お題《もしもタイムマシンがあったら》
名言――迷言? クオイはリンゴマニアである。
今日も暁の城は平和だ。ルシュラが使用人が淹れてくれた紅茶を飲みながら読書をしていると、またまた扉が強く開け放たれる。
「ルーくん! 俺未来いきたい!!」
ルシュラは一瞬ぽかんとし、それはすぐため息に変わる。毎度の事ながら、クオイにはふりまわされる。そして――意味がわからない。
「どうして、その答えにいき着いたのか、その理由を言え」
「ええ〜」
ルシュラは努めて冷静を心がけながら、とりあえず話を聞いた(しかたなく)。
想像しよう、そうしよう。
やはり、クオイはクオイである。
「絶対未来のリンゴの木は、とってもとってもなくならなくて、すぐまた実がなると思うんだ! こーんなでっかいリンゴがあるんじゃないか?!」
スケッチブックにでかでかと描かれたリンゴをえんえんと見せられるし、身振り手振り説明してくれるが――ルシュラは興味がなかった。
リンゴにしか興味がないクオイの話は、ルシュラでも食わない。
お題《今一番欲しいもの》
男クオイには欲しいものがある。
それは――。
「だめだ」
「リンゴの1000個や2000個くらい、べつにいいだろ! ルーくんのひとでなし!」
「良くないに決まってるだろう! だいたいこの前あったリンゴの山はどうしたんだよ?」
「全部アップルパイにして、食べてやったぜ」
「ドヤった顔をするな」
ここは暁の国。早朝から城内に響き渡った声の主はクオイ。――城に居候している、一応僕の親友だ。そして、世間で知らない人はいない有名な絵本作家でもある。
僕? 僕はここの国の王で、ルシュラという。毎日仕事とクオイの世話におわれている(いや、おわされているが正しいな)。
そこへ――。
「ルーシューラっ」
「リシュ」
駆けてきて、勢いよく抱きつくリシュティアを受けとめる。彼女は――《暁の姫》と呼ばれている少女で、僕の大切な存在だ。彼女もまたここへ居候していて、妹のように想っている。
夜空を思わせる長い髪に、ローズクオーツのワンピース。
そして、花のような笑顔。
「みてみてールシュの顔描いたの」
そこに、クオイが詰め寄る。
「えー俺は俺は?」
「あ、描くの忘れちゃった」
彼女の一言にまたわめきだすクオイは放置し、僕は思わずふっと笑ってしまう。そして、あらためて彼女にお礼を言った。
「ありがとう」
「うん!」
僕の、本当に欲しいものは――。
お題《私の名前》
はじめてのおくりもの。
この世で、たったひとつの――。
《名》とはおのれの意味であり、だれかが呼ぶための名だ。存在意義であり、生きていくために必要なもの。
でもわたしは名が無いから、だれにも呼ばれない。捨て子で、どこかの屋敷に拾われて、名前は必要ないと言われ番号で呼ばれる。わたしの他にも色んな子がいて、同じように番号で呼ばれる、それが《あたりまえ》。
そしてまたいらなくなったら捨てられ、また拾われてのくりかえし。もう、あきたの。それくらい《あたりまえ》なんだわたしたち《ドール》は。
人が楽をするためだけに生まれ、生きている屍。
偽りでもいい。
愛されなくてもいい。
《わたし》の居場所がほしい。
だって、名前は居場所でもあるから。
それは、ある日突然世界を変える。
大きな屋敷の広いお庭。光あふれるこの楽園で、ご主人様はわたしに微笑む。
「ローズクオーツからとって、《ローズ》はどうだ? おまえにぴったりだと思うんだ」
光のしずくがこぼれ落ちる。
ご主人様がくれた楽園は――わたしの凍った心をとかしてくれた。
お題《視線の先には》
秋の雪がはらはらと散りゆく街は黄昏色に染まる。
切り取られた季節は繰り返す。
ある青年は言った。「ここは誰かの夢。誰かの季節。失いたくない、このままでいたい――“繰り返す”にはじゅうぶんだろう?」
ある少女は嘆いた。「想いは時に人を苦しめます。それでも想わずにはいられないでしょう、わたしたち人は」
ある少年は、それを絵に描きのこす。
「僕にできることは、絵を描くことだから。この街を描くんだ。それがきっと救いになるって信じてる」
誰かの夢。
誰かの季節。
たったひとりの誰かを救うことが、この季節の先に繋がるんだ。
お題《私だけ》
長い旅路の果ての足跡は 私が今まで歩んできた軌跡
誰にも歩むことなんてできない
私だけの旅
私だけの宝物
《あなた》だから、ここまで来れた
《あなた》だけの旅の
《あなた》だけの物語を聞かせて?
紅茶に星屑を落として 心地よい風に揺られて
物語は始まる――