【お題:仲間】
ユークドシティの中心には、警視庁の建物がある。
大陸レークスロワには元々法律がなく、幾度と殺し合いが行われた末に、強い魔法を扱える者と周辺諸国の責任者10人が集められ、10王として、法の番人が誕生した。
その中の一人、サラは警視庁の一室……特殊部署、通称特殊警察の資料室に居た。
彼女は、特殊部署の副署長であるため、この場所にも出入りは自由。
そもそも、特殊部署とは何なのかであるが、レークスロワに現れる、凶悪犯を対処する部署。最終手段を唯一許されている。つまり、許可なく相手を殺すことが可能だ。
その特殊性から、この部署に居る者は、元犯罪者であったり、各国の元軍事であったり、人を殺すことに迷いがない者が選ばれている。
サラもまた、元はとある国の子供兵であった。もうない国ではあるが。
彼女の生い立ちは、戦で始まり、戦で終わるはずであった。いつなん時も戦いの中にいたのだから。
それが、当たり前とでさえ思っていた。一人の男に出会うまでは。
資料を巡る音だけが室内にこだまする。
その中の1ページで、手を止めた。
【特殊警察事件ファイル、0018 雨ざらしの死神】
特殊警察で現在主に追っている事件は2つ。0017 Sugar Bloodと0018 雨ざらしの死神である。
どちらも犯人不明の殺人であり、日時も場所も、殺される人間すらも不規則。
私はこのファイルを見る度にとある一言を思い出す。
国が失くなり、行く宛てもなく、たまたま警視庁に拾われた私は、一人の男性とペアを組んだ。
無節憖(なぶしぎん)。人間も人外も、能力者も魔術師もいるこの世界で、どれにも属さない異端な種族。
異端児と呼ばれる者の一人。
異端児は通常、人間に対して敵意を持つものだが、憖は違った。人間と対話し、理解し、共存していた。
好きや嫌いを表さない彼が、雨の日だけは少し憂鬱そうにする。
一度だけ、理由を聞いてみたことがある。そうしたら、こう返ってきた。
「雨は嫌いだ」
と。なぜ嫌いなのか、それは結局最後まで教えてはくれなかった。
無口で無愛想で、けれどとても優しい先輩。
子供兵として働いていた時ですら、仲間なんてものは無いも同然だったのに、彼は私を一人の人として扱い、仲間として傍にいてくれた。
そんな先輩は、何かを調べるために闇市場に出入りしており、それが上にバレて解雇になった。
仲間を失った私だが、すぐに特殊警察に属することとなる。
10王として、法の番人として働けと。
そもそも10王だって、地位があれば先輩を探しやすいから所属しているのであって、番人になったつもりはない。
まぁ、凶悪犯の多くが異端児だから、都合は良かったのだが。
もう一度、ファイルに目を落とす。
雨の次の日、複数人の血溜まりが現れる。その全てが原型を留めておらず、とても強い力で引き裂かれたとだけ理解できる。
その異様さから付いた名前が、雨ざらしの死神。恐らく異端児の仕業だと思われている。
異端児は、人間よりも遥かに強い力を有しているからだ。ただし、魔法や能力を使える者はごく少数であり、見た目は獣人に近いが、獣人にしては、角と獣耳と羽があったりなど、複数種族の特徴が見られる。
だからこそ異端、何にも属さない唯一無二の種族。人間が、粛清すべき者達。
私の唯一の仲間もまた、そのような種族だからだろうか。それとも、雨が嫌いだと言った先輩の瞳が、あまりにも切なげだったからだろうか。
なぜか、無関係に感じれないのだ。先輩と雨ざらしの死神にどういった関係があるかなど、私は知りようもないというのに。
ファイルをとじる。
何にせよ、私は私の仲間を探すだけ。もし、雨ざらしの死神がその突破口となるのなら……。
空を見上げる。今にも雨が降り出しそうな、暗く淀んだ空であった。
ーあとがきー
今回のお題は仲間。
仲間と言われると、いくつかの機関が頭に浮かんだのですが、広げた風呂敷を畳まず、別の風呂敷を用意するのもはばかれ、だからって更に広げるのもなぁとなり、とりあえず、話題に出したことのある雨の夜の死神こと、雨ざらしの死神のお話。
と言っても、特殊警察とか10王とか、やっぱり風呂敷は広がりましたが。
語り部サラの先輩、憖さん。一言しか出てませんが、まぁ、とてつもなく寡黙な男です。いつか、本人の話をしたいですね。
今まで出した内容は、記憶図書館での2つ以外は、時間軸はほぼ一緒、前後一、二年となります。この辺りが、一番書きやすい。
他の時代を書いてもいいのですが、風呂敷を変えることになるので検討中、お題次第かな…。
今回内容について語ることがないので、まぁ、この辺で。
それでは、またどこかで。
エルルカ
⚠血の描写があります。苦手な方はフィールドバックを推奨致します。
【お題:手を繋いで】
大陸レークスロワは、剣も魔法も存在する。
故に、日々奇々怪々な事件が起こる。
【Sugar Blood】
これは、奇々怪々な事件をまとめたファイル、特殊警察事件ファイルの中の一つである。
甘ったるい匂いの中に混じる鉄の臭い。そして、場に似つかわしくない、明るいピンク色の髪をツインテールに結んだ少女。
今目の前には、血を流し絶命している死体が一体。満遍なく撒かれたざらめは、場の空気を異様なものにしている。
健常者であれば、間違いなく発狂するであろう現場も、慣れてしまえば……いや、元より自分自身が健常者でないので、何の気なしに眺められてしまう。
少女……ざらめの食事が完了するまで、特にすることもなく、近くにあった木箱に座り込むと、ふと、左の掌が視界に入った。
目の前にある遺体が高校生だからだろうか。ふいに、あの子が生きていれば、このくらいかと考えてしまう。失くして長い、繋いだ手の温もりをなぜか思い出した。
あれはもう、何年前だったか。自分がこの街、ユークドシティに来たのは、駆け落ちが目的だった。
元々、漢文化の国、桜花の貴族……桜花では華族(かぞく)と呼ぶが、その中でも華族をまとめる家、黒影家の嫡男として自分は産まれた。
当然のように後継者教育が施されたが、それ以前に当主、父は全く使い物にならなかった。
元より体が弱かったらしい母が、自分が産まれると同時に亡くなったからだ。
父は母を異常な程愛していたらしい。彼女が居なくなった喪失感は、父を壊すに足るものだった。
物事着いた頃には、ろくに会話ができない父に代わり、当主代理としての教育をずっと受けていた。
正直に言ってしまえば、父も家も嫌いだった。
だから逃げ出した。
それが良いか悪いかは、今も尚わからない。
なんにせよ壊れた歯車はもう元には戻らないのだ。
「おじさま!」
思考を遮り、自分を現実に引き戻したのは、少女の声で。
「……ざらめ、もう食事は終わったのか?」
「終わったのです!」
ぴっ! と片手を挙げて、元気に返事するざらめの頭を撫でると、嬉しそうにする。
これだけ見ると猫のようだ。
「では、今日はもう帰ろうか」
「はいなのです」
自分が手を出すと、ざらめは躊躇いもなく手を繋ぐ。血の臭いから逃れるかのように路地裏を出ると、いつかのような、燃えて見える真っ赤な夕日が顔を出していた。
何の気なしに、背後を振り返る。そこには闇が広がるばかり。
「おじさま? 帰らないのです?」
「……いいや、帰ろう」
一瞬、懐かしい声で名を呼ばれた気がしたが、それは幻聴に他ならない。
もう、居ない人間の声が聞こえるわけがないのだ。
手を繋いで家路に着く。
この日常は、誰かの日常を奪いできている。
ーあとがきー
今回のお題は【手を繋いで】
青春とか、淡い恋物語が始まりそうなお題で、血の描写がありますとかいう突拍子もない注意書きですよ、イカれてますねっ!
さて、短編を毎日書くのにタイトルなど付けてらんないので、あとがきでこのお題の時に〜と書くので、その時のお題を冒頭に付け足しました。
さてさて今回の話、Sugar Bloodは、逆さの時の赤いざらめの話です。そう、赤いざらめと雨の日の死神は別なのです。殺人事件であるのには変わりはありませんが。
此度の語り部の名は、黒影柘榴。色々と拗らせてるおっさんです。歳は38歳。
父親のことは嫌いですが父親に似てる。そんな男です。
ざらめちゃんは……何者なのでしょう? 人ではないのは確かです。
柘榴を最初から最後まで語ろうとすると長いので、彼も小出しで語ることになりそうです。それこそ妻子の話とか。
ざらめちゃんも、いつか語りたいですね。
さて、このままではあとがきが長くなりますので、今回はここまで。
それでは、またどこかで
エルルカ
【お題:ありがとう、ごめんね】
物語には管理者が必要だ。
紡ぐ者がいなければ、物語は成立しない。書く者がいなければ、物語は現実に存在し得ない。
だからこそ、記憶の図書館は存在する。レークスロワという大陸の物語を管理するために。
ある意味、この図書館が魔法の証明かもしれない。誰も入れない、レークスロワのどこにも存在しない、けれど空間としては存在する。
そんな曖昧な夢の中のような場所。
僕、エルはその場所の管理をしている精霊だ。そして、レークスロワという世界の管理者でもある。
ただ、管理者は永遠ではない。いつか必ず形あるものは壊れてしまう、それは僕も同じこと。
だから、後継者が必要だった。僕らはそれを巫(かんなぎ)と呼ぶけれど。
レークスロワを見続けで、何千、何万と経っても、僕は巫を見つけられなかった。誰でもいいわけではないんだ、巫とは長く一緒にいることになるから、慎重に考えないと。
そんな折に彼を拾ったのは、全くの偶然であった。
レークスロワ史、最古に近い記録は、エレントノワールという不死者の実験。まだ、魔法が確立されていない、神代とも呼べる時代のもの。
歴史上、エレメントノワールは失敗したとされているが、実はそうではなかったことを僕は知っている。
知識だけだけれど。
別に僕は図書館から出られないわけじゃない。宛もなくふらっと、大陸の各地を歩き回っていた時。
血だらけで倒れている青年を見つけた。周りには獣の群れがおり、襲われたのだと推測できた。
この世界、魔物と呼ばれる存在が居ない訳ではないけれど、青年を襲ったのはただの獰猛な狼である。
「少し、退いてくれるかな?」
ある程度魔力を纏い、威圧をかければ、怯えた狼達は森の奥へと消えていく。
青年をよく見ると、サラサラとした青い髪に、白衣を纏っていた。知識でしか知らない、エレメントノワールの成功作。
不死者アインスタイニウムとの出会いは、偶然と気まぐれにより起こったことだった。
人間という生き物は、長い時を生きられないようできているそうだ。長く生きれば生きる程、精神が摩耗し、壊れてしまう。
しかし、レークスロワに住む者は、生命力である魔力が高く、長寿である。だからと言って死なない訳ではない。
だから不死を求めるわけだけれど、実際の不死者である彼は、助けた僕に不遜な態度だった。
「せっかく、死ぬ方法を試していたというのに、邪魔しないでもらえますか?」
起きた第一声がこれである。まぁ、君、死ねないんだから諦めれば? って返した僕も僕だけれど。
この図書館には、レークスロワ中から知識が集まるよと教えてやれば、死ぬ方法が見つかるかもしれないと考えた彼は、この場に留まることに決めた。
アインスタイニウムはあくまで、被験者名であって、彼の本名ではない。でも、彼は自分の本名を知らないので、結局アインと名乗っている。だから、僕も彼をアインくんと呼ぶ。
レークスロワの昔から今までを知っている貴重な人間だ。
ねぇ、アインくん。僕はわざと、君に知識が集まると教えたんだ。
だからね、留まると決めた君には感謝したい。
ありがとう。けれど、ごめんね?
君の望みは叶えてあげられそうにないから。
僕の業を、管理者という役目を、きっと君は嫌うだろう。死が遠のいたと不満になるだろう。
それでも、君程の適任者を僕は知らない。普通の方法ではもう死ねないのだから、少しくらい僕のわがままに付き合っておくれ。
管理者は君と違って、壊れてしまうものなのだから。
ーあとがきー
今日のお題はありがとう、ごめんね。でしたね。
いや難しっ!そんな精細な心持ってる人レークスロワにいないよ!って作者はなりました、はい。
というわけで、部屋の片隅の話に引き続き、記憶の図書館のお話です。今度は司書エルちゃん目線。
エレメントノワールについても、少しだけ語れました。二人については、色々語りたいところですが、そろそろ大陸本土の話もしたいなぁと思いつつ、お題的に先延ばしかなぁと思いつつ。
あと、逆さの時のお題で出した、雨が降った夜に出る死神とか、その辺も書きたいんですけど、まぁ、運次第ですね。
断片的に小出しにしてしまっているので、わけわからん!となると思いますが、なんとか一話だけで読めるよう、頑張ります。
それでは、またどこかで。
エルルカ
【お題:部屋の片隅】
パラリ、パラリと、本が捲れる音がする。
ここは、記憶の図書館。この世界に生きる者達の物語を保管する場所……の一室。
自分は、その部屋の片隅で、一冊の本を捲っていた。タイトルは『エレメントノワール』。
大陸レークスロワには、幾つか『不死者の実験』が存在し。その中の一つを記録したものだ。
「あれ、アインくんがそれを読むなんて珍しいね?」
ふと、女性の声がしたので本から顔を上げると、ふわふわと浮き上がる一人の少女……というか精霊。
「司書さんか、まぁ、たまには原点に帰りたくなるものだよ」
「原点かぁ……エレメントノワールから、もう何年経ったかな?」
「さぁ、数えてすらいないよ」
エレメントノワールは、一番最初に行われた不死者の実験だ。元素と人を結びつけ、化学反応を見るイカれた実験だった。
もう、ずっと昔の話である。
「さて、読書はこれくらいにして、本棚の整理でもしようかな」
「おや、アインくんがやる気を出すなんて珍しい」
「僕だって仕事くらいするさ」
本を置き、立ち上がる。
ここは、記憶の図書館。レークスロワで起こったことを、随時記録し保管する場所。
本はいくらだって増えていく、自分はその整理に取り掛かった。
ーあとがきー
今回のお題は「部屋の片隅」でしたね。
前回引き継ぎレークスロワという、架空大陸のお話。
逆さの時と時間軸としては、10年後くらいを想定。とは言っても、繋がってはおりませんので別々にお読みいただけます。
語り部アインの名前の由来は、元素アインスタイニウムから。なんじゃそれはと思ったら調べてみてください、詳しい内容はあまり出てきません!
ついでに、司書さんと呼ばれた精霊は、図書館の管理者で、名をエルと申します。アインくんは、あんまり呼んでくれません。
やっぱり、魔法が出てこなかったなぁと思う今回。短編故にわからないことだらけだと思いますが、毎日お題に沿って、レークスロワの諸々を出せればなと思います。
それでは、またどこかで
エルルカ
⚠流血描写がございます。苦手な方はフィールドバックをおすすめ致します。
【お題:逆さ】
今日も私は、てるてる坊主を逆さに吊るす。
『雨の日の夜には人を去らう死神さんが出るんだって』
いつの日にか流れ始めた噂。普通なら有り得ないと言いたいところだが、こと、この大陸レークスロワでは、真実になってしまう。
この世界は剣と魔法の世界。私には日本という国で暮らしていた記憶はあるし、流行りの異世界転生ってやつで、ではこの世界を前世で知っていたかといえば、否。
転生に気付いたのは、私がまだ五歳の時だ。その頃丁度
、物騒な噂が出た。
それが冒頭の噂。そして私はこの噂が真実だと思える体験がある。
レークスロワ中心街、ユークドシティに私は住んでいる。
幼い頃は好奇心旺盛で、親の目を盗んで走り出してはよく迷子になっていた。
あの日もそうだった。ただの冒険のつもりで入った裏路地。
妙に甘い匂いがするなって思っていた。けれど、どこかでお菓子でも作っているんだろうと、気にも止めなかった。
走って歩いて、裏路地の奥で、じゃりっと何かを踏んだ。
恐る恐る下を見ると、そこには白い砂糖……いや、ざらめが撒かれていた。
ざらめに導かれるように、上の方へ目線を動かすと、段々とざらめが、赤く染まっていく。
私の恐怖心と呼応するように、ぽつりぽつりと雨が降り出していて。
『 雨の日には人を去らう死神さんが出るんだって』
まるで嘲笑うかのように、赤い色は雨に流されて。
叫んだ私は、そのまま気絶して、起きたら前世の記憶を思い出していた。
あの日から私は毎日てるてる坊主を逆さに吊るしている。
この世界には魔法があるからかな、てるてる坊主なんて概念がないから、私の行動は家族にも不思議がられている。
今日も私はてるてる坊主を逆さに吊るす。
嫌な記憶を雨が流してくれますようにって、願いを込めて。
ーあとがきー
お題が「逆さ」ということで、私が書いてます小説を別視点で書いたものです。
一応転生者とか魔法とか単語は出ますが、全く関係ありません!
なんとなく、この子ファンタジー世界とは別の世界から来てそうな性格してるなぁって思い、転生者となりました。
短編なので、色々分からない場所ばかりでしょうが、暖かい目でご覧いただけましたらと思います。
それでは、またどこかでお会い致しましょう。
エルルカ