ピンクが多くて良い匂いがする可愛らしい部屋。
俺がまさか蚊に転生するとは思わなかった。
寝坊して急いで会社へ向かっている途中、信号無視して横断歩道を走って渡っていると、トラックが走ってきて……。
気がつくと、俺は蚊になっていたのだ。
空を飛んでみたいという願望はあったが、こんな姿
で空を飛ぶことになるとは……。
しかもここは、若い女性がいる部屋。
どうやら女性の職業は看護婦で、一人暮らしをしているらしい。
壁には、ナース服をハンガーに掛けて吊るしている。
今日は一日部屋でだらだらする予定と、独り言で言っていた。
タンスの上で身を潜め、女性を観察して俺なりにまとめた情報だ。
女性の髪は流れるような長い黒髪で、思わず見とれてしまう。
着替えもばっちり見させてもらったぜ……ぐへへ。
おっと、頭の中をピンクに染めている場合ではない。
これからどうするか考えないとな。
とりあえず、腹が減ったので女性の血をいただくとするか。
吸う場所は……そうだな、内ももがいいな。
女性は今ショートパンツ姿だから、ちょうどいい。
下心で選んだのではなく、気づかれにくい場所を選んだだけだからな?
あとはどのタイミングで吸いにいくかだ。
「今日は少し暑いなぁ。換気ついでに窓開けよっと」
女性は部屋の窓を少し開けた。
外から入ってくる弱い風を受け、気持ち良さそうな顔をしている。
……風になって女性の身体に擦り付きたい。
いや、今の俺は蚊。
今出来ることを全力でするしかない。
そうだ、風に乗って一気に女性の内ももへ飛び込もう。
そうすれば、あまりの速さに女性は俺に気づかないはず。
俺は羽をパタパタさせながら、宙に浮く。
風と共に女性の内ももへ向かって、一直線に飛んだ。
「窓開けてたら蚊が入ってくるかもしれないし、スプレーしとこっと」
女性は近くにあったスプレーを持ち、シャカシャカと振ってから、シューと音を鳴らしながら部屋にスプレーをひと噴きする。
……あれ?身体に力が入らない。
羽を動かすことが出来なくなり、そのまま床に落ちた。
目の前には、綺麗で美味しそうな女性の素足。
くちばしの針を伸ばし、血を吸おうとするが、届かない。
くそっ……もう少しなのに……。
「今夜から夜勤だし、もう少し寝よっと」
女性が移動を始め、素足が上がり、俺の頭上に……。
「……はっ!」
気がつくと、俺は白いベッドで横になっていた。
身体を動かそうとするが、動かない。
身体中、包帯でぐるぐる巻きになっている。
一体どうなってるんだ?
「あっ!無理に動いちゃ駄目です」
近くにいた看護婦が、長い黒髪をふわっとさせながら、俺の元へとことこと走ってくる。
「今朝、あなたはトラックに轢かれて病院に運ばれたんです。危険な状態だと言われてましたが……目を覚ましてくれて安心しました」
……そうか。あれから病院に運ばれたのか。
どうやら、俺は運が良かったらしい。
さっきまで蚊に転生していたのは、夢だったのだろうか?
「空気を入れ換えるので、少し窓を開けますね」
看護婦は病室の窓を少し開けた。
外から弱い風が入ってきて、当たると気持ちいい。
生きてるって感じがする。
「助かって良かったですね」
看護婦の長い黒髪が、風と共になびく。
俺の担当の看護婦は、蚊に転生した夢の中に出てきた女性とそっくりだった。
5/2/2025, 1:05:54 AM