⚠血の描写があります。苦手な方はフィールドバックを推奨致します。
【お題:手を繋いで】
大陸レークスロワは、剣も魔法も存在する。
故に、日々奇々怪々な事件が起こる。
【Sugar Blood】
これは、奇々怪々な事件をまとめたファイル、特殊警察事件ファイルの中の一つである。
甘ったるい匂いの中に混じる鉄の臭い。そして、場に似つかわしくない、明るいピンク色の髪をツインテールに結んだ少女。
今目の前には、血を流し絶命している死体が一体。満遍なく撒かれたざらめは、場の空気を異様なものにしている。
健常者であれば、間違いなく発狂するであろう現場も、慣れてしまえば……いや、元より自分自身が健常者でないので、何の気なしに眺められてしまう。
少女……ざらめの食事が完了するまで、特にすることもなく、近くにあった木箱に座り込むと、ふと、左の掌が視界に入った。
目の前にある遺体が高校生だからだろうか。ふいに、あの子が生きていれば、このくらいかと考えてしまう。失くして長い、繋いだ手の温もりをなぜか思い出した。
あれはもう、何年前だったか。自分がこの街、ユークドシティに来たのは、駆け落ちが目的だった。
元々、漢文化の国、桜花の貴族……桜花では華族(かぞく)と呼ぶが、その中でも華族をまとめる家、黒影家の嫡男として自分は産まれた。
当然のように後継者教育が施されたが、それ以前に当主、父は全く使い物にならなかった。
元より体が弱かったらしい母が、自分が産まれると同時に亡くなったからだ。
父は母を異常な程愛していたらしい。彼女が居なくなった喪失感は、父を壊すに足るものだった。
物事着いた頃には、ろくに会話ができない父に代わり、当主代理としての教育をずっと受けていた。
正直に言ってしまえば、父も家も嫌いだった。
だから逃げ出した。
それが良いか悪いかは、今も尚わからない。
なんにせよ壊れた歯車はもう元には戻らないのだ。
「おじさま!」
思考を遮り、自分を現実に引き戻したのは、少女の声で。
「……ざらめ、もう食事は終わったのか?」
「終わったのです!」
ぴっ! と片手を挙げて、元気に返事するざらめの頭を撫でると、嬉しそうにする。
これだけ見ると猫のようだ。
「では、今日はもう帰ろうか」
「はいなのです」
自分が手を出すと、ざらめは躊躇いもなく手を繋ぐ。血の臭いから逃れるかのように路地裏を出ると、いつかのような、燃えて見える真っ赤な夕日が顔を出していた。
何の気なしに、背後を振り返る。そこには闇が広がるばかり。
「おじさま? 帰らないのです?」
「……いいや、帰ろう」
一瞬、懐かしい声で名を呼ばれた気がしたが、それは幻聴に他ならない。
もう、居ない人間の声が聞こえるわけがないのだ。
手を繋いで家路に着く。
この日常は、誰かの日常を奪いできている。
ーあとがきー
今回のお題は【手を繋いで】
青春とか、淡い恋物語が始まりそうなお題で、血の描写がありますとかいう突拍子もない注意書きですよ、イカれてますねっ!
さて、短編を毎日書くのにタイトルなど付けてらんないので、あとがきでこのお題の時に〜と書くので、その時のお題を冒頭に付け足しました。
さてさて今回の話、Sugar Bloodは、逆さの時の赤いざらめの話です。そう、赤いざらめと雨の日の死神は別なのです。殺人事件であるのには変わりはありませんが。
此度の語り部の名は、黒影柘榴。色々と拗らせてるおっさんです。歳は38歳。
父親のことは嫌いですが父親に似てる。そんな男です。
ざらめちゃんは……何者なのでしょう? 人ではないのは確かです。
柘榴を最初から最後まで語ろうとすると長いので、彼も小出しで語ることになりそうです。それこそ妻子の話とか。
ざらめちゃんも、いつか語りたいですね。
さて、このままではあとがきが長くなりますので、今回はここまで。
それでは、またどこかで
エルルカ
12/10/2024, 4:49:29 AM