水上

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7/14/2022, 1:13:59 PM

新進気鋭の作家が手掛けた、前衛的アートのような光景。言葉の中には決して収まりそうもない。

「ねぇ……」

これでよかったんだよね?と小さく呟いた声は彼女の耳には届かない。男の頬にはとめどなく涙が伝う。

つややかな赤が、小さな水溜りを作る。そのまわりには無惨に切り取られた紫陽花が並べられていく。

初めて贈ったネックレス、誕生日にもらった万年筆、旅行の記念にお揃いで買った切子のグラス。大切な思い出も一緒に飾り付けられた。

男はかばんから、彼女の大切にしていたカメラを取り出すと、自らが作り出した景色に向けてそのレンズを構えた。

異様な光景、としか言いようのないそれ。ただ静かに、シャッターを切る音だけが響いた。


〉目にしているのは

「お題:あじさい」の続き。

愛故に未遂か、気が触れて実行か。
あれを書いてた頃は自分でも分からなかったけど
このお題ならこの結末かな、と。

7/13/2022, 1:34:18 PM

ぼくはお父様と同じ、プラチナブロンドの美しい髪だ。この色はぼくの自慢。お父様もいつも嬉しそうにぼくの髪を撫でてくださるんだ。

お兄様はお父様と瞳の色がお揃い。空のように美しいロイヤルブルーだ。お父様はいつもお兄様に「その瞳は知識の色。国を統べる者に相応しい」と仰っている。

だけどお兄様は、本当はお勉強が苦手らしい。

お父様は、お兄様とぼくに家庭教師を呼んでくださったけど、いつも先生はお兄様の態度や成績に頭を悩ませている。

「私の可愛い王子。きっと兄君のお役に立ってね。陛下のためにも」

お母様はぼくがお勉強で褒められるととても嬉しそう。ぼくのこともたくさん褒めてくれる。


数年経ったある日、ぼくとお母様は、お父様のお住まいから離れた塔に移された。お兄様のお母様――王妃殿下がお決めになったことだった。

王宮内に出入りする一部の人達から、次期国王にぼくを推す声が上がったらしい。

お兄様は相変わらずお勉強の時間に城下へ遊びに出たり、先生相手に傲慢な態度を取ったりと、好き放題やっている。最近はお父様も頭を抱えていたっけ。

お母様もぼくも、一度だって王位を欲したことはない。あの椅子はお兄様のものだと分かっている。

けれど臣民からの支持を得られないのも事実。

智の蒼眼は今頃、何を見つめているのだろうか。


〉優越感、劣等感

7/11/2022, 9:10:32 PM

サブスクを頼りに、お気に入りの音楽に浸る。こういう時は現代の利便性をありがたく、愛しく思う。
プレイリストは好きなアーティストが公開して間もないもの。あの人が組んだ、あの人も聴いた。そう思うだけで幸福度は増す。自分の単純さを感じながら朝のルーティンをこなしていく。

目覚めてまず机に向かうのが自分の決め事。ここは書き物用の場所。ブラウンのペン立てにはボールペンからはさみまで、様々がずらりと並ぶ。その隣りには白い木目のディスプレイ。小瓶に詰めた小さな小さな宝石たち。数冊のノートは用途別に分かれている。

そのうちの一冊をひらいた。書き始めてから一ヶ月が経って、もう明日の分で終わるページ。

そういえば、最後に手紙を書いたのはいつだっけ。

ふと、懐かしいことを思い出す。新しいことは好きだ。けど同じくらいアナログなことも好き。そんな性分なので、昔は何人か文通相手がいた。

便箋を選ぶ時間、もらった手紙を読む時間、返事を書く時間、切手を選んで貼る時間、ポストに投函しに行く時間。

そのどれもが好きだった。

傍らでスマホが短く振動する。見慣れた緑色のマークが通知に流れ込んだ。

いつの間にか色んなものがこうしてひとつに集約されて、便利になった。だけど、自分の好きなものが途絶えてしまわないように、好きを忘れずに生きていきたいなぁと、まだ覚めきらない頭でぼんやり思う。

〉1件のLINE

7/11/2022, 2:49:55 AM

夢見は最悪だった。

この人がこんなことを言うわけがないとわかって、途中で夢だと気付いた。それでも――


〉朝、目が覚めると泣いていた


そんな朝、数年に一度くらいありますよね。

7/9/2022, 10:25:51 AM

理想と現実の狭間で揺れる心。何を思い、何を選べばいいのか。私は未だに決めあぐねている。

誰かと同じで安心してしまう国民性も、ありふれた在り方を良しとする風潮も。右に習えのスタンスで導き出せる現実に、自由に勝る幸福があるとは思えない。どんな幸せも、自分で選んでこそだ。

強要された当たり前の先にあるそれなりの幸福。時々はそんなこともあるのだろうけれど、雲泥の差なのは明確だ。

……どうしても、拒絶反応のようになるね。ずっと、ずっと嫌だった。こういう時はこうあるべきとか、女の子なんだからとか。言われ続けることが。

本来、当たり前なんてどこにもない。それこそが当たり前の考え方だと、私は思う。こんな言葉や考え方があること自体がそもそも鬱陶しい。

まずは自分がどうしたいか。
私の人生はどこまでも私の選択の果てに続く道であってほしい。

そういう生き方を選べる自分でいたい。
まだ上手く出来なくて、悩んだり迷ったりすることばっかりだけど、そんな日々が

〉私の当たり前


矛盾だなぁ。でもやっぱり嫌いだよ。こんな言葉。

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