月下の胡蝶

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お題《些細なことでも》


お気に入りの海色のノートが無惨に引き裂かれている。


――こんなことされるのは慣れてる。

だって“日常”だから。でも――これはおばあちゃんと買い物に行って、お礼にってくれたものだ。花柄の刺繍が丁寧に織り込まれたハンカチ、パッチワークのポーチ、ブックカバー。

おばあちゃんの趣味はハンドメイド。ぜんぶ、心を織り込んで大切に作ってくれたもの。



周囲の誰かに相談?


誰が、助けてくれるの?


私がいくら訴えても、何もしてくれなかったのに。挙句の果てに、私を見るとバツの悪そうな顔をする大人たち。


もう、誰にも期待しない。


ノートを抱きしめて、教室を飛び出す。耳の奥にクラスメイトの嘲笑だけが、いつまでも残響して消えない。


よく前を見ず闇雲に走っていたせいか、誰かとぶつかってしまった。


「おっと、お嬢さん大丈夫ですかい――って。泣いてるのに、大丈夫なわけねぇな」


私は、はじめて泣いている事に気がついた。無我夢中で、全然気づかなかった。一言謝ろうとすると、その人はそれを制止する。


「よかったらオレに話してくださいよ」


「でも……!」


「大したことないは無しで。あんたが泣いてるのに、そんなわけねぇでしょうが」




見た目は軽そうなのに、その人はどこまでも穏やかな口調だった。





――おばあちゃんみたいな、心の人だ。






9/3/2022, 11:09:45 AM