【お題:ありがとう、ごめんね】
物語には管理者が必要だ。
紡ぐ者がいなければ、物語は成立しない。書く者がいなければ、物語は現実に存在し得ない。
だからこそ、記憶の図書館は存在する。レークスロワという大陸の物語を管理するために。
ある意味、この図書館が魔法の証明かもしれない。誰も入れない、レークスロワのどこにも存在しない、けれど空間としては存在する。
そんな曖昧な夢の中のような場所。
僕、エルはその場所の管理をしている精霊だ。そして、レークスロワという世界の管理者でもある。
ただ、管理者は永遠ではない。いつか必ず形あるものは壊れてしまう、それは僕も同じこと。
だから、後継者が必要だった。僕らはそれを巫(かんなぎ)と呼ぶけれど。
レークスロワを見続けで、何千、何万と経っても、僕は巫を見つけられなかった。誰でもいいわけではないんだ、巫とは長く一緒にいることになるから、慎重に考えないと。
そんな折に彼を拾ったのは、全くの偶然であった。
レークスロワ史、最古に近い記録は、エレントノワールという不死者の実験。まだ、魔法が確立されていない、神代とも呼べる時代のもの。
歴史上、エレメントノワールは失敗したとされているが、実はそうではなかったことを僕は知っている。
知識だけだけれど。
別に僕は図書館から出られないわけじゃない。宛もなくふらっと、大陸の各地を歩き回っていた時。
血だらけで倒れている青年を見つけた。周りには獣の群れがおり、襲われたのだと推測できた。
この世界、魔物と呼ばれる存在が居ない訳ではないけれど、青年を襲ったのはただの獰猛な狼である。
「少し、退いてくれるかな?」
ある程度魔力を纏い、威圧をかければ、怯えた狼達は森の奥へと消えていく。
青年をよく見ると、サラサラとした青い髪に、白衣を纏っていた。知識でしか知らない、エレメントノワールの成功作。
不死者アインスタイニウムとの出会いは、偶然と気まぐれにより起こったことだった。
人間という生き物は、長い時を生きられないようできているそうだ。長く生きれば生きる程、精神が摩耗し、壊れてしまう。
しかし、レークスロワに住む者は、生命力である魔力が高く、長寿である。だからと言って死なない訳ではない。
だから不死を求めるわけだけれど、実際の不死者である彼は、助けた僕に不遜な態度だった。
「せっかく、死ぬ方法を試していたというのに、邪魔しないでもらえますか?」
起きた第一声がこれである。まぁ、君、死ねないんだから諦めれば? って返した僕も僕だけれど。
この図書館には、レークスロワ中から知識が集まるよと教えてやれば、死ぬ方法が見つかるかもしれないと考えた彼は、この場に留まることに決めた。
アインスタイニウムはあくまで、被験者名であって、彼の本名ではない。でも、彼は自分の本名を知らないので、結局アインと名乗っている。だから、僕も彼をアインくんと呼ぶ。
レークスロワの昔から今までを知っている貴重な人間だ。
ねぇ、アインくん。僕はわざと、君に知識が集まると教えたんだ。
だからね、留まると決めた君には感謝したい。
ありがとう。けれど、ごめんね?
君の望みは叶えてあげられそうにないから。
僕の業を、管理者という役目を、きっと君は嫌うだろう。死が遠のいたと不満になるだろう。
それでも、君程の適任者を僕は知らない。普通の方法ではもう死ねないのだから、少しくらい僕のわがままに付き合っておくれ。
管理者は君と違って、壊れてしまうものなのだから。
ーあとがきー
今日のお題はありがとう、ごめんね。でしたね。
いや難しっ!そんな精細な心持ってる人レークスロワにいないよ!って作者はなりました、はい。
というわけで、部屋の片隅の話に引き続き、記憶の図書館のお話です。今度は司書エルちゃん目線。
エレメントノワールについても、少しだけ語れました。二人については、色々語りたいところですが、そろそろ大陸本土の話もしたいなぁと思いつつ、お題的に先延ばしかなぁと思いつつ。
あと、逆さの時のお題で出した、雨が降った夜に出る死神とか、その辺も書きたいんですけど、まぁ、運次第ですね。
断片的に小出しにしてしまっているので、わけわからん!となると思いますが、なんとか一話だけで読めるよう、頑張ります。
それでは、またどこかで。
エルルカ
12/8/2024, 5:02:17 PM