谷茶梟

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8/24/2023, 6:53:15 AM

海へ
(ワールドトリガー夢創作)
「海に行きたい」
そう君がぽつりと呟くので、手を引いて電車に乗り、海が見える駅まで来た。何故私を選んだのか、私でよかったのかは、分からない。特に会話のない逃避行。君相手に不安になるのはやめた。きっとこれでいい。
「潮風の匂いがするねぇ」
海からの風が強く、髪に細かい砂がへばりつく。太陽は水平線の向こうへ沈みかけているところ。雲が多くて、ちょっぴりどんよりしてる。
「視たかったもの、視れた?」
「……視えた通りのものだけど」
潮風の匂いとか、ベタつきとか。波の音とか砂を踏んだ感触とか。期待通りだっただろうか。視えるだけじゃ、知り得ないこと。
「次はもうちょっと早く来ようよ」
「うん」
元気のない迅の、背中を叩く。裸足になって、波打ち際に足を入れる。
「ーーーー」
背中で迅の声が聞こえて、振り返る。切なげに笑って佇むので、なんて言ったのか聞き返せなくなる。
「危ないよ」
迅が私の腕を引いて、海から引き離す。一番星が、輝き出していた。

8/19/2023, 12:46:46 PM

空模様
(ワールドトリガー夢創作)
「今日夕方から大雨だから、大きい傘持っておいでよ」
「えー……晴れてるよ?」
出かける前、迅から莉子に電話をかけた。莉子は面倒くさそうに折り畳み傘を手にする。
「あっダメダメ。大きい傘にしな」
「えーだって晴れてるじゃん」
「降るの、これから。なに、俺のこと信用してない?」
「してるけどさー……」
大きい傘を持ち歩くのは、面倒くさいなぁと思う。でも、迅の天気予報が外れる可能性も低いので、仕方なく大きい傘を持った。
「よろしい。じゃ、待ってるから」
「はいはい〜」
電話を切り、待ち合わせ場所に向かう。大雨が降るのに、迅も莉子も会うことをやめようとは言わない。

8/18/2023, 9:21:31 AM

いつまでも捨てられないもの
(ワールドトリガー夢創作)
小学生の頃、鉛筆を集めるのにハマっていた。色とりどりの柄を集めるのが好きだった。削るのが勿体無くて、大体がそのまま残っている。なんとなしに仕舞っている箱から鉛筆を取り出して、眺める。一本だけ、削られて短い鉛筆がある。
(貰ったんだよな〜まだ残ってたか)
失くし物の多い自分が、失くさずに残していたことに感心する。ま、大事にするのも無理はないか。初恋の人に貰った鉛筆だし。
(鉛筆なんて、もう使わないんだけどな)
短い鉛筆を、普段使う筆箱に移す。特に意味はない。意味は要らない。見つかったとしても、あの頃好きだったよと笑顔で言えるし。懐かしくて、残ってて嬉しくなっただけ。それだけだよ。

8/12/2023, 2:36:40 PM

君の奏でる音楽
(ワールドトリガー夢創作)
ボーダーの雑踏の中、大嫌いで気になるあいつを見つける。水上はただ一言、言いたくて近づく。こちらに気づいて、微笑む顔が嫌いで。それはどうしようもなく、羨ましいから。
「莉子さん、今日の配信聴きました」
「あ、ありがとう」
「もうちょっと本気で歌えないんすか」
水上は淡々としたトーンで、ちくちくと莉子を責める。いつものことなので、莉子は苦笑い。
「やっぱ水上くんには分かる?」
「そりゃ分かりますわ。本気のあんた聴いてりゃ」
最初から気に食わなかった。あの人に想われているあんたが。それなのに、あんたの歌を聴いたら、自然と涙を溢す自分がいた。水上はそれを一生の不覚と思うし、歌で手を抜く莉子は見過ごせなかった。
「また聴かせてくださいよ」
あの時みたいに。彼女に完全に負けるとしても、もう一度聴きたいと思う歌。ちゃんと躾けて欲しかった、俺はあんたにはなれっこないのだと。

7/11/2023, 6:41:47 AM

目が覚めると
(ワールドトリガー夢小説)

目が覚めると、枕元に誰か立っている。お馴染みの黒い隊服を辿って、顔を上げると唯我くんだった。寝ぼけた頭で、しばらくその顔をぼんやり見つめる。
「あ、あの、大丈夫ですか……」
「……うん」
私の体調が悪いのはいつものことで、みんな優しいけど心配などしないというのに。心底心配そうな声を出す唯我くんは、大袈裟だと思う。
「大丈夫……ちゃんと任務には出るから」
「無理しないでください」
「……ありがとう」
微笑み返せば、唯我くんは少しほっとしたようだった。心配されるのは、時に負担だ。大丈夫、と返すのが辛くて、消耗していくこともある。それでも、やっぱりほんのちょっとは心配してほしいなんて。私はわがままだろうか。今は具合が悪い。思考は沈み切っていて、欲張りな私に反吐が出た。
「僕に出来ること、ありますか」
唯我くんが自信なさげに呟く。正直、これは私の問題だから唯我くんに出来ることはなかった。唯我くんが私のために泣こうが笑おうが、私の気分はきっと晴れない。
「……もうちょっと寝かせて」
「すいません」
「謝らないで。ありがとう」
寝返りを打ち、唯我くんに背を向けた。1人にして欲しかったけど、背中から気配は消えなかった。気付けば意識を手放して、苦痛のない無意識の世界へ旅立っていた。

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