たーくん。

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俺の部屋より数倍広い王座の間。
兵士に朝早く起こされたから、まだ眠い。
「勇者よ」
俺がいつも使っている椅子より、数百倍値段が高そうな椅子に座った王が俺に向かって言った。
「ふぁ~~」
眠気には勝てず、大きな欠伸が出る。
「王の前で欠伸とは無礼な……」
近くにいた兵士が、俺に槍を向けた。
「兵士よ。下がっておれ」
「はっ!」
王の一言で兵士は槍を下げて、後ろに下がる。
王は再び俺に話しかけてきた。
「改めて、勇者よ。旅立ちの時が来た」
「なんで?」
「なんでって……封印されていた魔王が復活し、各地で暴れ回っているから……」
「だから、なんで俺が旅立たないといけないんだ?」
「お前は勇者の血を引いているからだ」
「……はあ」
思わず溜め息が出る。
“勇者の血を引いている“
周りから何度も言われてきた言葉。
今の俺には、呪いの言葉にしか聞こえない。
「勇者の血を引いているだけで旅に出て、魔王を倒さないといけないのか?」
俺が王にそう言うと、周りにいた兵士達がざわめき始めた。
「王様、俺を過信し過ぎだぞ?俺は剣の腕はさっぱりだし、魔王倒すなんて無理だ」
「それにしては体つきが良いではないか。鍛えているだろう?」
「肉体労働で勝手に筋肉がついただけさ。俺は早くに両親を亡くしたから、生きるために毎日働いているんだ」
いつも深夜まで働いていて、身体を休めるために寝ていたのに、朝早く起こされていい迷惑だ。
「それは……ご苦労だな。だが、魔王倒すには勇者の血を者の力が必要なのだ」
まだ言うか、この王は……。
「俺じゃなくても、世界中に強い奴らがごろごろいるだろ?そいつに頼めばいいじゃないか」
「世界のために、魔王を倒したいと思わないのか?」
「俺は自分のことで精一杯なんだ。他の奴に頼め」
勇者が世界を救うなんて、もう古いんだよ。
世界を救いたいって思う奴に、魔王を倒してもらえばいい。
王は椅子から立ち、俺に指を指した。
「ええい!ごちゃごちゃ言わずとっとと旅立たんか!物語が始まらんだろう!」
「何を訳の分からんことを言っているんだ」
大丈夫かよ。この王。
「金を渡すから、とっとと旅立てい!」
兵士達が俺の目の前に、大きい袋を床に置く。
触ると、チャリチャリと音が鳴った。
結構な額が入ってるな……。
仕方ない。王の言うとおりにしてやるか。
「分かったよ。そこまで言うなら旅立ってやる。この金は貰うからな。あとで文句言うなよ」
「おお!勇者よ!決心してくれたか!魔王を倒し、世界を平和にするのだ!」
王は今にも踊りそうなくらい喜んでいる。
「じゃあな」
大金が入った袋を持ち、城を後にする。
家に戻り、荷物をまとめ、仕事場に別れの挨拶をした。
「よーし、出発だ」
俺は生まれ育った国を捨て、旅に出た。
どこか、小さな村でひっそりと暮らそう。

4/18/2025, 11:51:04 PM