お題《元気かな》
鈴鳴桜の咲く季節に彼と出逢った
無愛想で
話しかけても無視
致命的なほどに私は好かれてはいなかった
彼と淡いの杜で過ごしたあの日々
鈴狐のなずなからは女の敵扱いされ
鈴烏の依澄はよく相談にのってくれて
鈴鳴の杜で一番美味しい和菓子を分けてくれた
神隠しで永遠に世界を渡り歩く運命づけられ
落ち込む私を彼は
「仕方ないから付き合ってやる。おれの神名に誓って、お前を元の世界へ帰す方法を探してやる」
「行くな、と一言、いえたらいいんだがな。おれにはできない。お前だから。お前だからこそ、できないんだよ」
「幸せを祈ってる。いつでもお前を想っているよ。
――出逢えたのがお前でよかった」
もう二度と逢えなくとも
“あなた”を愛しています
――自分で壊した日常を再生するために
私は“あなた”と交わした約束を胸に手紙に綴る
毎年桜の咲く季節になると私は言の葉を織る
泡沫だけどその日はいつも桜吹雪が日常を淡く染める
さあ前へ進もう
あなたがくれた約束で日常に煌めきを灯そう
鈴鳴桜の澄んだ音色に耳を澄ませば
――ほら。あなたの歌が聴こえる
お題《好きだよ》
“音”は人を喜ばせるための魔法
そう信じて疑わなかった
ひとりぼっちの学園のガーデンで
泣いていたら
そよ風に乗ってピアノの音色が舞っていた
耳に届けられたその音色は
“ああ……。あの人の宝物だ”
私は自然と涙していた
音楽に詳しくなくとも人を笑顔にしたり涙を誘ったり
“音楽は宝物だ”とあの人がそう表現していた
でもあの人は――音楽で私に幻想をかけた
“すべて忘れる”ように、と
でもそれは私を遠ざけるための魔法
“お前がいれば世界は色鮮やかになっていた。だからこそ、お前に、俺の傍にいて欲しくないんだよ”
学園のガーデンで密やかに紡がれる音の葉魔法
“魔法はいつも人の傍にあるよ。誰だって誰かを笑顔にする魔法がある”
あなたに出会って恋の音の葉を知る
「あなたが伝えてくれる“好き”は、こんなにもたくさんの音の葉が聴こえるんだね」
お題《桜》
春の庭園に迷い込む
これは神隠しか
それとも春の魅せる夢なのか
桜はいつの時代でも惹かれて
《途中書き》
お題《君と》
異世界と現実を結ぶストーリーテラー
キャラメル色のノスタルジー漂う紳士服
「やあやあようこそ。君の望む僕が、やって来ましたよお嬢さん。なになに? そんなの知らない? ――へえ。じゃあ君は何故“現実”に興味がないの? そんなことない、ってのは無しね。だって僕には“そういう子”がわかっちゃうからさ」
甘い焼き菓子のようににこにこ笑う青年
でもそれはどこまでいっても“不気味”だった
“そういう子”
引っ掛かる物言いだ
「取り繕うなんて無理だよ。“嘘”というものは、どこまでいっても“嘘”でしかないんだから。“日常”に辟易してるんだろう? 君は“現実を適当に生きてる”でしょ。つまらない、くだらないって。――それなら」
青年はふいに真面目な顔で花を降らせた
《途中書き》
お題《涙》
純粋な煌めきは深淵をも癒す
“涙”には不変の価値がある
深く腐った町の最果てまでに噂が届くほどに
わたしは抜け出したかった
耐え難い餓えと同じ境遇の中でも差別される
心の貧しさからも
(絶対に這い上がってみせる。絶対に――)
炎がゆらめくような美しい長髪をナイフで切る
風にさらわれ舞い上がるさまは真紅の花弁のようにも見えた
夜明けの涙は誓いだ
少女はまだ知らない
この涙がやがて連れてくる壮大な運命の物語を
「この娘もちがう。まがいものだ」
少年の氷の硝子のように冷たい瞳に連れてこられた娘たちはおびえた
少年もまた“涙”を巡る美しくも愚かな悪夢に踊らされていた
「聖女の涙なんてしょせんお伽話にすぎません。蒼明の王よ、賢い王なら、理解してますよね? 僕の言いたいことを――――」
王として生まれてきた少年は夜のように昏く嘲笑うそれを
睨み続ける
「涙を巡る物語は繰り返される」
そう告げた者は――きっと今もこの螺旋を高みの見物をしているのだろう