お題《真夏の記憶》
杜の奥 鳥居の向こう
濡羽色の闇の向こう側に
夜明けを夢見てた
逃げ水のように
追えば追うほど遠ざかる
追えば追うほど霞がかる
鳥居の向こうでしかあなたに会えない
会いたい時にあなたは会えない
それでも胸を焦がす涼やかな熱
待ちぼうけでもいい
それでもあなたがいい
「おれは鏡の向こう側でしか存在できない。おれは、ヒトを捨てたから。だからカミサマの怒りを買った、でも後悔はないよ」
「……想いを口にすることだけはできないんだ。ごめんね」
あなたはヒトじゃない
それでもいい
淡い希望でもいい
不条理なこの現実で
あなただけは信じられた
真夏に出会った
幻想と現実の狭間の境で
お題《心の羅針盤》
お題《泡になりたい》
朽ちてゆくだけのうつわだった
イチリンソウの咲く頃に
あなたの夢をみる
いつか、叶うと、信じてた
「君を世界でいちばん幸せにするよ」
朽ちてゆくだけのうつわだった
イチリンソウの咲く頃に
あなたの夢をみる
いつか、叶うと、信じてた
「ここを君とふたりで幸福の咲く国にしよう、誰も悲しまない、争いのない国に」
朽ちてゆくだけのうつわだった
イチリンソウの咲く頃に
あなたの夢をみる
いつか、叶うと、信じてた
花は枯れて大地に散るだけ
誰も知らない歌は
誰にも歌われることはない
誰も知らない物語は
誰にも語られることはない
朽ちてゆくだけの、うつわだった
イチリンソウの枯れる頃に
あなたの幻影を手をひかれる
待ち望んだのは枯れることのない、永遠
お題《波音に耳を澄ませて》
寄せてはかえる
寄せてはかえる
追いかけては遠ざかり
繰り返し 繰り返し 鼓膜に刻む
人魚の泡を
人魚の泡を
いつか聴いたあの歌は
人魚の残した形見だろうか
ゆらゆら ゆらゆら 揺蕩い
鼓膜のに響く水の音
魅了という名の呪いの果て
僕らは月の輝く夜の海にかえる
“水底で骨になり。水底で、青い夢をみる”
足を海水に浸せば
僕らは魚になる
僕らは泡になる
ゆらゆら ゆらゆら 彷徨い
僕らは月の輝く夜の海にかえる
僕らは水底から生まれ
僕らは水底に帰る
――眠ろう眠ろう現の想い出とともに
――眠ろう眠ろういつか、ふたたび目覚め、陽を浴びる日まで
《途中書き》
お題《空はこんなにも》
透く澄んだその瞳
忘れることはできなくて
今も想い出す
夜明けに淹れたハーブティー
吟遊詩人が語る亡国の空
――これは神代に滅んだ古の国の物語
歴史にものこらない小国の歩んだ、悲劇の物語
空は何も語らない
空は遠い果てに死んでしまった
空は何も語らない
《途中書き》