真っ白のスクリーンに映し出された真っ黒の動物達。
息子が通っている幼稚園で、先生達が影絵劇場をすると聞いて観に来た。
動物達は次々と姿を変えて、スクリーンに現れる。
人間の手で色んな動物を表現出来るなんて、まるで魔法みたいだ。
園児達は動物の影絵を見て、わーわーきゃーきゃー言いながら喜んでいる。
もちろん、息子もだ。
楽しんで喜んでいる姿を見ていると、ほっこりする。
子供は無邪気で可愛いな。
先生達も園児達が良い反応してくれるから、やりがいがあるだろう。
「ちょっと……もう少しそっちに寄って」
「こっちも狭くて……あー次はなんだっけ?」
「蝶ですよ。皆で舞うんです」
……裏方の先生達の声が聞こえてきた。
園児達はスクリーンに夢中で、先生の声に気づいていない。
しばらくスクリーンが真っ黒になり、パッと明るくなると同時に現れたのは、無数の蝶達。
羽をパタパタさせながら、左右に舞っている。
しかし、何匹かの蝶がぶつかり、下へ落ちていく。
「いててて!」
「そっちに寄って言ったでしょ!」
「前をちゃんと見てないからだろ!」
「しーっ!まだ劇の途中ですよ!」
いや、聞こえてるからね?先生達。
今のでリズムが狂ったのか、あちこちで蝶達の衝突事故が起きて、次々と下へ落ちていき、全滅した。
「あーあ、ちょうちょたちしんじゃった」
「はかないいのちだったねー」
影絵劇場の結末と園児達の反応を見て、なんともいえない気持ちになった。
俺の部屋より数倍広い王座の間。
兵士に朝早く起こされたから、まだ眠い。
「勇者よ」
俺がいつも使っている椅子より、数百倍値段が高そうな椅子に座った王が俺に向かって言った。
「ふぁ~~」
眠気には勝てず、大きな欠伸が出る。
「王の前で欠伸とは無礼な……」
近くにいた兵士が、俺に槍を向けた。
「兵士よ。下がっておれ」
「はっ!」
王の一言で兵士は槍を下げて、後ろに下がる。
王は再び俺に話しかけてきた。
「改めて、勇者よ。旅立ちの時が来た」
「なんで?」
「なんでって……封印されていた魔王が復活し、各地で暴れ回っているから……」
「だから、なんで俺が旅立たないといけないんだ?」
「お前は勇者の血を引いているからだ」
「……はあ」
思わず溜め息が出る。
“勇者の血を引いている“
周りから何度も言われてきた言葉。
今の俺には、呪いの言葉にしか聞こえない。
「勇者の血を引いているだけで旅に出て、魔王を倒さないといけないのか?」
俺が王にそう言うと、周りにいた兵士達がざわめき始めた。
「王様、俺を過信し過ぎだぞ?俺は剣の腕はさっぱりだし、魔王倒すなんて無理だ」
「それにしては体つきが良いではないか。鍛えているだろう?」
「肉体労働で勝手に筋肉がついただけさ。俺は早くに両親を亡くしたから、生きるために毎日働いているんだ」
いつも深夜まで働いていて、身体を休めるために寝ていたのに、朝早く起こされていい迷惑だ。
「それは……ご苦労だな。だが、魔王倒すには勇者の血を者の力が必要なのだ」
まだ言うか、この王は……。
「俺じゃなくても、世界中に強い奴らがごろごろいるだろ?そいつに頼めばいいじゃないか」
「世界のために、魔王を倒したいと思わないのか?」
「俺は自分のことで精一杯なんだ。他の奴に頼め」
勇者が世界を救うなんて、もう古いんだよ。
世界を救いたいって思う奴に、魔王を倒してもらえばいい。
王は椅子から立ち、俺に指を指した。
「ええい!ごちゃごちゃ言わずとっとと旅立たんか!物語が始まらんだろう!」
「何を訳の分からんことを言っているんだ」
大丈夫かよ。この王。
「金を渡すから、とっとと旅立てい!」
兵士達が俺の目の前に、大きい袋を床に置く。
触ると、チャリチャリと音が鳴った。
結構な額が入ってるな……。
仕方ない。王の言うとおりにしてやるか。
「分かったよ。そこまで言うなら旅立ってやる。この金は貰うからな。あとで文句言うなよ」
「おお!勇者よ!決心してくれたか!魔王を倒し、世界を平和にするのだ!」
王は今にも踊りそうなくらい喜んでいる。
「じゃあな」
大金が入った袋を持ち、城を後にする。
家に戻り、荷物をまとめ、仕事場に別れの挨拶をした。
「よーし、出発だ」
俺は生まれ育った国を捨て、旅に出た。
どこか、小さな村でひっそりと暮らそう。
机の上に置かれた真っ白の紙。
今日の絵のテーマは、情熱。
周りを見ると、美術部の皆は何を描こうか悩んでいる。
中には、もう描き始めている子がいた。
私もこうしちゃいられない。
再び紙に視線を戻す。
真っ先に思いついたのは、炎。
私は、ここにいる美術部の誰よりも絵が好きだ。
その想いを紙に描く!
鉛筆を持ち、力強く、紙に炎を描いていく。
だが、力を入れすぎたのか、鉛筆の芯が折れてしまった。
顧問の先生に言って、鉛筆を換えてもらう。
想いではなく、これではただ力を入れすぎているだけだ。
もう一度、何を描くか考えてみる。
私は、絵が好き。
だから、好きなものを描いて、誰かにこの熱い想いが届くように……描こう。
「よしっ」
鉛筆を持ち、紙に絵を描いていく。
力を入れすぎず、アイススケートのように軽やかに、滑らかに鉛筆を動かす。
描き終えた絵は、見ているだけで胸が熱くなる、過去一の出来だった。
目の前に広がる色鮮やかな無数のペンライト。
今日は、私のライブに沢山の人が集まってくれた。
近くにいるファン達からの声援は、よく聞こえる。
遠くの方を見てみると、ペンライトを大きくブンブン振っているファン達の姿が見えた。
耳を集中させると、これでもか!っていうぐらい大きな声で声援してくれている。
その姿を見て、胸が熱くなっていく。
私は息を大きく吸い込み……。
「後ろにいる皆ぁーー!ちゃんと声届いてるよぉーー!いつも!ありがとうーー!!」
マイクを使わず、大きな声で感謝の言葉を叫んだ。
カップルで溢れている日曜日の公園。
この公園には桜の他に、色んな花が植えられている。
今の季節、春は特にすごくて、公園中の花が満開で見頃なのだ。
私の周りにいるカップル達が手を繋ぎながら、キャッキャウフフと花見を楽しんでいた。
あんなに浮かれて……一人で来ている私の身にもなってほしい。
と言いつつ、私は出会いを求めてここへ来たけど……場違いだったかも。
春をイメージして、ピンクのワンピースを着てきたのに、これではただの浮かれた女だ。
あーあ、どこかに良い男が落ちてないかなぁ。
「はぁ……はぁ……君ぃ、ちょっといいかな?」
「きゃっ!変態さん!?」
欲求不満の興奮している息遣いの荒い変態かと思って、思わず声が出てしまった。
「ち、違う。すまない。走ってきたから息が荒くなってね。はぁ……はぁ……」
両肩を大きく上下させている背の高い男性。
よく見ると、イケメンだった。
「ちょっと待ってて。スゥーー……ハァーー……」
男性は深呼吸し、息を整えている。
「よし。改めて、君。イベント会場ってどこか分かるかな?もうすぐイベントが始まるから走ってたんだけど、迷子になってしまって……ははは」
男性は苦笑いしながら言った。
腕時計を見ると、もうすぐ十五時。
確か、この時期限定の催し物があるんだっけ。
「場所は分かりますよ。よければ案内しましょうか?」
「いいのかい?助かるよ!」
男性と一緒に、イベント会場へ行くことになった。あれ?これってもしかして……チャンス?
お互い一人同士。
しかも相手は身長が高いイケメン。
よーし!春をゲットするぞ!私!
私は心の中で、気合いを入れた。
「ここがイベント会場です。あっ、もうすぐ始まりますね」
「よかったー間に合って。ありがとう。案内してくれて」
「いえいえ、あの……よければ私と……」
「あー!やっと見つけた!どこ行ってたのよ!」
私が男性を誘おうとした瞬間、女性がこっちに走ってきた。
私と男性の間に、女性が割り込む。
誰よ、この女。
「悪い悪い。道に迷って、この子に案内してもらったんだよ。スマホで連絡しようとしたけど充電が無くなっててさ……ははは」
「んもう、出掛ける前は充電してって、いつも言ってるじゃない。ごめんね。彼氏が迷惑かけて」
女性は私の方を向き、頭を下げた。
「いえいえ……ん?彼氏?」
状況が分からず混乱している私に、男性が説明してくれた。
「彼女と公園のイベント会場で待ち合わせをしていたんだ。迷子になった時はどうしようかと思ったけど、君のおかげで助かったよ。ありがとう」
「い、いえ……」
つまり、私はカップルの待ち合わせの手助けをしたってこと?
気合いで膨らんでいた心の風船が、一気に萎んでいく。
「よし、見に行こうか」
「うんっ。間に合ってよかったね」
男性と女性は恋人繋ぎをし、私に見せつけながら去っていった。
「春のバカヤローーー!!」
私はカップルが沢山いるイベント会場で、人目を気にせず叫んだ。