亡くなったおじいちゃんに会いたい
幼い頃にもう2度と会えなくなったおじいちゃん
一緒に過ごした記憶は薄れていくばかり
それでもはっきり覚えていることがある
小学校入学のタイミングでもらった学業守
物を無くしやすいわたし
でも今もそのお守りだけは手元にある
もう温もりもあまり覚えていないのに
声もはっきり思い出せないのに
なぜか、恋しくてたまらない
会いたい
どんな人かな
この思いは空にも届いていますか
10月31日🎃木曜日
No.5 【理想郷】
絵画に人生をかけ、
絵を描くことに全てを捧げた人が描いたであろう作品がたくさん並んでいる。
作者はこの絵にどんな想いを込めたのだろう。
いったいどれだけの時間をかけたのだろう。
そんなことを考えながら足を進める。
はやく彼女の作品に触れたくて次第に足がはやく動く。
一段と輝いて見える彼女の作品の前に立った。
僕は今日、一ヶ月前に病死した元恋人の最後の作品
––つまり遺作を見にきていた。
彼女は絵を描くのが好きだった。
まだ高校生3年生の僕たちは中学2年生の時に病院で出会った。
僕はその時、癌で入院していたおばあちゃんのお見舞いにきていた。
おばあちゃんの検査を待つ時間、僕は病院の待合室で当時ハマっていた絵を描いていた。
そこに声をかけてくれたのが彼女だった。
会ったばかりの僕に友達がいないと涙目で話した彼女の意図はすぐに読み取れた。
きっと、僕と友達になりたいんだ。
そこから、僕はおばあちゃんのお見舞いのついでに彼女の病室も訪ねるようになった。
僕たちは思ったよりも仲良くなり、高校に上がると同時に彼女に告白され、僕はそれを受け入れた。
僕には彼女と過ごす時間がとてつもなく大事なものになっていた。
好きなものも嫌いなものもほとんど同じで、
とにかく気が合った僕たちの交際は順調だと僕は感じていた。なにより、僕が彼女のことを好きでなくなるなんて想像もできないし、彼女の方がそうなることも考えられなかった。それくらい僕たちはお互い相手を愛してたと思う。
そんな幸せの日々が終わりを告げたのは、急のことだった。彼女はいつものように絵を描きながら僕と話をする
「今日はなんの絵を描いているの?」
いつものようにそう尋ねる。
彼女はキャンバスから目を離すことなく口を開いた。
「わたしの理想の世界」
「理想の世界?」
僕もキャンバスに目をやる。
白のワンピースを着た少女が雨に打たれながらこちらに笑顔を向けている。でも、空は明るく、虹がかかっていた。
「これ、わたし。持病がなかったらこんな息苦しい場所に閉じ込められないで、真っ青な空の下で自然いっぱいの大地を駆け回りたい。それでね、雨に打たれてみたいの。全身で自然を感じたい。」
「うん。素敵な夢だね。」
僕は優しく彼女にそう言った。幼いときからほとんど病院で育った彼女の息苦しさは誰も想像できないものなのだろう。
彼女は驚いたように僕を見つめる。
そしてすぐに視線を逸らし、再びキャンバスを見る。
「夢か…。あのね、私話したいことがあるの」
そう言って僕を真っ直ぐ見つめる彼女は絵を描くときのように真剣な表情をしてた。
「どうしたの?」
普段と違う彼女の表情に違和感を覚え、無意識に背筋が伸びる。
でも、彼女はなかなか話そうとしない。
静かな時間が2人の間を流れる。どうしたの?ともう一度聞こうとしたそのとき彼女はゆっくりと話し出した。
「私、あなたと別れたい」
彼女の口からこぼれた言葉は想像もしていなかったものだった。
僕は驚いて固まる。
そんな僕を横目に彼女は話し続ける。
「本当はね、好きじゃなかったの。あなたのこと。
私にはずっと、友達がいなかった。ずっと一人だった。でも、少女漫画読んでいるうちに恋人とか友達とか羨ましくなっちゃって。その時にあなたと出会ったの。」
彼女の口からは信じられないことばかりが溢れる。
僕はずっと騙されていたのか、。
「でもね、私病気治るかもしれないって。病院の先生がね、腕のいい医者を紹介してくれたの。だから私、あなたとは別れて心から好きだと思える人を自分の足で見つけに行きたい。」
「ごめんね」
その言葉の後彼女は何も発しなくなった。
最後の強がりだった。
「そっか。お幸せに。」
今まで騙されていたことへのショックと怒りでそれしか言葉が出なかった。僕はわざと強めに病室のドアを閉めて家に帰った。
自分の部屋に着くと、すぐさまベットにダイブする。
我慢していた涙がポロポロと止まることなく流れる。
––––それからニ週間後のことだった。
彼女の母親から彼女がこの世界を旅立ったことを伝えられた。
作品名【理想郷】
わたしには幸せになって欲しい人がいます。
だからわたしは理想の世界でしかあなたを望みません。
病院でみたあの絵だった。
真っ白なワンピースを見事に着こなし、綺麗な髪をなびかせて満面の笑みを浮かべる少女。
その隣であの時描かれていなかった
傘を持った少年が彼女と幸せそうに笑い合っていた。
10月30日 水曜日
No.4【懐かしく思うこと】
憂鬱な仕事場に向かう木曜日。
毎日の日々に変化はなくて、そろそろ飽きてきた。
聞き慣れたアラーム音が聞こえる。
重い瞼を開けて時計を確認する。
針はいつもの数字を指す。
鏡にうつるいつもの冴えない顔。
ふと思い出して、自分のカバンを漁る。
カバンの奥底から親友にもらった有名ブランドの新作リップを取り出した。
開けてみると、自分が思ったよりも真っ赤な色だった。
「アンタはさ、冒険をしないからいつまでもかわらないんだよ。新しいことにビビってないで少しはいつもと違うことをしてみた方がいいと思うよ。」
親友の言葉が思い出される。
わかってた。自分はビビリで臆病だから、難しいことや慣れないことから逃げて生きてきたことぐらい。
でも、これでいいんだ。
あの時、わたしはこのまま生きていこうと決めたから。
慣れないことはしない。
ため息をついてリップの蓋を閉める。
少し乱暴にカバンの中に投げ入れた。
なんの変化もない日々の中で過ぎていく時間。
わたしはこの先も毎日変わらない日々を過ごして年老いていくのだろうか。
毎日さらにわたしの気分を下げるのが、
人でいっぱいの駅、満員電車
すれ違う人を見る。
酔っ払いのおじさん。
派手な化粧に笑顔で会社に向かう若者。
わたしのようにいかにも憂鬱そうな人々もいる。
あとは……
「え?先輩、?」
すれ違った男の人を見て、思わず声が出た。
男の人は立ち止まり、振り返る。
「あれ?君、もしかして…」
驚いた。
目の前にいるのはわたしの”初恋の人”。
高校の時、仲良くしてくれた先輩。
「久しぶりだね。」
そう笑顔でいう先輩は、わたしと違って何も変わっていなかった。
心臓の鼓動がはやくなる。
わたしの気持ちはあの時と変わらないみたい。
先輩とは少し会話を交わして別れた。
ずっと忘れられなかった大好きな人。
先輩の卒業が間近だったある日、わたしは先輩と言い合いになってしまい、卒業おめでとうございますと伝えることはできなかった。
卒業式の日、ちゃんと謝って自分の想いを伝えようとしたが、臆病なわたしは何もできなかった。
あの時気づいたのだ。
ここで何もできないわたしは、このまま生きていくしかないのだと。
懐かしく思うこと。
毎日がワクワクしたあの青春の日々。
もう戻ってこない。
––––いや、戻すこともできるのかもしれない。
「今日から職場が変わってこの近くに住むことになったんだ。」
そう先輩は言っていた。
その言葉がなんの変化のない日々に一筋の光を刺したように私は感じた。
これはチャンスかもしれない。
心のどこかで変えたいと思っていたわたしの人生を変えるための。
「ちょっと頑張ってみようかな、」
いつか今も変わらず大好きな人と一緒にあの青春を懐かしむ日が来ることをわたしは願う。
もしそれが叶わなかったとしても、その苦い思い出すらも懐かしめるように頑張って生きればいい。
カバンから真っ赤なリップを取り出す。
スマホの内カメラで確認しながら丁寧に唇に色付けた。
「よし。」
いつも憂鬱な木曜日。
でも今日はいつもとは違う木曜日。
忘れかけてた懐かしい輝きが一日を変えてくれた。
真っ赤に色づいた唇を引き上げて笑顔を作る。
こころが晴れやかになった気がした。
わたしはキリッと背筋を伸ばし、
人でいっぱいの電車に足を踏み入れた。
10月30日 火曜日
No.3 【もう一つの物語】
「お母さん、私ね今度ある重要な仕事を任せて貰えたんだよ。直接伝えてあげたかったな。」
50代にしてシミひとつない母の綺麗な頬を撫でる。
頬からはいつもの温もりが感じられない。
数時間前亡くなった母の頬は冷たかった。
「私ね、とっても幸せだったの。お父さんがいない分たっぷり私のことを愛してくれて、ありがとうね。」
私の父は私が幼いときに病気で亡くなった。
母は女手一つで私のことを育ててくれた。
そんな母が病気にかかっていると知ったのは、数週間前のこと。病気の存在がわかったのは3年も前だったけれど伝えられていたのは母の兄だけで、私は何も知らなかった。
「伝えてくれてもよかったのにな…お母さん。」
本当はなんでそんな大事なことを私に伝えてくれなかったの、と思ったけれど
「俺も伝えた方がいいって言ったんだけどね。絶対に言わないでくれって。あの子は優しい子だから私が病気だと知ったら、仕事に集中しなくなると思うの。あの子には夢を諦めてほしくないってさ。」
とおじさんから母の想いを聞いて、母を責められるわけがない。
今日は母と2人で過ごす最後の日。
安らかに眠る母の隣で遺品を整理する。
母は自分がもうすぐだと気づいていたらしく、身の回りの物は全て整理してあった。
“私の生きた証”と書かれたダンボールから一つ一つ丁寧に物を取り出す。
箱の中は、私が母にあげたものばかりだった。
幼稚園で描いてあげた家族三人の絵や、中学卒業に書いた手紙。
どこもよれることなく綺麗にしまってあった。
「私、愛されてたんだな…」
父がいなくても寂しさを感じることはなかった。
それは、母がその分私をたくさん想ってくれたからだろう。
ふと、見覚えのないものをみつけた。
小さな箱を開けると、出てきたのは
二つのブレスレット
黄色とピンクの安いビーズで作られたものと、
水色と白のストーンでできた少し高そうなもの。
黄色とピンクのビーズでできたいかにも安そうなブレスレットは、私がまだ小さい時に父と母の日に作ってあげたものだ。懐かしいな…
でも、もう一つのブレスレットは見覚えがなかった。
不思議に思いながらも、そのブレスレットを箱にしまう。おじさんに聞けば、知っているかな?私はその箱を自分のカバンにしまった。
大切な思い出のある黄色とピンクのブレスレットを母の手に持たせてあげた。
あら、もうこんな時間。明日に備えて今日はもう休むことにしよう。
–––––翌日、母の葬儀は小規模で主に家族だけで行われた
母に最後の挨拶をして、火葬場へと移動する。
葬儀場の外に出ると、何か視線を感じた。
視線の方に、目を向けると背の高い男の子人が立っていた。
こちらを悲しそうな顔で見ている。
知っている人かな、そう思い、会釈をしようとしたが、
私とは目が合っていなかった。
母の入った棺をずっと見つめている。
遠くからはよく見えなかったけれど、その瞳は涙がたまっているように見えた。
しばらく棺を見つめると、静かに手を合わせて去っていった。
なんだったのだろうと思い、再び足を進める、
––––はっとして、また歩くのを止める。手を合わせた男の人の腕には、見覚えのあるブレスレットが付いていた。
母との昔の会話が蘇ってくる。
「ママ、1人でごめんね。ねぇ、パパいないと寂しい?」
ある時、母にそう聞かれた。
私はなんで答えたんだっけ、、、。
「なんでそんなこと言うの?パパいなくなっていない。ずっといるよ。私にはパパがずっとパパだもん。」
急いでカバンから小さな箱を取り出す。
黄色とピンクのブレスレットを大事そうに持つ母の手に水色と白のブレスレットも持たせてあげた。
「伝えてくれてもよかったのにな…お母さん。」
これは、私の知らない母の人生のもう一つの物語。
「私、どこまでも愛されてたんだな…」
今にもあふれて溢れていまいそうな涙を抑えて上をむく。
空はどこまでも青く、広かった。
10月28日 月曜日
No.2 【暗がりの中で】
夢を見ていた。
2年前に亡くなった両親と近所の公園で遊ぶ夢。
この夢を何回見たことだろう。
はじめは夢だと気づかずに淡い期待を抱き、目覚めてはじめて幸せの感情が夢の中だけだったことに気づく。
目覚めてしまえば、いつもの暗がりの中。
毎回タンスに寄りかかり、木の温もりを感じながら涙を流していた。
両親が急な交通事故で亡くなってから、2年。
祖父母のいない私は、顔も知らない親戚にたらい回しにされた。
母と仲の悪かった母の姉が週に一度うちに来て必要なものを揃えて帰っていくだけ。
それでも、生きていられるのはおばさんのおかげだから、わがままなんていってられない。
それに、私の親はママとパパだけ。
他の人なんていらない。
「どうしたの?そんな暗い顔して」
ママの優しい声がしてはっと顔を上げる。
私はブランコに座っていた。
「どこか具合が悪いのか?」
パパの低くかっこいい声が聞こえる。
これも夢。目覚めれば私は1人孤独だ。
「どうして?どうして私を置いていったの、」
気づけば私はパパとママにそう言っていた。
ママはびっくりしたようにパパの方を見る。
パパは私を見つめて固まっていた。
その瞳を真っ直ぐ見つめ返す。
パパの綺麗な茶色の瞳に輝くものが溜まっていく。
「頑張って、生きてくれ」
パパは今にも消えそうな声で弱々しくそう囁いた。
瞳に溜まった輝きが頬に流れていた。
––––はっとして意識が戻った。
重い瞼をゆっくりと開けた。
あたりは真っ暗で…
でもいつもの暗さとはどこか違った
孤独を感じさせる真っ暗な部屋にカーテンの隙間から少し差し込む太陽の光は、まるで「ちゃんと前を向きなさい。未来は明るいよ。」といっているようで大嫌いだった。
でも、そんな光はこの場所には見えない。
あたり真っ暗で自分の足元すらも見えない。
暗闇を手探ってみる。
いつも横にあるはずのタンスがない。
真っ直ぐと前を見つめる。
どこまでも真っ暗で何も見えないのだけど、なんとなくこの先にずっと求めていた”光”があるように感じた。
なんとなくだけど、絶対にこの先にある。
私が求めていたのは明るい未来じゃない。
私はこの世にたった二つしかないその光を求めて
暗がりの中を歩き出す。
暗がりの中で大好きな声が聞こえた
「生きてくれ」
胸がギュッと苦しくなって目に涙が溜まる。
でも、歩き出した足を止めることはできなかった。