集まった親類から憐れみの言葉は頂戴したが
それは私に対してなのか
それとも何か一周忌という場面で
この場を取り繕う為に発言した言葉なのか
判然としなかった、けど

まあ、それなりの受け答えをし
儀式は滞りなく終わり
一人、閑散とした部屋で夫との想い出を噛み締めてみる

優しい人だった
亡くなった後に気づいたけど
私はかなり甘えていた気がする

言葉には出さなかったけど
私のワガママも全て受け止めてくれて

ありがとう

もう一年経つし
決めていた

整理をしよう
手放せなかった彼の遺物達
一年そのままだったけどきっと許してくれるだろう

なんとなく踏ん切りがつかなかったけど
思い切った方がいいんじゃない、との友人の言葉を頼り
容赦なく片付けることにする

大事な物は思い出として
私の脳内フォルダに仕舞いながら
ドンドン捨てる

粗方、整理が終わった頃
机の奥から一つ気になる物を見つけた

手紙
見知らぬ手紙

白い便箋に入っており
宛先は亡くなった夫で
裏を見るとカオリと書いていた
住所にハートつきで

表の消印は私達が結婚した次の年

どうやら便箋の中に折り重なって
3枚ほどのメッセージがあるようだ

見つかったのは夫の机の最深部
嫌な予感しかしないその中身に手を伸ばす

私の気持ちが沸騰石を入れ忘れたフラスコビーカーの様に一気に沸き上がる

中身がビシャッと飛び散る

フラスコから破裂音

裏切り?
カオリ?誰?愛とはなんだろう、思い出、破壊
二人の夢、悲しみ、なんで急に死んじゃたのよ、裏切り者、裏切り者、ひとりぼっち、寂しい、バカヤロウ

勝手に死ぬなんて

見ない方がいいと思ったが
友人の言葉を思い出す
思い切った方がいいんじゃない?て

意を決して
中身を覗く

全てが壊れる覚悟で
一文字ずつ追う


ダッダーン!ボヨヨンボヨヨン!
ビックリした?
吾輩の罠にゃろ~ん😸
お前がこれを覗くってことは
吾輩の愛がまだまだ足りないってことだね
これからもずっとお前と一緒にいてあげるから安心するにゃんね😸
ニャッハッハ😸

と、書かれてた


私は、チクショウ、と呟き
久しぶりに大声で笑った

   
            隠された手紙

1/31/2025, 9:43:30 PM

Uber Eatsで資金を貯めた
自転車で体力をつけながらお金も稼げるなんて
まさに一石二鳥じゃあないか

幼い頃からうっすら気づいていた
日本は俺には狭すぎるって
海を超え世界を股にかける
BIGな男、それが俺



単身で世界に乗り込み
JAPANにこんなスゲえヤツがいたのかよ
オーマイガと言わせてみせる

さて、手始めにどこに行っちゃおうかな
人生は短い、ちまちま小さな国とか回ってらんない
そうだよな、やっぱ超大国っていうぐらいだし、アメリカだよな

よっしゃ決めた
石破より先にトランプとタイマンしてくるわ

そしてついに資金がたまる
円安だろうが関係ない
飛行機に乗り込み海を渡る

空港に着くと案内される、こちらでーす、と
バスに乗り流れる景色に興奮する

右手に見えますのがアメリカ大統領が掘られた山でございます

おお、テレビでみたことあるわ
五人目で刻まれるのはきっと俺だな、とか

間もなくハリウッドでございます

ヤベー、え、もしかしてブラッドピットいるかもしれん、とか

次はロサンゼルスでございます

大谷くんに会えるかな、とか
ワクワクが止まらない

英語わかんないし、やっぱツアーガイド付きのプランにしといて正解だったわ


そして旅の途中で気づく

次はラスベガスでございます、とのアナウンス
バスの車窓を流れる真っ赤な大地
どこまでも続く大地に太陽が沈んでいく
いやあBIGだな、流石アメリカ
ラスベガスとかキラキラしてんだろうなあ、、、


て、これ、観光やないかーい☝


思い出した、俺は旅をしにきたんだった

ガイドさんに告げる
ここで降ろしてくれ、と

ダメだ、とか言うので無理やり降りることにした
バスをこじ開ける

ガイドさんが必死に止めにかかる
ツアー客から悲鳴が上がる

止めないで下さい
大丈夫、BIGな男になって帰ってきますんで、

運転手のアメリカ人はクレイジーとかいって爆笑している

俺は人差し指を突き立て

JAPANなめんな
俺の顔をよく覚えておけよ

と言い残し、バスから飛び出した

荷物は全部置いてきた
陽は沈み西も東もわからない

俺はアメリカの赤い大地に立ち、震えている
やっとである
ようやく手に入れた

俺の人生は今、ここから始まるのだ、と


             旅の途中

1/30/2025, 12:33:59 PM

瞬間、心が乱れる

足が震え言葉が出てこない
予定にない客
頭にサイレンが鳴り響き
非常灯が思考を赤く染める

落ち着け
ここで降りるわけにはいかない

心臓の鼓動を感じながら
紅潮した顔を緩める
静かに息を吸い込み
腹に力を込めはっきりとした言葉で
ゆっくり伝えた

お客様、折角お越し頂きましたところ
大変申し訳御座いませんが、
本日、システムトラブルの為、ご案内ができない様です
恐れ入りますが日を改めて頂けませんでしょうか

誠実に、申し訳ないという顔を作り上げる

客が、それなら仕方ないですね、と言って自動ドアから出て行く姿を見届ける

汗が噴き出る
膝の力が抜け椅子へ滑り落ちた

今回は危なかった、
もう勘弁してくれよ、
だが流石、俺
自然だった、よし、良かった、ああ助かったあ


仕事から帰ると、妻に声をかけられる
お帰りなさい、ねえさ、今度の週末、旅行にいきたいな、とか

愛想良く返事をする

いっそ海外とかいっちゃう?
妻はキャアと喜んだ

仕事が残ってると言い
部屋へ入るとすぐにメモをチェックする
もはや日課になっていた

記録
一つでもどこか狂えば
最終最後、破壊される

PCで今日の成果を確認するが
またチャートは下降線で
明日の計画を立て直す

プラスじゃなくていい
ゼロでいい
元に戻ればいいのだから

俺ならきっとやれる

誰にも知られず
失ったものを取り返すまで

原資はまだある

今はダメでも
いつか必ず
ゼロに戻せる

君と二人で
幸せな日々を


           まだ知らない君

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