お題《神様が舞い降りてきて、こう言った。》
おまえの淹れたお茶が飲みたい。
神様の身代わりであるおれに、あのとき淹れてくれたお茶をもういちど飲ませてくれ。
星空が綺麗な夜ベランダに、突然その青年は降りてきた。一瞬流れ星が落ちてきたんだと錯覚してしまったが、どうやら違うらしい。
「――覚えてるおれのこと」
「どこかでお会いしましたっけ……?」
「そう」
戸惑いつつも、何気ない雑談をする。そのくせ自分の話はまったくしないものだから、おもに私の話になってしまったが。
それでも嫌な顔ひとつしない。
なんだろう……この小さな違和感。
どうしていいかわからず、とりあえずお茶をすすめてみることにした。お茶を淹れることは得意なのだ。祖母が茶道の先生だったからか、自然と茶道に触れ身についてしまった。
「あのう、お茶淹れましょうか? なんでもお好きなお茶淹れますよ」
「ほんとうか?!」
急に少年のようになって、不覚にもときめいてしまった。胸の中に流れてゆく流れ星。
そしてこう言った。
「おまえの淹れたお茶が飲みたい。
神様の身代わりであるおれに、あのとき淹れてくれたお茶をもういちど飲ませてくれ」
この感情を、織りまぜてお茶にしてみようか。
お題《誰かのためになるならば》
想いの原点。
原動力であり、追い風でもある。
「クオイ兄ちゃんは、どうしていつも笑ってるの?」
「笑顔でいたら、夜の底だって越えられる。それが嘘か真実(ほんもの)かより大切なことは、描こうってする想いなんだぜ」
いつも暁の国の辺境にあるちいさな教会で、子どもたちに物語の読み聞かせ、旅をしてきた自らの冒険譚、想いなどを語ったりしている。絵本を寄付したりと、クオイの活動は幅広い。
ふだんは手のひらサイズのグリフォン、フェンネルが、かばんに入っている。リシュティアから甘いものをもらううちに、甘党のグリフォンとなった。「ネルちゃん」と呼ばれている。
・手先が器用
ルシュラの懐中時計も直した。料理も実は得意で、行く先々で披露したりしている。スイーツやお茶を淹れる腕前はプロ並みだとか。
・人じゃないものにも好かれる
誰にも好かれるタイプ。老若男女問わず。
妖精とも仲がいい。
お題《鳥かご》
オリメと出逢うまでは、月のない鳥籠にいるようだった。
「ヨル様」
彼女にそう呼ばれるたび、心に春風が舞い込む。
永遠に、月のない鳥籠で生きていくしかないと思っていた。でもそれはきっと、自分の世界しか知らなかったからだと識るのはもっと先のこと――。
「オリメちゃんみてみて、サクラが星屑糖(こんぺいとう)くれたよ」
「まあ、偉いですわ」
おれの鴉のサクラを撫でている彼女と、彼女の心友である姫。どちらもおれにとっては、大切な花だ。永遠に枯れない心の花。
――きっとみんな、姫のことが好きなんだろうな。
暁の姫が。
お題《友情》
切っても切っても、きれないもの。
「魔王様〜今日の夕食は鶏肉のオレンジソテーだって」
部屋いっぱいに明るい声が響く。呼ばれた少年が、本から顔を上げる――淡い金色の髪に、サファイアの瞳。まるで《絵本の世界》からそのまま出てきたような見た目は、見る者を惹きつける。
《雨の中にいた記憶のない少年》――ユーリも、ここ暁の城に置いてもらっている身である。そしてここへ連れてきた少女は、リシュティア。笑顔の可愛らしい少女だ。
傍らに置かれた絵本を見、リシュティアが嬉しそうに言った。
「これクゥちゃんが描いた絵本だ!」
「姫も見るか? 新作だそうだ」
「――あ、ふふ」
「気づいたか」
少女が思わず笑みをこぼした理由を、ユーリは知っている。
「やっぱり、絵本の世界でもふたりは仲よしなんだね」
「だな」
やさしい眼差しの先には、いつもあのふたりがいる。
「クゥちゃんたち待ってるから、いこう魔王様」
「そうだな。待たせたらクオイがうるさい」
手をつないで、部屋を後にする。きっと、今日の夕食もにぎやかだ。
お題《花咲いて》
どんな闇さえも包み込んで、夜明けに変えていく。
その笑顔が曇ることのないように。
「ひめひめー! 会いたかったよ〜」
「わっ」
暁の城への訪問者――西の地方に住まう砂糖菓子工房を持つ少女は、リシュティアを猫のように可愛がり、代々城へ砂糖菓子を献上し、数多の地を駆け回る。
こう見えて、凄腕の少女なのだ。
「今日はどうしたの?」
「えへへ。なんでだと思う? ヒントはねぇ、あなたのそばにいる……あなたを溺愛するお兄さまたちよ」
「お兄さま?」
ちらりと少女は、ルシュラとクオイに視線をやる。
(でもひめひめは私のよ)
「……あー俺とルーくんのことだよねえ」
「もしかしなくても、そうだろう」
前も誰かに言われた苦い記憶がある。離れた場所で、少女とリシュティアを見守っていたふたりは、苦笑いを浮かべるしかない。
「ふふん、頼まれてたイチゴの宝石だよ、はいひめひめ」
「……きらきらしてる」
袋から取り出された砂糖菓子に、リシュティアは瞳を輝かせ――ルシュラとクオイを見る。
「クゥちゃん、ルシュ、ありがとう! 大切に食べるね」
部屋に、花が咲く。
彼女の笑顔は、春を呼ぶ。
「……まいったな」
「……ほんとうに」
彼女の笑顔は砂糖菓子。