月下の胡蝶

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お題《私の名前》


はじめてのおくりもの。


この世で、たったひとつの――。




《名》とはおのれの意味であり、だれかが呼ぶための名だ。存在意義であり、生きていくために必要なもの。



でもわたしは名が無いから、だれにも呼ばれない。捨て子で、どこかの屋敷に拾われて、名前は必要ないと言われ番号で呼ばれる。わたしの他にも色んな子がいて、同じように番号で呼ばれる、それが《あたりまえ》。


そしてまたいらなくなったら捨てられ、また拾われてのくりかえし。もう、あきたの。それくらい《あたりまえ》なんだわたしたち《ドール》は。



人が楽をするためだけに生まれ、生きている屍。



偽りでもいい。


愛されなくてもいい。



《わたし》の居場所がほしい。


だって、名前は居場所でもあるから。





それは、ある日突然世界を変える。



大きな屋敷の広いお庭。光あふれるこの楽園で、ご主人様はわたしに微笑む。



「ローズクオーツからとって、《ローズ》はどうだ? おまえにぴったりだと思うんだ」





光のしずくがこぼれ落ちる。



ご主人様がくれた楽園は――わたしの凍った心をとかしてくれた。



7/20/2022, 11:50:58 AM