ノーネーム

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9/5/2022, 12:27:15 AM


絶え間なく降り注いでいた
夢とか希望とかきらめきめいたものが

音を奏で、きらきらと

それは誰の為でもなく
僕の為だけにと疑わなかった日々が懐かしい

目一杯浴びて
びしょ濡れになったって嬉しくって

小説家になりたかった、表現は苦手だけど
天才になりたかった、努力は嫌いだけど
みんな幸せにしたかった、
僕は幸せじゃないけど

それが叶わないと知っていても
画用紙からはみ出ても構わず描いた

それを見て笑ってくれる大人がいて
はしゃいでいた、楽しかったんだ

現実逃避だったのかもしれない
でも僕にはそれで丁度良かった



そのまま居れたら良かったよな

何も知らないまま



8/27/2022, 3:25:57 PM


街灯も届かない、雨の音しか聞こえない
路地裏のような場所で

建物の隙間から漏れる繁華街の灯りを
ただぼーっと眺めては雨に佇む影が一つ

闇に紛れるように黒いフードをかぶり
薄っぺらい本を一冊、傘代わりに開いていた

それは心の中そのものを書き溜めたある男の物語
名作とは程遠い、所詮自己満足の殴り書き

それでも一番大事だった

ページをめくるたび、
濡れて、破れて、溶けて排水溝に流されていく

誰にも知られる事もなく、誰の記憶に残る事もなく
この体も一緒に溶けて流れてしまえと思った

濡れに濡れて冷えてそれでも
雨はこの体を弾いていく
熱を作ろうと震える鼓動が雨の音よりうるさくて

もういいよ もういいからと
握りつぶしてしまいたかった

生きようとするこの体が
うっとおしい
綺麗に流れていった心が
羨ましい

でも、
どうせ諦めても消えないなら
どうせいつでも流せるなら

せっかく雨に流したのに
ほら、また元通りだ
空っぽになったはずの心の中が
また疼きだす

一つ書きたい物語ができてしまった

次は誰かの心に残るような綺麗な物語を


8/17/2022, 2:58:32 PM


案外あっさりと捨てられる性格だった
昔からそう、綺麗好きじゃないけど

嫌になって、忘れたくて捨てた訳じゃない
役割を終えただけ、愛着もそこそこに、と

だから後悔はなかった
何を捨てたのかももう覚えてないほどに

目に見えるから手に取って
感触があるからくしゃくしゃに丸めて

そうして気付いた
物なら簡単だっただけの話しだって事


いつまでも捨てられないものなんて
僕の心の中にはごちゃごちゃ溢れているよ

目にも見えない、感触もない、
こんなに捨ててしまいたいと思うのに

たまに愛着なんてものも
混ざってくるもんだから

どうしようもないよね、ほんと

8/16/2022, 1:32:25 PM

誇らしさ?
あいにく自分に値打ちがあるなんて
一度も思った事はないよ

強いて言うなら詩を作る事
なんて嘘だよ、言ってみたかっただけ

どうしても書けないんだ
誰かの為に前向きに頑張れと
背中を押せるような詩も

誰かの為に優しく大丈夫だよと
包み込めるような言葉も浮かばず

結局自分の為だけに書いてる
吐き溜めみたいな僕の詩が
自分の誇らしさなんてあまりにも傲慢だ

それでも苦しいが消えないこんな夜は
自分の言葉で吐き出さなきゃ
本当に死んでしまいそうで

それはきっと僕だけじゃない
その中で

頑張れと真っ直ぐな詩を書いてる人がいた

泣いちゃうくらい優しい詩を書いてる人も

キラキラと輝くような恋の詩を書く人も

難しい言葉を綺麗に紡ぐ詩を書く人も


比べてしまう自分が情けないけれど
そんな詩を僕も書けたら…と
今日も誰かの詩を読む



8/11/2022, 3:14:09 PM

定番の遊具があるだけの
小さな公園の錆びたベンチの脚の側に
誰かが落とした麦わら帽子が
空を仰いで落ちていた

昔は猛暑の日なんて無くて
夜は寒いくらいだった田舎の町も
今じゃ灼けつく肌が刺すように痛くて
夜になっても冷めてくれない

耐性がない僕には生き苦しい季節になった

こんなんじゃなかったのにな
毎日麦わら帽子を被っては
夢中で夏を追いかけ回していた
自分は無敵だったんだよ、あの時確かにね

ある時無敵な少年は少しずつ違和感を覚えた
同じ夏のはず、なのに
見える景色はどんどん変わっていく
背丈が伸びたせいにしていたけれど

自分を守れ、と
警告音が蝉のように鳴り響いた
自分の声でさえ聞こえないほどに

それでも無敵であろうとした
負けたくなかった、頑張れば報われる
大丈夫、大丈夫、
ひたすらに麦わら帽子を握りしめてた

でもね
そもそも敵なんてどこにも無かったよ
自分で敵を決めつけて意気がってただけで

警告音を無視した僕には守るすべもなく
麦わら帽子は静かに灰になっていった

無防備なまま影だけが長く伸びて
もう何度目の夏だろう

警告音はもう鳴らない
自分の声だけが虚しく日暮れに鳴いて

いつの間にか
あの麦わら帽子は影も残さず無くなっていた

それでも
強くなりたい、僕の声だけが
ぬるい夜風に響いていた


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