月下の胡蝶

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7/27/2022, 11:44:43 AM

お題《神様が舞い降りてきて、こう言った。》



おまえの淹れたお茶が飲みたい。


神様の身代わりであるおれに、あのとき淹れてくれたお茶をもういちど飲ませてくれ。





星空が綺麗な夜ベランダに、突然その青年は降りてきた。一瞬流れ星が落ちてきたんだと錯覚してしまったが、どうやら違うらしい。



「――覚えてるおれのこと」

「どこかでお会いしましたっけ……?」

「そう」


戸惑いつつも、何気ない雑談をする。そのくせ自分の話はまったくしないものだから、おもに私の話になってしまったが。


それでも嫌な顔ひとつしない。


なんだろう……この小さな違和感。


どうしていいかわからず、とりあえずお茶をすすめてみることにした。お茶を淹れることは得意なのだ。祖母が茶道の先生だったからか、自然と茶道に触れ身についてしまった。


「あのう、お茶淹れましょうか? なんでもお好きなお茶淹れますよ」


「ほんとうか?!」


急に少年のようになって、不覚にもときめいてしまった。胸の中に流れてゆく流れ星。


そしてこう言った。






「おまえの淹れたお茶が飲みたい。


神様の身代わりであるおれに、あのとき淹れてくれたお茶をもういちど飲ませてくれ」




この感情を、織りまぜてお茶にしてみようか。



7/26/2022, 1:04:01 PM

お題《誰かのためになるならば》


想いの原点。


原動力であり、追い風でもある。



「クオイ兄ちゃんは、どうしていつも笑ってるの?」

「笑顔でいたら、夜の底だって越えられる。それが嘘か真実(ほんもの)かより大切なことは、描こうってする想いなんだぜ」


いつも暁の国の辺境にあるちいさな教会で、子どもたちに物語の読み聞かせ、旅をしてきた自らの冒険譚、想いなどを語ったりしている。絵本を寄付したりと、クオイの活動は幅広い。



ふだんは手のひらサイズのグリフォン、フェンネルが、かばんに入っている。リシュティアから甘いものをもらううちに、甘党のグリフォンとなった。「ネルちゃん」と呼ばれている。


・手先が器用
ルシュラの懐中時計も直した。料理も実は得意で、行く先々で披露したりしている。スイーツやお茶を淹れる腕前はプロ並みだとか。


・人じゃないものにも好かれる
誰にも好かれるタイプ。老若男女問わず。
妖精とも仲がいい。

7/25/2022, 12:16:46 PM

お題《鳥かご》



オリメと出逢うまでは、月のない鳥籠にいるようだった。


「ヨル様」


彼女にそう呼ばれるたび、心に春風が舞い込む。



永遠に、月のない鳥籠で生きていくしかないと思っていた。でもそれはきっと、自分の世界しか知らなかったからだと識るのはもっと先のこと――。



「オリメちゃんみてみて、サクラが星屑糖(こんぺいとう)くれたよ」

「まあ、偉いですわ」


おれの鴉のサクラを撫でている彼女と、彼女の心友である姫。どちらもおれにとっては、大切な花だ。永遠に枯れない心の花。




――きっとみんな、姫のことが好きなんだろうな。



暁の姫が。



7/24/2022, 11:43:00 AM

お題《友情》




切っても切っても、きれないもの。




「魔王様〜今日の夕食は鶏肉のオレンジソテーだって」


部屋いっぱいに明るい声が響く。呼ばれた少年が、本から顔を上げる――淡い金色の髪に、サファイアの瞳。まるで《絵本の世界》からそのまま出てきたような見た目は、見る者を惹きつける。


《雨の中にいた記憶のない少年》――ユーリも、ここ暁の城に置いてもらっている身である。そしてここへ連れてきた少女は、リシュティア。笑顔の可愛らしい少女だ。


傍らに置かれた絵本を見、リシュティアが嬉しそうに言った。


「これクゥちゃんが描いた絵本だ!」

「姫も見るか? 新作だそうだ」

「――あ、ふふ」

「気づいたか」



少女が思わず笑みをこぼした理由を、ユーリは知っている。



「やっぱり、絵本の世界でもふたりは仲よしなんだね」

「だな」




やさしい眼差しの先には、いつもあのふたりがいる。



「クゥちゃんたち待ってるから、いこう魔王様」


「そうだな。待たせたらクオイがうるさい」





手をつないで、部屋を後にする。きっと、今日の夕食もにぎやかだ。


7/23/2022, 12:01:03 PM

お題《花咲いて》


どんな闇さえも包み込んで、夜明けに変えていく。


その笑顔が曇ることのないように。




「ひめひめー! 会いたかったよ〜」

「わっ」


暁の城への訪問者――西の地方に住まう砂糖菓子工房を持つ少女は、リシュティアを猫のように可愛がり、代々城へ砂糖菓子を献上し、数多の地を駆け回る。


こう見えて、凄腕の少女なのだ。



「今日はどうしたの?」

「えへへ。なんでだと思う? ヒントはねぇ、あなたのそばにいる……あなたを溺愛するお兄さまたちよ」

「お兄さま?」


ちらりと少女は、ルシュラとクオイに視線をやる。



(でもひめひめは私のよ)



「……あー俺とルーくんのことだよねえ」

「もしかしなくても、そうだろう」



前も誰かに言われた苦い記憶がある。離れた場所で、少女とリシュティアを見守っていたふたりは、苦笑いを浮かべるしかない。



「ふふん、頼まれてたイチゴの宝石だよ、はいひめひめ」

「……きらきらしてる」


袋から取り出された砂糖菓子に、リシュティアは瞳を輝かせ――ルシュラとクオイを見る。


「クゥちゃん、ルシュ、ありがとう! 大切に食べるね」



部屋に、花が咲く。


彼女の笑顔は、春を呼ぶ。



「……まいったな」

「……ほんとうに」




彼女の笑顔は砂糖菓子。


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