椿灯夏《少しずつ削除します》

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9/6/2022, 3:57:48 PM

お題《時を告げる》


時の歯車が狂いだす。



なんて滑稽な物語だろう。


「――騙したの」


蒼白の表情で、やっとの思いで紡ぎだした少女。


目の前にいる青年はにこにこしているのに、氷のように冷たい。


「人聞き悪いなあ。オレはちゃんと、君の望む恋人だったでしょ」



“やさしくて、あたたかい。一緒にいると、すぐ笑顔になれる人がすき”



ちがうちがうちがう――……私が!

私が本当に望んだのは!!



「ソルトは、こんなこと望む人じゃないっ」


「――君の知ってる“ソルト”は、でしょ。君は一体“ソルト”の何を知ってるの?(時は告げた)」


「ソル……?」


「夢は終わりだよ。――もうすぐ夜明けだ(さよならオレが、ほんとうに愛した人)」






時は告げる。――終わりの始まりを。



9/5/2022, 11:15:20 AM

お題《貝殻》




月の海。

月の女神と笛吹きの少年が文を結ぶとき、海は淡い金色に輝く。


砂浜に落ちているのは月真珠の貝殻。

耳にあてると、月の女神の歌が流れてくるらしい。



月の女神。天では星座のみんなとお茶会を楽しんでいる。季節ごとに、その時々のお茶とお菓子を用意する。地では、旅人や自然の精霊たちと文を交わす。想い人と文を結ぶときのみ海が輝く現象がなぜか起きる。


笛吹きの少年
夜の海で笛を奏でるのが好き。笛の音色に惹かれた月の女神が文をよこしたところ、そこから交流が始まり相思相愛になった。ときおり月の女神が、天から降りてくるのだとか。

もし偶然見かけたら、あなたに幸運が訪れるかも?


9/4/2022, 10:47:53 AM

お題《きらめき》


「刹那も永遠も儚いものだが。――そうだな……それでも願わずにいられないから、困るな」



それは胸の奥にゆらめくきらめき。




――言葉の中に、雨が降ってるみたい。


表情からは何も感じられないのに、言葉の中には雨がたくさん降っている。

雨の言の葉が、胸を濡らして苦しい。



「だいじょうぶだよ。私、強いから。あなたを絶対ひとりになんてさせないから」



これは誓いだ。




紫水晶の瞳が大きく見開かれる。驚きと戸惑いと――様々な感情を孕んだ瞳の奥、炎がゆれた。





9/3/2022, 11:09:45 AM

お題《些細なことでも》


お気に入りの海色のノートが無惨に引き裂かれている。


――こんなことされるのは慣れてる。

だって“日常”だから。でも――これはおばあちゃんと買い物に行って、お礼にってくれたものだ。花柄の刺繍が丁寧に織り込まれたハンカチ、パッチワークのポーチ、ブックカバー。

おばあちゃんの趣味はハンドメイド。ぜんぶ、心を織り込んで大切に作ってくれたもの。



周囲の誰かに相談?


誰が、助けてくれるの?


私がいくら訴えても、何もしてくれなかったのに。挙句の果てに、私を見るとバツの悪そうな顔をする大人たち。


もう、誰にも期待しない。


ノートを抱きしめて、教室を飛び出す。耳の奥にクラスメイトの嘲笑だけが、いつまでも残響して消えない。


よく前を見ず闇雲に走っていたせいか、誰かとぶつかってしまった。


「おっと、お嬢さん大丈夫ですかい――って。泣いてるのに、大丈夫なわけねぇな」


私は、はじめて泣いている事に気がついた。無我夢中で、全然気づかなかった。一言謝ろうとすると、その人はそれを制止する。


「よかったらオレに話してくださいよ」


「でも……!」


「大したことないは無しで。あんたが泣いてるのに、そんなわけねぇでしょうが」




見た目は軽そうなのに、その人はどこまでも穏やかな口調だった。





――おばあちゃんみたいな、心の人だ。






9/2/2022, 11:12:39 AM

お題《心の灯火》


俺の心に月をくれたのは、お前だ。


俺にとっての道標は、今も昔も月(おまえ)だよ。





わたしが?



目線を合わせ、やさしい声音で語りかける夜を纏う青年。



わたしが……。



青年の深い青の瞳が少女を慈しむように見つめる。青年は神代(かみしろ)と呼ばれる、《神の代行者》。


神に代わって、神の意思として――。



「君はもっと泣いていいし、俺を頼っていい」


「……でも。私は狭間の……」


「そんなの関係ない。君であるなら、俺は何者でもかまわない」





これ以上何を望むだろう。






私はこのとき誓った。――あなたをもう、悲しませたりしないって。




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