お題《友情》
切っても切っても、きれないもの。
「魔王様〜今日の夕食は鶏肉のオレンジソテーだって」
部屋いっぱいに明るい声が響く。呼ばれた少年が、本から顔を上げる――淡い金色の髪に、サファイアの瞳。まるで《絵本の世界》からそのまま出てきたような見た目は、見る者を惹きつける。
《雨の中にいた記憶のない少年》――ユーリも、ここ暁の城に置いてもらっている身である。そしてここへ連れてきた少女は、リシュティア。笑顔の可愛らしい少女だ。
傍らに置かれた絵本を見、リシュティアが嬉しそうに言った。
「これクゥちゃんが描いた絵本だ!」
「姫も見るか? 新作だそうだ」
「――あ、ふふ」
「気づいたか」
少女が思わず笑みをこぼした理由を、ユーリは知っている。
「やっぱり、絵本の世界でもふたりは仲よしなんだね」
「だな」
やさしい眼差しの先には、いつもあのふたりがいる。
「クゥちゃんたち待ってるから、いこう魔王様」
「そうだな。待たせたらクオイがうるさい」
手をつないで、部屋を後にする。きっと、今日の夕食もにぎやかだ。
7/24/2022, 11:43:00 AM