お題《花咲いて》
どんな闇さえも包み込んで、夜明けに変えていく。
その笑顔が曇ることのないように。
「ひめひめー! 会いたかったよ〜」
「わっ」
暁の城への訪問者――西の地方に住まう砂糖菓子工房を持つ少女は、リシュティアを猫のように可愛がり、代々城へ砂糖菓子を献上し、数多の地を駆け回る。
こう見えて、凄腕の少女なのだ。
「今日はどうしたの?」
「えへへ。なんでだと思う? ヒントはねぇ、あなたのそばにいる……あなたを溺愛するお兄さまたちよ」
「お兄さま?」
ちらりと少女は、ルシュラとクオイに視線をやる。
(でもひめひめは私のよ)
「……あー俺とルーくんのことだよねえ」
「もしかしなくても、そうだろう」
前も誰かに言われた苦い記憶がある。離れた場所で、少女とリシュティアを見守っていたふたりは、苦笑いを浮かべるしかない。
「ふふん、頼まれてたイチゴの宝石だよ、はいひめひめ」
「……きらきらしてる」
袋から取り出された砂糖菓子に、リシュティアは瞳を輝かせ――ルシュラとクオイを見る。
「クゥちゃん、ルシュ、ありがとう! 大切に食べるね」
部屋に、花が咲く。
彼女の笑顔は、春を呼ぶ。
「……まいったな」
「……ほんとうに」
彼女の笑顔は砂糖菓子。
7/23/2022, 12:01:03 PM