学校帰りいつもの公園で
いつものように一郎とキャッチボールをしていたら
いつのまにか今日も陽が沈み始めていた
やっべ、また母ちゃんに叱られる!
顔を見合わすと二人で笑って土手沿いを走って家路を急ぐ
土手を流れる河と向こう岸の間でカラスが夕焼けにたなびいていた
あれ?おい、ちょっと止まって
後から走ってきた一郎を止めると
あれみろよ、と指さしで教えた
河岸を一人眺めてポツンと体育座りしている後ろ姿、どうにも背中が寂しい
あれさ、田中じゃね?一郎と確認する
白いTシャツ、黒のジャージ、体育座りのまま、なんか河に石を投げてうな垂れているその男
遠目にもあれは我が母校の熱血教師、田中に見える
ちょっと近づいてみんべ、
こっそり近いてみる
近づけば近づくほど田中、どうやら間違いない
熱血すぎてボルケーノの異名がついた、あの田中がなぜか、河辺に夕焼けでたそがれている
なんとなく察する
一人になりたいんだろう、と
声をかければ一線を越えてしまうかもしれない、でも僕らは声をかけた
先生、何やってんの?
一瞬、田中の背中が反応した、
ゆっくり振り返り平静を装っているのがわかった
お、おう!小谷と鈴木じゃないか、お前らこそなにやってんだ、こんな時間に
帰り道だけど、
ていうか先生さ、今、たそがれてたよね?
石とか投げてたでしょ、なんでたそがれてんの?
せ、先生はたそがれてないぞ、別に
河の石の分析をしてたんだ、物理学的によく跳ねる石はどれかなあ、つって
ピョンピョン飛ぶやつを探してたんだ、ピョンピョンて
田中は明らかに動揺している
我々はその一瞬の隙を見逃さない、まず一郎が先陣を切る
ははあん、先生さては
やられたな、上から、こっぴどく
恐らく教頭あたりでしょ
な、なに?なんだと?
段々見えてきましたよ
恐らく熱血漢の部分、先生、以前語っていましたよね
令和だろうが教育は熱くありたい、と
その周辺に不具合が見えます
先生が持つポリシーと時代との不調和、不協和音
恐らく、あまりに熱い先生の教育スタイルが環境にそぐわず
現場監督である教頭あたりから指摘があり、自身の理想と教育現場の矛盾で思い悩んでいる
教頭はあまりに熱血なのを好まない、
なぜなら保護者からは普遍的な教育者を求められ、先生の様に尖った教育感をお持ちの教師は現場監督からは目の上のたんこぶ、であることに気づいた
先生は保護者なんかより子供に寄り添いたい、が、
今の時代保護者を無視すればそれは職業教師としては死を意味する、自分の信念と現場とのギャップに思い悩む
そんなところではないでしょうか?
鈴木、な、なぜそれを、
そしてバトンは一郎から僕に渡された
先生、たそがれるのをやめましょう
学校に乗り込むモンペアがいたり、教室を見れば教師をバカにする生徒がいるし、
弱い者イジメは後を絶たず不登校は当たり前、教師をやっていたら誰しも聞いたことがあるような問題があると思う
だが、たそがれてしまっては超えられないので、
僕らは今日超えるために、先生がトップになるために来たので
先生だけはたそがれを捨てて、勝つことだけ考えていきましょう
こ、小谷、お前、、
河辺から見えた
大地が陽が飲み込む最後の瞬間
今年一番の炎で燃えさかり
僕らの顔を赤く照らした
『たそがれ』
10/1/2024, 2:11:35 PM