海へ
あまり人通りのない抜け道を通っていつも腰掛けている岩場にいく。サンダルを脱ぎ、足を海の中に入れる。暫くするとするりと足になりかが触れた。あー、今日も来てくれたのか。
「こんには。晋作」
「なぁ…いつになったら、こっちに来てくれるんだ?」
「第一声がそれか……何遍も言ってるだろ。行かないってば」
「ふん。つまらんな」
ばちゃっと水面を尾鰭が叩いた。
当たるからやめろ。
「つまらん。つまらないな」
「飛沫が当たるからやめてくれると助かる」
「しらん」
そう言いながら、俺の膝の上に乗らないでください。
重いし、めっちゃ濡れる。
「重い」
「ふん」
胸元に顔を埋めるわ。額を肩口に擦り付けるは、本当に可愛い事で…
彼を助けたのはもう何年になるか…いつも通り海辺を散歩していたら網に引っかかっている彼がいた。彼は普通の人とは違い。下半身が異様だった。翡翠のように美しい鱗と魚のような尾を持っている。平たく言えば“人魚”だった。
「俺の肉を食べれば、俺と一緒になれるのに…なんで、なってくれないんだ?」
「君に痛い思いをして欲しくないね」
「…あんたと一緒にいられれば、我慢できる」
「晋作」
「あーあ、アンタが俺を食べてくれないから……俺が人になるしかないかね」
「それはダメだ」
「なんでだ」
「君の美しい子の脚を見れなくなるのは…惜しい」
彼の綺麗な脚を撫でる。本当に綺麗だ。
「んっ」
「君が海の中を自由に泳ぐ姿も好きだしね」
「だったら、もっと近くで見てくれよ」
両手を首に回してぐいっと顔を近づけられる。
本当に綺麗だ。
「あんたが好きだ…俺だけのあんた…」
あぁ、私はあと何回君の誘惑に勝てばいいんだろうか…
そろそろ負けそうで怖いよ。
蕩けた顔を着ているくせに、その瞳は虎視眈々と獲物を狙っている。
8/23/2024, 2:25:30 PM