快晴過ぎる真っ青の空。
「空はこんなにも青くて美しいのに、どうして俺の服はこんなに汚れているんだ」
「私のスカートの中を下から覗こうとしたから当然でしょ」
地面に倒れている俺の身体を、女性が靴で踏んでいる。
もしやこれはご褒美なのでは?
「なにニヤニヤしてるのよ、気持ち悪い……」
まるで汚物を見るような目で俺を見ていて、更にご褒美をもらう。
「まさか転けたフリして覗こうとするなんてね」
「転けたフリじゃない。偶然足に引っ掛かりそうな小石があって、その先にスカートを履いた可愛い子がいたから転けたんだ」
「結局覗くために転けたんじゃない!」
女性の踏む力が強くなる。
うーん……流石に痛いぞ。
「警察に突き出してやろうかしら」
「それだけは勘弁してくれ。こうして土下座してるし」
「それはただ倒れてるだけでしょ!」
女性の踏む力が更に強くなり、俺の身体が悲鳴をあげる。
「いててて!わ、分かった!俺が全部悪い!だから許してくれ!」
俺の必死の謝罪で、女性は今回だけ見逃してあげると言って許してくれた。
……次はもっと自然に転ぶようにしよう。
空調の効いた小学校の教室。
今日は、息子の授業参観に来た。
授業参観に来ている親が結構いて、少し緊張する。
俺は仕事が忙しくて、息子とあまり遊べていない。
父親らしいことをしているか?と聞かれたら、俺は出来てないと答えるだろう。
仕事が忙しいからという理由は、言い訳にしかならない。
せめて学校行事は参加したいと思い、課長に頼み込んで今日休みにしてもらった。
今日の授業内容は、将来の夢をテーマに書いた作文を読むらしい。
俺が子供の頃に描いていた夢は、特撮や漫画に出てくる主人公のようなヒーローになることをだった。
大人になった今、ヒーローどころか、取引先や客に頭を下げていて、敵組織の下っぱみたいになっている。
息子には、俺みたいになってほしくないな。
次はいよいよ息子が作文を読む番。
息子の将来の夢は、一体なんだろうか?
少し、ドキドキする。
息子は席を立ち、作文を両手で持って、読み始めた。
「ぼくは、お父さんみたいな大人になりたいです」
息子の言葉に、思わず耳を疑う。
俺みたいな大人になりたいだって?
「お父さんは、ぼくとお母さんのために、毎日おそくまで仕事をしています。つかれていても、いつも笑顔で、いってきますと言って仕事に行きます。いやな顔を一つもしません。あと、ぼくとお母さんのことを考えてくれてやさしいです。そんなお父さんが、ヒーローみたいでかっこいいから、ぼくはお父さんみたいな大人になりたいです」
息子の作文に、目頭が熱くなる。
俺が息子のヒーローになっていたことが、すごく嬉しい。
知らない間に、俺の夢は叶っていたんだな……。
これからも、息子のヒーローとして恥じぬよう、仕事と家族孝行を頑張ろうと思った。
彼氏の匂いが充満している真っ白の部屋。
彼氏はベッドで、犬のように丸くなって寝ている。
うふふ……可愛い。
「どこにも行かないでね。あなたは私だけのものだから」
彼氏の頭を撫でると、「う~ん」と唸った。
あなたがいくら私の彼氏じゃないって否定しても、認めるまでこの部屋から出してあげないからね。
彼氏の頭から首筋を指でなぞり、首に付いている首輪を撫でる。
一体、いつになったら認めてくれるのだろう?
もっと苦しめたほうがいいのかな?
でも、死んじゃったら困るから、ほどほどにしないとね。
彼氏の頬にキスし、部屋を出て鍵を閉めた。
風が気持ちよくて、お散歩日和の快晴な空。
今日は、なんとなく君の背中を追いたくなって追いかけた。
普段どこへ行ってるのか気になってたし、ただの好奇心だ。
君は、私をどこへ連れていってくれるかな?
私が追いかけてることに気づいたのか、君は歩きながらチラチラと後ろを確認する。
それでも君は走ろうとはせず、同じペースでひたすら歩く。
私は見失わないようについていくのに必死だ。
急に曲がったと思ったら、またすぐに曲がって、狭い路地を通っていく。
こ、こんな道があったなんて知らなかったよ。
私は身体を横にしながら狭い路地を通る。
太陽の光が建物に遮られて暗いから、ちょっと怖い。
だけど君は、ぐんぐん進んでいく。
君って結構勇敢なんだね、と心の中で呟いた。
前へ進むごとに少しずつ明るくなってきて、建物に遮られていた太陽が顔を出す。
路地を抜けた先は……スタート時点だった。
「ニャー」
先に路地を抜けて待っていた君は、私に向かって鳴いた。
多分、「楽しかった?」と聞いているのだろう。
「うん、知らない道を知れて、君と一緒に歩けて楽しかったよ」
私は思ったことを伝えると、君は「ニャー」と嬉しそうに鳴いた。
今日も、バタバタと足音を立てながら人が交差する忙しい職場。
私はその様子を、デスクワークしながら見ていた。
好き、嫌い、好き、嫌い。
職場の人を好きと嫌いでランク付けしていく。
私に優しくしてくれて、愛想がいい人には好き。
人の悪口を言ったり、嫌味を言ってくる人には嫌い。
ランク付けした結果、嫌いな人のほうが多いことが分かった。
こんな環境の中で、職場の人と仲良くしながら仕事するのは大変だ。
「田中さん、ちょっといいかい?」
「はい、いいですよ」
嫌いな上司から呼び出しをくらう。
私は作り笑顔をしながら、上司の元へ向かった。