「まだ見ぬ景色」
何も書かれていない白紙の紙を見つめる。
大きなため息が出た。
目を少し上にやると"進路希望調査"の文字。
僕にやりたいことなんてない…。
「お前、まだ悩んでたのか?」
急に声がして驚いて顔を上げると、教室の扉の隣に担任の松村先生がいた。
「…先生はなんで教師になったんですか?」
「俺は、やりたいことがなかったからだ。」
先生の言葉が理解できない。
「どういうことですか、?」
先生が外の空を見つめながら、何かを思い出すようにゆっくり話し始めた。
「俺もさ、お前みたいにギリギリまで悩んでたよ。自分のやりたいことなんて見つからないって思ってんだ。」
「でもさ、気づいちゃったんだよな。
やりたいことが一つも見つからないのは、もう決まっているからなんじゃないかって。」
「決まってる…?」
「うん。」
「俺、ちっさい時は教師が夢だったんだ。でも、成長していくうちに現実見るようになって、無理なんじゃないかって思うようになって、その夢には蓋をしてたんだ。」
「そうなんですね。」
「俺はさ、大変だったけどあの時勇気出してみてよかったって思っているよ。」
「お前も、同じなんだろ?」
「え?」
「どうしてもやりたいってことが心の底に眠ってるんだろ」
先生の言葉にハッとする。
「人間、案外いろいろできるもんだよ。
まあ不安で逃げたくなっちまうのもわかるけどな。
でもなぁ、まだ見ぬ景色見てみたくねーか?」
今まで見たことのない真剣な顔でそう言った後、
先生は職員室へと戻っていった。
まだ見ぬ景色
果たして自分にも見ることができるのだろうか。
そんなことを考えながら窓の外に視線を向けた。
空が青い。
当たり前のことだけど、初めて見る青な気がする。
そうか、空の青色は毎日少し違うのだ。
2度と同じ青を見ることはできない。
明日になればまた別の青が広がる。
よくわからないけど、そんな空を見ていると自分は何にでもなれるような気がする。
僕は姿勢を正してペンを握った。
1/13/2025, 4:18:12 PM