雪
「くしゅっ」
「おー、こりゃまた可愛いくしゃみだこと」
「うるさいな」
私はニヤニヤと笑う男に鋭い睨みを利かせる。言葉は白い息となり凍りついた。
今日の登校ルートは昨日の雪によって作られた白銀の住宅街。空気の冷たさが肌を刺し、足の先から頭のてっぺんまで締め付ける寒さだ。まさに今月1番の寒さとニュースで報道されるだけあると言ったところ。
「はぁ、なんで冬ってこんなに寒いわけ?雪も凍ったら滑りやすくなるし、嫌になっちゃう」
「ははっ、俺は好きだけどなぁ」
「なんでよ」
吹き荒れる風の寒さに身を震わせ、ザクザクと雪を踏みしめる度に靴を介して伝わる冷たさ。私はどうにもこの時期の気候が苦手で仕方がない。むしろ彼が冬を好きだなんて意外だ。きっとこの派手好きのお調子者なら「祭りがある夏が好きだ!」とか言いそうなのに。
「いやもちろん夏も好きだぜ?でもよぉ…」
彼はそう言うと、私の左手を手に取り自分のコートのポケットに突っ込んだ。
「こうやってイチャつけるじゃん?」
私は咄嗟に手を引っ込めるが、彼は私の手を握る力を強くし私を逃がさなかった。
やはりこうなったか。私は溜息をつき歩き始める。彼は抵抗をしない私に対して調子が良くなったのか、恋人のように手を絡める。そもそも彼とは“そういった”関係では無いのだが。
「ね、良いでしょ?こういうのも!」
ニカッと爽やかな笑みを零すも雪が溶けるほどの熱い視線を送る彼。彼の右手は私の手と恋人繋ぎ、左手は右手と同様にコートのポケットに突っ込んでいるが、その手にはナイフを携えていると私は知っている。まるで逃げるなと言っているようだ。
「……尚更嫌いになったわ」
冬も、貴方も。
1/7/2024, 4:07:21 PM