緑が多くて、自然溢れる公園。
木々の隙間から太陽の光が差し込み、あちこちに光の柱が出来ていて、神秘的な世界に包まれている。
今日も、気になる彼女に会いに来た。
彼女は草のじゅうたんに寝転び、光の柱に当たって、気持ち良さそうに日向ぼっこしている。
俺は気づかれないようゆっくり近づき、彼女の横に寝転ぶ。
今日は気温が低めだから、ぽかぽかした太陽の光が気持ち良くて、このまま寝てしまいそうだ。
「ふあ~~~」
俺が大きな欠伸をすると、彼女の体がビクッと跳ねる。
こっちを向き、俺を確認すると、プイッと顔を反らす。
初めて出会った時は目を合わせてくれたのになぁ。
これでも彼女との距離は縮まったと思う。
最初は近づくだけで逃げられたし、心を開いてくれなかった。
諦めずに何度も彼女と接した結果、逃げなくなった。
まぁ、俺が一方的に話しかけたんだけど。
いつかまた、目を合わせてくれる日は来るのだろうか。
彼女の頭を撫でようとすると、パンチが飛んできた。
「にゃっ!」
気安く触るんじゃないよ!と訴えるかのような猫パンチ。
彼女は立ち上がり、俺に尻を向けて去っていく。
思わず見入ってしまうほどの、ふわふわの尻尾とプリプリなお尻。
「まったく、照れ屋な子猫ちゃんめ……ん?」
彼女のお尻の下には、立派なにゃん玉が付いていた。
どこまでも広がる青い海と青い空。
見ているだけで吸い込まれそうになる。
どうして海と空は青いのだろう?
地球に水が多いからか、太陽が光を照らして青くしているのか、神様が頑張って色を塗ったのか。
そんなつまらないことを考えながら、海と空をぼーっと見ている。
「おじちゃん、じゃまだよ。そこどいて」
「っと、ごめんよ」
「ありがとー!」
俺がその場から離れると、女の子は俺が立っていた場所にしゃがみ、小さい青いスコップで砂浜を掘り始めた。
周りには、潮干狩りに来ている人達でいっぱいだ。
「……帰るか」
まったく、独り身はつらいぜ。
砂浜を歩いている途中で強風が吹き、目と口に砂が入る。
「ゲホッ!ゲホッ!ぺっぺっ!」
俺は足を止めて振り返り、青い海と青い空に向かってキッと睨み、目で文句を言ってやった。
テーブルの上に並んだ甘いお菓子達。
仕事帰りに、お気に入りの洋菓子店で買ってきたのだ。
『先輩は彼氏との甘々な思い出とかあるんですか?』
今日、職場で後輩から聞かれた質問。
今思い出しても、腹が立つ。
私は今まで彼氏が出来たことがないし、仕事以外で男性と話すことはほとんどない。
私が回答に困っていると、後輩は追い討ちをかけるように攻めてくる。
『あれれ?もしかして先輩って──』
『あ、あるわよ!少しぐらい……』
つい勢いで言ったけど、後輩はニヤニヤしていた。
絶対バレてるよね……。
「はあ……」
大きな溜め息を吐きながら、お菓子を掴んで口へ運ぶ。
疲れた時とストレス発散は、やっぱり甘い物を食べるに限るよね。
手を伸ばすごとに、次々とお菓子が減っていく。
お腹の肉を掴むと、まるで大きなハンバーガーを掴んだような感触がする。
ダイエット、したほうがいいかな。
痩せたら彼氏が出来るかもしれないし。
甘々な思い出どころか、体重が増えていく一方だ。
「今日は沢山お菓子買っちゃったし、まっ、いっか。お菓子に罪はないし、食べよ食べよ♪」
私は鼻歌混じりでお菓子を口の中に入れ、ゆっくりと何度も噛み、甘々でとっても幸せな時間を堪能した。
ピンクが多くて良い匂いがする可愛らしい部屋。
俺がまさか蚊に転生するとは思わなかった。
寝坊して急いで会社へ向かっている途中、信号無視して横断歩道を走って渡っていると、トラックが走ってきて……。
気がつくと、俺は蚊になっていたのだ。
空を飛んでみたいという願望はあったが、こんな姿
で空を飛ぶことになるとは……。
しかもここは、若い女性がいる部屋。
どうやら女性の職業は看護婦で、一人暮らしをしているらしい。
壁には、ナース服をハンガーに掛けて吊るしている。
今日は一日部屋でだらだらする予定と、独り言で言っていた。
タンスの上で身を潜め、女性を観察して俺なりにまとめた情報だ。
女性の髪は流れるような長い黒髪で、思わず見とれてしまう。
着替えもばっちり見させてもらったぜ……ぐへへ。
おっと、頭の中をピンクに染めている場合ではない。
これからどうするか考えないとな。
とりあえず、腹が減ったので女性の血をいただくとするか。
吸う場所は……そうだな、内ももがいいな。
女性は今ショートパンツ姿だから、ちょうどいい。
下心で選んだのではなく、気づかれにくい場所を選んだだけだからな?
あとはどのタイミングで吸いにいくかだ。
「今日は少し暑いなぁ。換気ついでに窓開けよっと」
女性は部屋の窓を少し開けた。
外から入ってくる弱い風を受け、気持ち良さそうな顔をしている。
……風になって女性の身体に擦り付きたい。
いや、今の俺は蚊。
今出来ることを全力でするしかない。
そうだ、風に乗って一気に女性の内ももへ飛び込もう。
そうすれば、あまりの速さに女性は俺に気づかないはず。
俺は羽をパタパタさせながら、宙に浮く。
風と共に女性の内ももへ向かって、一直線に飛んだ。
「窓開けてたら蚊が入ってくるかもしれないし、スプレーしとこっと」
女性は近くにあったスプレーを持ち、シャカシャカと振ってから、シューと音を鳴らしながら部屋にスプレーをひと噴きする。
……あれ?身体に力が入らない。
羽を動かすことが出来なくなり、そのまま床に落ちた。
目の前には、綺麗で美味しそうな女性の素足。
くちばしの針を伸ばし、血を吸おうとするが、届かない。
くそっ……もう少しなのに……。
「今夜から夜勤だし、もう少し寝よっと」
女性が移動を始め、素足が上がり、俺の頭上に……。
「……はっ!」
気がつくと、俺は白いベッドで横になっていた。
身体を動かそうとするが、動かない。
身体中、包帯でぐるぐる巻きになっている。
一体どうなってるんだ?
「あっ!無理に動いちゃ駄目です」
近くにいた看護婦が、長い黒髪をふわっとさせながら、俺の元へとことこと走ってくる。
「今朝、あなたはトラックに轢かれて病院に運ばれたんです。危険な状態だと言われてましたが……目を覚ましてくれて安心しました」
……そうか。あれから病院に運ばれたのか。
どうやら、俺は運が良かったらしい。
さっきまで蚊に転生していたのは、夢だったのだろうか?
「空気を入れ換えるので、少し窓を開けますね」
看護婦は病室の窓を少し開けた。
外から弱い風が入ってきて、当たると気持ちいい。
生きてるって感じがする。
「助かって良かったですね」
看護婦の長い黒髪が、風と共になびく。
俺の担当の看護婦は、蚊に転生した夢の中に出てきた女性とそっくりだった。
何度も読み直しているボロボロの冒険日誌。
数年前、村にやってきた冒険者から貰った物だ。
冒険者は心臓病に侵されていて、僕の家で看病していたが、亡くなった。
幼い頃から心臓が弱かったらしい。
「どうしてそんな身体で冒険を?」
今思えば、なんて質問をしてしまったのだろうと申し訳ない気持ちになる。
だが、冒険者は嫌な顔をせず答えてくれた。
「こんな身体だからこそ、世界を見て回りたかったんだ。色んな人に会って、見たことがない物を見て、生を実感したかったんだろうね。まぁ、自己満足に過ぎないけど。本当はまだ冒険をしたかったけど、どうやらここまでのようだ」
どこか寂しそうに話す冒険者の姿を、今でも忘れられない。
「よければこの日誌、貰ってくれないか?今まで冒険したことを書いた日誌なんだ。興味があれば読んでみてくれ」
こうして、僕は冒険者から冒険日誌を受け継ぐ。
冒険者は世界各地で体験したことを、冒険日誌として書き記していた。
生きた証……いや、軌跡というべきだろうか。
冒険日誌を読んでいくうちに、僕は世界に興味が沸く。
冒険者が見てきた世界を、僕も見てみたい。
そして、冒険日誌の続きを、冒険者の代わりに書き記したい。
気がつけば、僕は冒険の旅に出ていた。
冒険者の軌跡を辿り、世界各地を巡る。
世界はあまりにも広くて、初めて見る物が多い。
色んな人と出会い、その地の文化や歴史を学ぶ。
冒険って、こんなに楽しくて、わくわくするものだったんだと実感する。
そして、遂に自分の手で冒険日誌の続きを書き記す時が来た。
「よし、行くぞ」
僕はわくわくの気持ちを高めながら、未開の地へ足を踏み入れた。