裏返し
「なんで!!何も言わないんだよ!!」
「落ち着きなさいよ。mtdくん」
いつも落ち着いた声のあんた。
どんな状況でも冷静沈黙で、声を荒げたこともない。
「先輩は、なんでそんなに落ち着いてられんですが」
「ん?」
「今回と事i件はっ、あんたの…」
先輩の家族が事件に巻き込まれた。強盗に入られて家族は惨殺された。それなのに夢主さんは感情を露わにしないで淡々としていた。
「あの捜査からも外されて」
「mtd。身内の捜査の場合外されるのは決まりだ。それは君も知ってるだろ」
「だけど!!」
「…私は信じてるよ。同僚達が捕まえてくれるって」
笑顔で肩を叩かれて、先輩は喫煙所を出て行った。なんであんなに落ち着いてるんだよ。現場に来た時も表情ひとつ変えなかった。
「俺がっ、俺が必ず捕まえてやる…」
あの人の為にも必ず
「……捕まえられるって、期待してるよ。mtdくん」
まぁ、捕まえたら
その時が最期なんだけどね…
君と一緒にいられるのは一体いつまでなのかな?
君と私は裏返しの存在だもんね。
鳥のように
「死んだら、鳥に生まれ変わりたいな」
「は?」
久しぶりの休みだから、公園でご飯を食べよう!!と張り切って、朝早く起きて弁当を二人で作ったのに、何つうこと言ってるんだよ。お前
「馬鹿なこと言うなよ」
「えぇーだって鳥になったら自由に空を飛んでいけるんだよ」
「あっそ」
「jnpiは、何に生まれ変わりたい?」
「……人がいいな」
「えぇ…マジで」
「文句あんのかよ」
もし、次があるなら…また、お前と一緒にいたい。
小っ恥ずかしくて面と向かって言えねぇけどな。
「てか、アホなこと言ってねぇでささっと飯食え」
「はーい…って、jnpi!!ソレ!!取って置いたのになんで食べるのよぉ!!」
「さっさと食わねでのが悪い」
「あぁ!!タコさんウィンナーはダメ!!」
数ヶ月前まで、そんな会話をしていたのに…
なんで、なんでだよ。
「……癌」
「うん…ステージ3、だって…いや、気付かないもんだね。沈黙の臓器とはよく、言ったものだ!!」
いつもの様に笑っている夢主。なんでそんなに笑えるんだよ
「……だ、治るんだろ…治療とか」
「…確率は低いって」
「なに、諦めてるんだよ」
「これが、私の運命だったて…諦めるよ」
「ふざけんな」
「……、どう、足掻いても無理なんだよ」
「っ、諦め「jnpi」
血が出るほど握りしめている俺の手を両手で包む様にして触れる夢主。
「もう、大丈夫たから」
「…俺は…」
「今は大事な時期なんでしょ?jnpiの親友のhgwr君の仇である犯i人が、またFAXを送ってきたんでしょ?」
「それは…」
「私の事より、そっちを優先して。もう何年も追ってるんだから、必ずjnpiの手で捕まえるんだよ」
『例え…私が先に居なくなっても、側にいるから。ね』
その会話が夢主と話した最期の会話
俺はあいつの死に目にも会えなかった。
俺がどんなに会いに行ってもあいつは、常に笑顔でいた。薬の副作用で辛いはずなのに全てを隠して、俺の前では笑ってたんだ。
「お前との約束も…破っちまうな」
観覧車の中、煙草を吸いながら小窓から空を見る。
腹が立つくらいの良い天気だな。お前が好きな天気だ。
「ん」
一羽の鳥が器用にゴンドラの淵に止まった。
危ねぇぞお前、吹き飛ぶぞ。と手でパンパンと窓を叩くと欠伸をしては、毛繕いをしてる。
腹立つ鳥だなテメェ
「まさか、お前、夢主が?」
そう呟くと、鳥はこちらを見ては嘴で窓をーコンっーと突いた。
「馬鹿だろ、お前。今ここに居たら吹き飛ぶぞ」
「……」
「俺と心中するつもりか?」
「……」
この馬鹿鳥はとうとう首を後ろに回して寝やがった。
お前絶対に夢主だろ。腹立つ態度しやがって
「…なぁ、もし、もしまた生まれ変わったら、また俺と一緒にいてくれるか?」
そう言うと鳥は此方を向いてひと鳴きした。
あぁ、やっぱりお前夢主だったか
爆弾が吹き飛ぶ瞬間、stuに爆弾の場所を教えて、一瞬だけ夢主を見る。
夢主は相変わらず。リラックスしながら器用に淵にへばりついてる。お前…餅みたいにベッタリとしてるな。
俺と一緒に死んでくれるのかよ。
馬鹿野郎。お前覚えておけよ
来世でも必ず見つけてやるから…
今度はお互いにヨボヨボになるまで生きよう、な…
*•*•*・*•*•*・*•*•*・*•*•*・
「みーつけた!!」
「……」
「わたしがやっぱりはやかった!!」
「……っ…みつけるのが、はやいんだよ!!おれがみつけたかったのに!!」
「へへ」
「これで良いか」
「うん。大丈夫」
緑色の紙に記入されたお互いの名前。
結婚している8年間。長いようで短い期間なのかな?
なんだか、中途半端だよね。
まるで私達みたいに
「これからどうするんだよ」
「県外に行く予定だよ。自由にあちこちを回るの」
「…そうか」
「うん。日本に満足したら、海外に行く予定」
「…、……そう、か」
「うん」
あなたと過ごしたいこの8年幸せだったよ。
「これでお互いに自由だね」
「……あぁ」
政略結婚。
割り切った結婚生活……そのはずだったのに、何でこうも胸の奥がざわつくのかな?
「なぁ…夢主」
「なに?」
「幸せ…だったか?」
「…それを、聞いて何の意味があるの?」
もう、終わるのに
「…っ、悪りぃ」
「今日のjnpiは変だね」
「…」
「あ、ごめん……名前で呼んで」
jnpi。もうこの名前を呼ぶ事はないのだろう
「気にしねぇから…呼んでくれよ」
「…」
ねぇ、勝手なことを言っても良い?
さよならを言うまで…この家を出るまでは、夫婦で居てくれる?
「夢主」
「なに?」
「ありがとうな」
「……うん」
「お前との生活楽しかった」
「私も、楽しかったよ。本当にありがとう…そして--」
さようなら
私の細やかの最後の願いも
貴方は気付かないよね…
『さようならを言う前に』
空模様
「はぁ…濡れ鼠…」
ゲリラ豪雨に襲われて、全身ずぶ濡れ。
慌てて建物の屋根の下に逃げたが、ほぼ意味がない
「もう、このまま濡れて帰るか」
バックの中から使っていないビニール袋を出しては、濡れたらヤバい奴らを中に入れては硬く縛る。よし。これで一安心。
「根性、決めるか」
一息ついて雨の中を走ろうとした所、後ろからクラクションが鳴った。振り向き後ろを見ると見知った車だった。車は私の隣に泊まり、運転席の窓が空いた。
「mtd先輩。お疲れ様です」
「お前なぁ…この土砂降りの中家まで走ろうとしただろ」
「まさかぁ〜」
「本当に嘘が下手だよな」
「…それで、先輩は私に何のようですか?」
「は?…見てわかんねぇの?」
「分かりません」
はぁ…と思いため息を吐いては、小馬鹿にした表情をしている。喧嘩売ってます?その顔
「家まで送ってやる」
「結構です」
「……」
そんな顔で睨まないでくださいよ。
「なんで?」
「いや、mtd先輩の車が濡れるので」
「気にしねぇよ」
「私が気にするので」
「乗れ」
「嫌です」
「今ここで簀巻きにして、無理やり乗せるぞ」
「紐なんか持ってないじゃないですか」
「……」
「マジで?」
無言にならないで下さいよ。マジでやられそうで怖いんですが…
「されたくなかったら、さっさと乗れ」
「(警i察)」
「俺が警i察だ」
心の中を読まないで下さい。あまり意味はないのだが、これ以上濡れないようにバックを傘がわりにして助手席まで移動する。
「濡れたからって、文句言わないで下さいよ」
「んな、ケチくせぇ事は言わねぇよ」
「…」
じとっと先輩を睨むと先輩は体を少し捻り後部席から何かを取り出した
「ほら。これで頭と顔を拭けよ」
「タオル」
「今日雨降るって言ってたからな。憂あれば備えなし、だ」
「先輩の口からその言葉が出るとは思わなかったです」
「どういう意味だ。そして、もう仕事も終わってるんだ。名前で呼んだらどうだ?」
「……まだ、帰宅前です」
「けっ、お堅いやつだな。まぁ、家に帰ったら説教な」
「なんでですか」
「一人で家に帰ろうとしたから」
一緒に帰るって言っただろうが。そして、こんな雨の時は俺に連絡しろ。馬鹿と、小言を言いながら車を走らせる。全く家に帰ったらお説教と言ったのに車の中でもお説教とは、顔を拭くふりをして溜め息を吐くと
「テメェ…家に帰ったら覚えておけよ」
「jnpiさん」
「もう、遅え」
甘い声で彼の名前を呼ぶもダメか…
鏡
「ひどい顔してる…」
涙が枯れるまで泣き続けた目元は赤く腫れて、流れる涙を何度も拭ってせいで頬も赤くなっている。
「…」
あれだけ泣き続けても、あのことを思い出すと涙がまた出てくる。付き合って3年になる彼が知らない女の人に笑いかけては、腕を組んでいるところを見てしまった。
彼の職業柄、何かしらの捜査かと思った。それだけだったら、まだ良かったんだ。jnpiはその女の人にキスをし女の目を見ながら微笑んでは耳元で何かを言っていた。
腕を組むならまだわかる。キスって、なに?
そして、何で私はソレを見たの?なんで??
知らなかったらよかったのに…分からなかければよかったのに…っ
「jnpi」
悲しみから徐々に心の奥が火種ができた。その種は徐々に大きくなり、私の中で憎悪が生まれた瞬間
あぁ……朦朧とする意識の中で鏡が割れる音が、した。
*•*•*・*•*•*・*•*•*・*•*•*・
風呂から上がって髪の毛をタオルで乾かしながら、鏡を見る
疲れ切った顔してるな
「…やっと、終わったな」
やっと終わった。
異世界から来たと騒いでいた頭のおかしい奴をzeroの所で捕まえることが出来た。アイツがいたせいで夢主にも会えなかった。
zeroの彼女も危険に晒されるわ。本当に厄介だった。あまつさえあんなクズに、キスまでするハメになった。
最悪だ。
「……チッ」
俯き手で顔を覆う。あぁ、気持ち悪りぃ。
アイツにキスした所が…ここは夢主だけの場所だったのに
夢主に会いたい。会って抱きしめたい。あの女のせいで、夢主に気軽に会いにも行けなかった。危険に晒したくなかった。
「会いたいな…」
「だれに?」
「は…ゆめ、」
夢主の声がして顔を上げると夢主が鏡に映っていた。後ろを振り向こうとした瞬間頭に衝撃がはしり、気づいたら俺は床に倒れていた。
声が出ない。意識が遠のく
視界が霞む…
「大丈夫だよ。私も直ぐにいくから」
夢主の声がした。
なんで…泣きながら笑ってるんだよ
お前…な、んで…