「4月1日です、みなさんおはようございます。早速ですが速報です。地球にいまだかつて無い大きさの隕石が迫っており、世界各国は協力して対応を急いでいます。今のところ到着推定時刻は明日の――」
あした世界が終わるなら、ゆっくり深呼吸をして。
あした世界が終わるなら、この世界を目に焼き付けて。
あした世界が終わるなら、今から何をしちゃおうか。
バイトにも行かなかったけど別に連絡も来ないし、たぶんみんなそれどころじゃないよね。
お砂糖入りのカフェラテ片手に、チョコレートを探す。もうダイエットとかどうでもいいし。
なんか外騒がしいね、みんなちょっとやばい感じ?やだなぁ最後くらい楽しく過ごそうよ。平和がいちばんでしょう?
あぁ、全然平和じゃないから終わるのか。
あした世界が終わるから、ゆっくり深呼吸をして。
あした世界が終わるから、この世界を目に焼き付けて。
あした世界が終わるから、ただここにいる。
「この突如として現れた隕石に果たしてこの星は対応出来るんでしょうか?なぜこんなに接近するまで何のレーダーにもかからなかったのか!本当に、これがエイプリルフールの嘘であればどれほど良かったかと――」
あした世界が終わるから、ゆっくり今を生きよう。
〉エイプリルフール
王国の守りの要たる聖女は死んだ。秘密裏に処刑された。何もかも滅べばいいと世界を呪いながら。
彼女を殺したのは国だった。国民からの支持も富も権力も、全てを欲した国の王や重臣たちだった。
どんな命も分け隔てなく慈しむ聖女は、多くの支持を得、後ろ盾を持ち、富を集めた。彼女がそれを望まずとも。
聖女の命が潰えてまもなく、王国の各地には不審火が続いた。人気の無い森や、住宅街、貴族の別荘、牧場、ありとあらゆる場所で様々が燃えた。
不思議なことに、その火は何をしても消えない。そして気が付くと、世界は火の海と化した。王宮も、王さえも燃やして灰ばかりが残ると、火は全て消えた。
灰になった世界で、人ならざるものは呟く。
「生きるべきはあなた」
数え切れない命を犠牲に、世界に一筋の光が降る。刹那、灰の中に一人の女性が立った。彼女は何もない世界に驚き、辺りを見回す。そして、空に立つ姿を見つけて微笑んだ。
〉ハッピーエンド
「楽な方がいい、とは私は思わない。好きだからやる」
そう言ってきみは、お手製のレモネードシロップをグラスにたらした。氷と、炭酸水。マドラーでカラカラとまぜる。庭先で摘んだ名前の覚えられないハーブも乗せて。
窓辺のデスクには、ずらりと手帳にノート、ペン立てが3つ、シール収納に、ブック型ケース。
君がゆるやかな足取りで持ってきたのは、甘い香りを立てて焼き上がったオートミールクッキー。
「時短にもなるし、味や質だって遜色ないでしょ?」
「それはそれ、これはこれ」
「自分でやる意味なくない?」
手間隙掛けて、なんて昔みたいなやり方の何が良いのか全然わからない。無駄じゃん。
「別に意味なんてどうでも良くない?自分が笑えるほうを選ぶよ」
〉意味がないこと
明度を落とした部屋の片隅で、あかりを灯して机に向かう。
好きなものを集めたデスクの上に、広げたノートとお気に入りのペン。
部屋全体を灯すのが悪いとか、何か都合が悪いとか、そういったことは何もないのだけれど、片隅でひっそり静かに、じっくりと。好きなものに囲まれたこの場所を灯して、暗がりの中でさもここが特別かのようにして過ごす。ここで好きなことをする。お気に入りのお茶と、だいすきな夜時間。思考も深まる、幸せで満ち足りるひととき。
〉暗がりの中で
部屋の扉を開けると
いつもの匂い。
香水と、タバコの煙の混ざったそれを
あなたは好きだと笑った。
私も、あの頃はそれが好きだった。
〉香水