抹茶餅

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逆光


「なぁ、それまだかかるのか?」

太く低い声と共に男は、特徴的な太眉を下げてこちらを覗く。突然の登場に驚いた私は、ノートとのにらめっこ負け、顔を上げた。
男……いや、クラスメイトの大島君は、快活な笑い声と共に「驚きすぎ」と言う。

「ご、ごめん。すぐに終わらせるから」
「あぁ、いや。急かすつもりじゃないんだ。いつもは俺が君を待たせてるし」

そう話す大島君は柔道部だ。今日は部活が休みだと言っていたから、こうして律儀に私を待っているのだろう。
かくいう私は日直で、日誌を書くという仕事を終わらせるべく必死に筆を走らせる。

「日直の仕事も大変だな」
「あはは……日誌、書くの苦手で……」
「国語成績5なのにか?」
「それとこれは別なんですよ大島君」

苦笑いをする私の頭上に影が落ちる。
そこで私ははっ、と気付いた。
しまった。

「敬語」

元々低い声がさらに低くなって私の耳へと届く。
顔は上げられない。表情は怖ばり、頬からは冷や汗が流れている。恐怖を、彼に悟られてはいけないのだ。

「いま、敬語使ったよな」
「ち、違うの。その、えっと」
「それに、呼び方も違うだろ」

大きな手が頭に伸びるのを感じる。
怒った大島君は怖い。彼は人懐っこく爽やかで老若男女好かれる青年。

でも、私にだけは違う。

「ごめん、ごめんね。総くん」

刺激を与えてはいけないのだ。怒った大島君は私を気が狂ったように暴力で支配し、食い散らかす。
もうあんな思いはしたくない。

「……そうだよな」

大島君の手は私の頭に置くと、1つ間を置いてくしゃりと撫でた。

優しげな声に顔を上げる。大島君の表情は逆光でよく分からなかったが、口元が歪んで笑っているように見えた。

「早く日誌、書き終わらせて帰ろう。俺、下駄箱で待ってるから」
「う、ん」

大島君は私の頭から手を離すと、リュックを背負い直して教室を出ていった。
私は書き途中だった日誌を書き終えると、急いで職員室へと日誌を返しに向かう。


どうか日誌を読んだ先生が、私のSOSに気付きますように。
そして出来ることなら、彼がクラスメイトとしての本来の距離感を思い出してくれますように。



『今日は嬉しいニュースがありました。
林先生の子供の誕生日みたいです。
5歳で元気いっぱいらしいのでまだまだケ
ガも多いかもしれませんが、5歳を楽しんで!』

1/24/2026, 3:11:05 PM