あの時君は、その人のことを光のようだと思っていたのではないか。それならば自分は影かななんて。
光には、必ず後ろに影がある。もしかしたら、光のように思っているその人が、君のことを光だと思っているかもしれない。誰かが光で、他の誰かがその人の影なんかではない。
たとえ、どんなに光輝いているかのように見えても、その人の一面でしかない。もしもその時、光が当たっていたとしても、その人の心のうちはわからない。そんな中でも、ずっと自分の影の部分を見つめているのかもしれないのだから。
みんな光と影の部分でバランスをとっている。それぞれ違う。どれがすごいとか優れているとか、だめだとか、そんなことでもない。
「光と影」
あなたは、今もこの道でがんばっていると思っている? 新しい道へ行くと言って、離れていったのだから。
すごくやりがいがあって楽しかった。でも、無理をし過ぎて、もう見るのも嫌になってしまった。それからは、まったく違うことをした。頭の片隅には、置いてきてしまった思いがずっとあった。
ほかのことを始めてみても、なんだかんだでその道はよく進まなくなった。不思議なくらい弊害がきた。きっと心の奥底では、そのことを本当にしたいと思ってないのだ。やらなくてはと義務的に思っているだけなのかもしれない。
また、心の片隅に追いやっていたことを始めてみようと思った。うまくいこうといくまいと、心の底から楽しんでいたい。
そして、あなたにまた会うことがあったら、続けているよと笑顔で伝えたい。
「そして、」
日が暮れるのが早くなった。しかも日差しがなくなると、一気に風も冷たく感じる。強く吹き付ける風に、思わず下を向くと、前方の暗がりにぽつぽつと灯りが見える。ゆるゆると動く灯りに照らされていたのは、ワンコだった。
首輪についた灯りが、顔の辺りをぼーっと照らしている。暗闇に馴染む色合いなので姿形がわかりにくかったが、よく見ると頭の部分がもふもふと大きく、体のほうがほっそりとしている。
気づくと、その大きな目がこちらをじっと見ていた。吠えるでもなく、しっぽを振るわけでもなく、ただただ見つめられている。というより、すっかりその態勢で固まっている。
飼い主さんが、「行くよ」といいながらリードをひく。それでも動かない。私が横を通り過ぎる時もじーっと見ている。かわいい。思わず声が出そうになる。大きな目とそのもふもふの頭のバランスが良すぎた。近寄りたくなるのを我慢して通り過ぎた。
それだけだけど、寒風の中ほっと心が温まった。散歩中のワンコに出合うのは、私の密かな楽しみなのだ。
「tiny love」
おもてなし上手な人に憧れる。小さい頃から、人を家に招き入れることが少なかったし、そもそもそういうことが苦手だと思う。
おもてなし上手な人の家に行くと、そのさりげない気遣いに驚く。清潔に整えられた部屋。相手をリラックスさせながらも、程よいタイミングでものごとが進んでいく。たくさんの手料理が用意されていることもあるし、みんなで持ち寄ったものがあれば、手際よく並べられる。
自分の気の利かなさを思い出すひまもなく、心地よい時間が流れていくのだ。もうすっかり、その人のおもてなしに甘えてしまう。
それなのに、心の底はどこか居心地が悪い。本当はその人に気を使わせているのではないかと、もやもやとしてしまうのだ。
後で、その人に聞いてみたことがある。その人は、笑いながら「おもてなしをするのが好きなのよ。こんなのが好きかな、こうすれば喜ぶかなとか考えながら用意するのがね。だから、楽しんでくれたらいいのよ」。
ああ、そうなのか。私は、その思いに応えることでよかったのだ。
「おもてなし」
私は知っている。君の心の中にあるものを。ふとした時に見せる目は、優しい。
同じ場所にいないことを選んだ。交わす言葉は今までとは違う。事務的で素っ気ない。それでいい。私は大丈夫だ。
そして、一人になったとき、自分の心にも消えない何かがくすぶっているのを知った。君の目に、自分の心の焔を見ていたのだろうか。それがまた燃え上がることはない。でもひっそりと、心の奥を温めてくれている。
「消えない焔」