8.3g

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「まだ見ぬ景色」






何も書かれていない白紙の紙を見つめる。
大きなため息が出た。



目を少し上にやると"進路希望調査"の文字。
僕にやりたいことなんてない…。


















「お前、まだ悩んでたのか?」
急に声がして驚いて顔を上げると、教室の扉の隣に担任の松村先生がいた。

















「…先生はなんで教師になったんですか?」  

















「俺は、やりたいことがなかったからだ。」














先生の言葉が理解できない。














「どういうことですか、?」
















先生が外の空を見つめながら、何かを思い出すようにゆっくり話し始めた。
















「俺もさ、お前みたいにギリギリまで悩んでたよ。自分のやりたいことなんて見つからないって思ってんだ。」




















「でもさ、気づいちゃったんだよな。
やりたいことが一つも見つからないのは、もう決まっているからなんじゃないかって。」
















「決まってる…?」












「うん。」





「俺、ちっさい時は教師が夢だったんだ。でも、成長していくうちに現実見るようになって、無理なんじゃないかって思うようになって、その夢には蓋をしてたんだ。」









「そうなんですね。」












「俺はさ、大変だったけどあの時勇気出してみてよかったって思っているよ。」






















「お前も、同じなんだろ?」


















「え?」
















「どうしてもやりたいってことが心の底に眠ってるんだろ」


















先生の言葉にハッとする。















「人間、案外いろいろできるもんだよ。
まあ不安で逃げたくなっちまうのもわかるけどな。
でもなぁ、まだ見ぬ景色見てみたくねーか?」
















今まで見たことのない真剣な顔でそう言った後、
先生は職員室へと戻っていった。


















まだ見ぬ景色

果たして自分にも見ることができるのだろうか。

そんなことを考えながら窓の外に視線を向けた。








空が青い。

当たり前のことだけど、初めて見る青な気がする。






そうか、空の青色は毎日少し違うのだ。




2度と同じ青を見ることはできない。




明日になればまた別の青が広がる。









よくわからないけど、そんな空を見ていると自分は何にでもなれるような気がする。






僕は姿勢を正してペンを握った。

1/13/2025, 4:18:12 PM