椿灯夏《少しずつ削除します》

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8/19/2022, 11:36:24 AM

お題《空模様》



黄昏のワンピースを纏う。


鮮やかな朝焼けのあなたは、気に入ってくれるかな。


月の彼は「君によく似合う。ちょっと妬けるな」と、面白がってるようだったけど。


星々の少女たちは。


「きれいねぇ」

「いいないいな、黄昏姉さん。私たちも綺麗なお洋服着たいわ」

「朝焼けの彼とはうまくいってるの?」

「こらだめでしょ! 黄昏姉様が困ってるよ」



にぎやかな少女たちの声に、黄昏は苦笑いをするしかなかった。


月の彼はやれやれといった様子で、瞳から涙を落とす――瞬く間にそれは、三日月モチーフの青いピアスとペンダントに様変わりする。


まるでそれは魔法のように。


「青は幸せの色。応援してるよ、いつでも僕の心は君の心(そば)に」





「ありがとうみんな」



黄昏の彼女は、一番いい笑顔でお礼を言った。


朝焼けの彼への想いを胸に抱きながら。



8/18/2022, 11:40:07 AM

お題《鏡》


桔梗の花があしらわれた、白銀色に輝くアンティークの鏡。


その鏡に宿された想い。


その鏡にひそむ悪夢。



古より、現在に受け継がれる――。





今日も閑古鳥が鳴いている。



瓶詰めにされて置いてあるのは森から採取した月光を浴びた石、一夜だけ花開く夜想花、朝露纏う布、希少な本の紙切れ。透明な泉の水に浸されたそれは、現代の魔法使いにより依頼されたもの。


まれに、過去の魔法使いの依頼もある。


使い古されたポットには朝露と妖精の果実で淹れたお茶が、ゆるあまい香りを漂わせている。


硝子の器には青い花の砂糖漬けが入っている。透き通ったあまい香り――これもまたここの主(あいつ)の好きなものだ。依頼の報酬はお茶と菓子。珍しいものから王道なものまで――つまり、なんでもありなのである。



「相変わらず本本本――依頼の報酬は茶と菓子。主は歪だねぇ」


これは最高の褒め言葉だ。


扉がギィ……と開く音がした。鏡の中から出ることなく少年は、爽やかに毒を吐く。





「やあ主。今日はどんなガラクタを買ったの?」




8/17/2022, 12:22:02 PM

お題《いつまでも捨てられないもの》



すっかり色褪せてしまった文字。


何度も何度も見返した。



たとえ遠く離れていても僕らは、ずっとずっと一緒だ。





季節の花々を栞にして同封したり。


そこそこの名産品を。薔薇と蜂蜜のお酒、シロップ漬けにした果実、香草焼き、月魚の燻製――月の魔力が一番強い夜にだけ、それらを食しながら手紙を読む。



何千何万と交わした言の葉。


今日も弟子が手紙と紙包みを持って、愚痴るのを笑顔で聞く。





「紙なんか貯めて、一体どうするんです? 読んだら不要でしょうに」


「ただの紙切れが、僕にとっては一番の宝物なんだよ」





8/16/2022, 11:13:39 AM

お題《誇らしさ》



雪華(せっか)強くおなりなさい。守る者は誰より強くあらねばなりません、誰より美しく、綺麗な生き方をなさい。


――天に立つ者ならば。





食うに困らずの生活とはどんなものだろう。


空腹とは空白。



――生きるために。



なんでもいいからと、まだ熟してない青い実や草を口に入れ、ときには人様の畑から盗む。――どんなに不味くても食べるし、身体に良くないものでも食べる。




生きることに、意味はない。


ただ本能的に、死にたくはない。




そんな私を変えてくれたのは、今の姉様。



身寄りのない私を拾い、《雪華》という名前をくれた。



雪の降る日に出会ったから、と。




銀色の長い髪を結われた姉様が微笑む。季節の花々に囲まれた姉様は、世界にひとつだけの華。



「雪華の好きな紅茶を取り寄せてたのが今日届いたから、一緒に飲みましょう。それから紅茶によく合うお菓子も焼いたの」


「はい」





私は今日も姉様の言葉を胸に生きている。




8/15/2022, 11:12:29 AM

お題《夜の海》


夜が還るまで。


幻想と現実の狭間を彷徨う。




夜は言葉を走らせる。


淡い水彩の海のノートに、想うままに言葉を描き殴る。


最近入ったアンティーク雑貨専門のお店で、すてきな万年筆を見つけた。希少な木からつくった一点ものと言われたら買うしかない。それから深蒼という、珍しい深さの蒼とかいうインクを買った。


子供の頃なりたかった夢のカケラを夜になると、想い出す。


絵本作家の夢は、夜の海から始まって。


悲しい時姉さんが夜の海へ、ドライブに誘ってくれたのだ。


「夜の海には、月光くじらが希(まれ)にやってくるの。そのくじらはね、月灯りが食事なのよ。気分がいい日は星屑を吹きだすの」




姉さんは画家で、夢のある絵を描くのだ。

姉さんの部屋には木漏れ陽がさし、木漏れ陽の海にキャンパスがあるようだった。カラフルなお菓子の入った瓶に、たくさんの画材と本。



ずっと、魔法使いだと信じてたんだよね。






今でも夜の海を想い出すと、描くのは姉さんのいる美しい世界。




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