ノーネーム

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定番の遊具があるだけの
小さな公園の錆びたベンチの脚の側に
誰かが落とした麦わら帽子が
空を仰いで落ちていた

昔は猛暑の日なんて無くて
夜は寒いくらいだった田舎の町も
今じゃ灼けつく肌が刺すように痛くて
夜になっても冷めてくれない

耐性がない僕には生き苦しい季節になった

こんなんじゃなかったのにな
毎日麦わら帽子を被っては
夢中で夏を追いかけ回していた
自分は無敵だったんだよ、あの時確かにね

ある時無敵な少年は少しずつ違和感を覚えた
同じ夏のはず、なのに
見える景色はどんどん変わっていく
背丈が伸びたせいにしていたけれど

自分を守れ、と
警告音が蝉のように鳴り響いた
自分の声でさえ聞こえないほどに

それでも無敵であろうとした
負けたくなかった、頑張れば報われる
大丈夫、大丈夫、
ひたすらに麦わら帽子を握りしめてた

でもね
そもそも敵なんてどこにも無かったよ
自分で敵を決めつけて意気がってただけで

警告音を無視した僕には守るすべもなく
麦わら帽子は静かに灰になっていった

無防備なまま影だけが長く伸びて
もう何度目の夏だろう

警告音はもう鳴らない
自分の声だけが虚しく日暮れに鳴いて

いつの間にか
あの麦わら帽子は影も残さず無くなっていた

それでも
強くなりたい、僕の声だけが
ぬるい夜風に響いていた


8/11/2022, 3:14:09 PM