ぽつぽつと雨音を楽しみながら本を読む。
久しぶりの雨だ。
私は、寂れた古民家で煙草屋をやっているのだか、こういう日はお客さんが少ない。
が、雨の日にしか来ない人もいる
「こんにちは。お兄さん」
「こんちわ」
雨の日、いつものように雨宿りをしに来ているお兄さん。
黒いスーツにサングラスという柄の悪さだが、話してみれば礼儀正しい青年だ。
「今日も雨だね。はい、タオル」
「サンキュー」
「気にしないで」
お兄さんが来るであろう事を見越して、雨の日はタオルを用意する。これも習慣になってるね。
「さて、雨が止むまでどんな話をしようかね?」
「俺はあんたの話を聞きたい」
「私の話は前回しただろ?次は君の話だよ。mtdくん」
「名前で、呼んでくれよ」
「もう少し親しくなったら、呼んであげる」
お互いに口には出さないが、暗黙の了解で、雨の日にしか会えない。
「俺のどんな事を聞きたいんだ?」
「そうだね、好きな食べ物は前回聞いたからね。好きな事はなんだい?」
こんな、曖昧な関係を私達は気に入っている。
◯月×日
新!!学校生活
(大学卒業して、何が悲しくて学校生活をまた過ごすしかないんや)
◯月×日
イケメン5みたいな奴らがいた。
(黒毛玉マジで喧嘩売りやがって…ぶっ飛ばす。ぜってぇに泣き見せてやる)
◯月×日
イケメン5何らかしら問題を起こすから、退屈しないわ
(モジャ公が失礼なことを言いやがったから、顔面に一発喰らわしてからなんか様子がおかしい)
◯月×日
疲れた。疲れた。疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた…
◯月×日
モジャ公がやたらと絡んでくる。なぜだ?
そしてなぜか、私の好きなものを買ってくる…なぜ?
◯月×日
クソ忙しくて日記書けなかったわ。
マジで多忙…そう言えばmtdから、好きって言われた…なぜだ?なぜ私なんだ??
◯月×日
mtdに付き纏わられてる。いや、断ったんだよね?断ってるのにメンタル強くね?
◯月×日
試しにmtdと付き合ってみる。
◯月×日
アイツ…めっちゃ紳士やん…え?悪ガキみたいな感じなのに
◯月××日
mtdの事だんだんと好きになって来てる。……なぜだ?
◯月××日
初めて自分から好きと言ったら思いっきり抱きしめられた。
あれだね…抱きしめられるのってなんかいいね。mtd汗臭くなくて爽やかな匂いしてたわ…
◯月×××日
無事に学校卒業!!やっと終わったぁあぁぁあーー!!
やっほほほほほー!!!!
(mtdに会えなくなるのは少し寂しいけどお互いに頑張っていこう)
*•*•*・*•*•*・*•*•
「…」
「jnpi!!何人の日記読んでるの!!」
「今とそんなに変わってないよな…お前」
「ぶっ飛ばすぞ」
「そういうところ」
「「パパ〜なにみてるのー??」」
「ん?ママの日記」
「……」
「「ママーがパパの事を蹴り飛ばしたー」」
向かい合わせ
青いワンピースを着て、頭には麦わら帽子を被ってはある所に向かう。年に一度、必ず向かうところ。
「今日はいい天気だ〜」
桔梗の花が当たり一面に咲いている。
今年はこの花なんだね。
「今年は白いテーブルに白いチェア…センスいいねぇ。あ!私の好きな紅茶だ」
この紅茶飲んでみたかったんだよね。欲を言えば、お菓子も食べたかった。買ってきてくれないかなぁ…そんな事を考えながら、チェアに座り花畑を眺めていると後ろから懐かしい声が聞こえた。
「久しぶりだな」
「jnpi!!…柄悪」
「うるせぇよ」
着崩した黒いスーツ姿にサングラスって…ガラ悪いなぁ…。
「相変わらず警i官には見えないね」
「うるせぇよ」
「痛っ!!暴力反対!!」
「暴力じゃねぇよ。教育的指導」
「うぅうぅ」
「唸るなよ」
jnpiはテーブルを挟んだ前の席に座っては、こちらを見て笑っている。そして、「可愛い顔が台無しだから、さっさと機嫌を直せよ」と言って頭を撫でた。もう、誰のせいで怒ってると思ってるのよ
「あ、jnpiこの紅茶ありがとうね」
「気に入ってくれたか?」
「うん。我儘を言えば後でチョコレートケーキ食べたい!!」
「あー…冷蔵庫に入れっぱなしだったな。後で出すわ」
「やった♪楽しみにしてるね」
「おう」
花の甘い匂いが香る中でお互いに最近起こったことを話した。jnpiは、新しいパートナーのstuさんの事や、新しく後輩になったtkgさんの事を話している。なんでも、二人はお互いに気が合うくせにいつまで経っても付き合わなくて焦ったいとか言ってる。
「全く。さっさと告っちまえばいいのによ」
「それ…jnpiが言うの?」
「……」
バツが悪そうにあさっての方向を向いている。彼の頬をムニムニと摘むとジロリと睨まれる。怖くないよ。
「私達もお互いに惹かれあってたのに、素直にならなかったからね。まぁ、最終的に私が先にjnpiに告ったからねぇ〜」
「…お前の場合は言い逃げしたじゃねぇか」
「だってー」
「俺はお前にもっと、いろんな事を言いたかった。もっと好きだって言いたかったよ」
「jnpi…」
「…俺は今でも、お前が好きだ。この想いは変わらない」
真っ直ぐな眼差しで、そんなこと言わないでよ。
もう少しだけ、ほんの少しだけ、ここにいたいって思っちゃうじゃん。
「私は幸せになって欲しいんだけど…」
「お前を思うことが俺の幸せなんだよ。何度も言わせんな」
「もう…何遍言っても頑固だよね」
「諦めが悪いんでな。お前も知ってるだろ」
jnpiは私の頬に手を伸ばしては、優しく撫でた。
あったかいなあ…大好きなjnpiの手だ。
「うん。知ってるよ」
目を瞑ってjnpiの温もりを感じる。もう少しだけ居たかったけど…残念ならが時間だ。
「jnpi、そろそろ時間だよ」
そう告げると一瞬だけ悲しい表情をしたと思ったら、jnpiは目を閉じていつものように笑顔になってくれた。
ありがとう
「来年も…来てくれるか?」
「うん。あ、来年はケーキ忘れないでね」
「おう」
「体に気をつけてね。あと、煙草の吸い過ぎも駄目だからね」
「…」
「jnpi?」
「分かった。気を付ける」
「よろしい」
満面の笑みを浮かべて私は、jnpiの額にキスを落としてた。
*•*•*・*•*•*・*•*•*
カーテンから差し込む光の眩しさで目を顰める。
もう少しだけ、一緒にいてくれてもいいだろうに…
気だるい体を起こしてはリビングに向かう。いつもだったら洗面台に行くんだが、今日は顔を洗うより先にやる事がある。
「約束のチョコレートケーキだ。出してなくて悪かったな」
桔梗の花瓶を少し動かしてはケーキを隣に置く。
顔洗ったら新しい紅茶も淹れるから待ってろ。
「来年は口にキスをしてくれよな」
笑顔を浮かべている写真に言うも返事はない。
また、来年逢おうな
やるせない気持ち
クッションに顔を埋めて涙を流す。
もう、綿が出るんじゃないのかってぐらいに抱きしめ、爪を立てる。
「うううっ……」
「泣くのやめろよ」
「だってええぇ」
そんな私をjnpiは慰めるように頭を撫でたりしている。「ソフトクリーム食べに行くか?」子供扱いするなよおぉ!!
「……俺のタキシード姿見られないくらいで泣くなよ」
「ぐらいってなに!?私マジで一度も見られなかったんだよ!!写真撮ってって言ったじゃん!!」
「……」
そんなに哀れんだ目で私を見ないでよ!!もじゃもじゃ馬鹿!!
「はぁ…」
「今めんどくさいって思ったでしょ!!」
「あー!!泣くなよ泣くなよ!!思ってねぇから!!」
覆い被さるように抱きしめられては、jnpiは膝の上に乗せては背中をポンポンと叩いている。だから子供扱いするな!!
「ううぅ!!」
「お前が望むなら、いつで着てやるから」
「……本当に?」
「本当に」
「…なんでも着てくれる?」
「なんでも?」
「やっぱり…っ!!」
「着る、着るから。だから泣きやめって!!」
「写真…撮っていい?」
「……」
「うく゛っ…やっぱりぃ」
「お前の好きにしていいから!!泣くなよ」
証言はとったよ…jnpi。
海へ
あまり人通りのない抜け道を通っていつも腰掛けている岩場にいく。サンダルを脱ぎ、足を海の中に入れる。暫くするとするりと足になりかが触れた。あー、今日も来てくれたのか。
「こんには。晋作」
「なぁ…いつになったら、こっちに来てくれるんだ?」
「第一声がそれか……何遍も言ってるだろ。行かないってば」
「ふん。つまらんな」
ばちゃっと水面を尾鰭が叩いた。
当たるからやめろ。
「つまらん。つまらないな」
「飛沫が当たるからやめてくれると助かる」
「しらん」
そう言いながら、俺の膝の上に乗らないでください。
重いし、めっちゃ濡れる。
「重い」
「ふん」
胸元に顔を埋めるわ。額を肩口に擦り付けるは、本当に可愛い事で…
彼を助けたのはもう何年になるか…いつも通り海辺を散歩していたら網に引っかかっている彼がいた。彼は普通の人とは違い。下半身が異様だった。翡翠のように美しい鱗と魚のような尾を持っている。平たく言えば“人魚”だった。
「俺の肉を食べれば、俺と一緒になれるのに…なんで、なってくれないんだ?」
「君に痛い思いをして欲しくないね」
「…あんたと一緒にいられれば、我慢できる」
「晋作」
「あーあ、アンタが俺を食べてくれないから……俺が人になるしかないかね」
「それはダメだ」
「なんでだ」
「君の美しい子の脚を見れなくなるのは…惜しい」
彼の綺麗な脚を撫でる。本当に綺麗だ。
「んっ」
「君が海の中を自由に泳ぐ姿も好きだしね」
「だったら、もっと近くで見てくれよ」
両手を首に回してぐいっと顔を近づけられる。
本当に綺麗だ。
「あんたが好きだ…俺だけのあんた…」
あぁ、私はあと何回君の誘惑に勝てばいいんだろうか…
そろそろ負けそうで怖いよ。
蕩けた顔を着ているくせに、その瞳は虎視眈々と獲物を狙っている。