抹茶餅

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1/7/2024, 4:07:21 PM



「くしゅっ」
「おー、こりゃまた可愛いくしゃみだこと」
「うるさいな」
私はニヤニヤと笑う男に鋭い睨みを利かせる。言葉は白い息となり凍りついた。
今日の登校ルートは昨日の雪によって作られた白銀の住宅街。空気の冷たさが肌を刺し、足の先から頭のてっぺんまで締め付ける寒さだ。まさに今月1番の寒さとニュースで報道されるだけあると言ったところ。
「はぁ、なんで冬ってこんなに寒いわけ?雪も凍ったら滑りやすくなるし、嫌になっちゃう」
「ははっ、俺は好きだけどなぁ」
「なんでよ」
吹き荒れる風の寒さに身を震わせ、ザクザクと雪を踏みしめる度に靴を介して伝わる冷たさ。私はどうにもこの時期の気候が苦手で仕方がない。むしろ彼が冬を好きだなんて意外だ。きっとこの派手好きのお調子者なら「祭りがある夏が好きだ!」とか言いそうなのに。
「いやもちろん夏も好きだぜ?でもよぉ…」
彼はそう言うと、私の左手を手に取り自分のコートのポケットに突っ込んだ。
「こうやってイチャつけるじゃん?」
私は咄嗟に手を引っ込めるが、彼は私の手を握る力を強くし私を逃がさなかった。
やはりこうなったか。私は溜息をつき歩き始める。彼は抵抗をしない私に対して調子が良くなったのか、恋人のように手を絡める。そもそも彼とは“そういった”関係では無いのだが。
「ね、良いでしょ?こういうのも!」
ニカッと爽やかな笑みを零すも雪が溶けるほどの熱い視線を送る彼。彼の右手は私の手と恋人繋ぎ、左手は右手と同様にコートのポケットに突っ込んでいるが、その手にはナイフを携えていると私は知っている。まるで逃げるなと言っているようだ。
「……尚更嫌いになったわ」

冬も、貴方も。

7/24/2023, 2:22:09 PM

「男女の友情は成立すると思う?」
「いや、するでしょ」
HRが終わった放課後。日直の仕事を終えた私達は家に帰る為、支度を進める。教室は真っ赤な夕日に染まり、外からはカァカァとカラスの鳴き声が聞こえていた。
「というか、いきなり急だね」
どうしたの?私は聞き返す。当の質問をした彼は同じ日直だったにも関わらず、既に帰り支度を済ませていて、私を待っているのか机に座ってぶらぶらと足を揺らしていた。
「うーん。なんとなく?ほら、よく言うじゃん。男女の友情は成立しないって」
「確かに言うね。でも、成立するよ」
確信を持って言える。私のはっきりとした物言いに彼は少し驚いた表情を見せ、どうしてと聞き返した。
「だって、私達がそれを証明してる。」
そう、私達は同じ日直であると同時に小学生から10年の付き合いがある友人だ。勿論学校も一緒だし、遊ぶ時も一緒。笑う時も泣く時も一緒。でも決して恋人にはならない関係。
「私たちのことを友情と呼ばずになんて呼ぶのさ」
私の問いに彼は言葉の代わりにキスで返事をした。
「僕は友情で終わらせる気、無いんですけど?」

あれ?

7/16/2023, 2:39:22 PM

「はぁ〜好きぃ〜〜……」
「また、隣のクラスの子か?懲りねぇなお前も」
呆れる俺にまたじゃないもんとこいつは不貞腐れたように言った。3ヶ月前、こいつは好きな人が出来た。隣のクラスにいる女だ。パッと見地味で根暗そうだがこいつにはそれが良いらしい。
隣のクラスの子を好きになってからこいつはどこかちょっとおかしい。女好きだったこいつは女遊びをやめ、サボり常習犯だったのが真面目に授業を受け出す。
「でもな。何も無い空に向かって好きぃ〜〜なんて言ってもよ。友人としてかなり引くわ」
「え〜?だってさぁ〜ふふふ……あの空、まるであの子の瞳みたいで澄んでて綺麗なんだよ!」
それを心から思っていても言うな。
ニヤニヤくふふと笑うこいつに俺は鳥肌を立てながらも教室の窓から空を覗いた。空は雲ひとつ無い青空。風流だとか美だとかを大事にしているやつはこれを「綺麗」だと、「美しい」だというのだろうが、俺にはいつも通りの普通の空にしか見えない。
「はぁ〜〜〜〜〜……早く放課後になってさ。」
「……おう。」
「あの子に会って、告白して、そしてデートして……結婚もしたいな……」
「……それを心から思っていても言うな。」
俺は先程口にしていなかったことを遂に言った。
それに。
「まだお前、あの子と1度も話せてないって自分で言ってただろ。」
気が早いんだよ。コイツ。

7/13/2023, 2:29:21 PM

この世には2種類の人間がいる。
天才か、凡人か。
「あーはっはっはっは!!どうだ!今回の定期テストもオール100点さ!」
天才である彼は高らかに笑いテストの結果を私に見せつけた。一方で凡人の私は苦笑いをするしか無かった。
毎回毎回、テストがある度に100点の結果を私の元へ見せに来る彼。席も近ければ同じクラスでもない私にこうしてテストの結果を自慢しに来るなんて、よっぽど暇なのだろう。
「さぁ、君もテストの結果を見せたまえ。ま、概ね予想はつくがね」
「うーん。今回はちょっと数学が難しかったかな」
私は自分のテストを机の上に広げる。テストの点数はどれも60点や70点等の真ん中よりもちょっと上の点数。いや、平均点からすると高い方ではあると言いたい。
「なんだ。相変わらずつまらない数字だなぁ〜?やはり君はどこまでも平凡で凡庸で凡人だ!!!!」
3連続凡!全て同じ意味だが。
というかそこまで凡凡言われたら少し怒りが湧いてくる。私は明らかにムッとさせ、テストを机の中へしまう。少し乱暴に入れたせいか、テスト用紙がくしゃりと折れた音がした。
「私が平均的な女だってことは十分にわかるよ。何?そんなに下を見て楽しいの?」
「いいや?僕にそんな下劣な趣味は無いね!」
じゃあどうして。私がそう聞くと彼は頬を赤らめそれでいて堂々とした態度で言い放った。
「優越感さ。君が僕に対する劣等感を見せてくれている時、僕は最高に優越を感じそして興奮する!!」
最低だ。私は思わず立ち上がり彼に向かって平手打ちをしようとした。
だが、呆気なく平手打ちをしようとした右手は彼に掴まれ彼の方へと引っ張られる。彼の胸元に倒れ込みそうになり、私は左手を机につきキッと彼を睨んだ。
「あぁ……その顔だよ。その顔をよく見せてくれ」
彼は目をかっぴらきながら、顔を近づけニタリと笑う。
手を掴まれている私は逃げることも出来ず、彼の狂気に恐怖を感じながらも頭には1つの疑問が浮かんで消えなかった。
優越感に溺れる彼は、本当に天才だったのだろうか?

7/12/2023, 2:29:27 PM

「────でさ。俺はとりあえず、東京の大学で輝かしいキャンパスライフを迎えようと思うんだけども。」
「はぁ。」
心底どうでもいい。私は無関心な溜め息を零す。
幼馴染の彼とは18年。生まれた時からずーっと文字通り一緒にいた私達はいつしかそのまま高校生になっていた。けれど気持ちは18年もいれば変わるもの。それこそ幼少期は彼にべったりだった私は、時を経て段々と広がる日常と同時に幼馴染の興味さえも薄れさせていった。
高校だって、お互い家が近くの高校を目指した結果が一緒の高校になったというだけ。今更進路がなんだって言うのだろうか。
目の前の彼はつまらなそうに頬ずえをつく私を見てにやりと笑う。
「そんな顔すんなよ〜。…お前、一緒に来ない?」
「なんでよ。私、東京の大学には興味無いんだけど」
大学の誘いに乗らない私に今度は彼が大袈裟にため息をついた。
「これまでずっとさ。俺たちずっと一緒だったじゃん?それこそ家も隣だし、小さい頃はお前が俺の後ろをついて行ったりもしたし、逆に今はお前の後ろを俺が追いかけてる。」
「…何?突然。それと進路は関係無いでしょ?」
「関係あるよ。」
私の言葉に彼はキッパリと断言した。私は思わず眉間に皺を寄せる。「まぁ聞いてよ」と彼は私の頬ずえしていた手を取り握った。
「これまでずーっと何をするにも一緒だった俺達が突然離れ離れになっても生きていけないと思うんだ。だって、一緒だったんだもん。だからさ、これからもずっとお前とは一緒に居るべきなんだ。俺もそりゃ東京なんてどうだっていいけど、そこでなら俺達の仲を離してくる同級生もいないし、わざわざ隣の家に行かなくても一緒に同じ部屋に住めばいつだって会える。」


これまでずっと一緒ならこれからもずっと一緒にいるべきなんだ。

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