谷茶梟

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9/4/2023, 3:54:43 AM

些細なことでも
(ワールドトリガー夢創作)
「最近どうなんだお前」
「最近?」
ふらりと立ち寄ったカフェで休憩中。お前はいつも通り、でかいサイズのアイスティーを飲む。ガムシロップはひとつだけいれる。ストローはほんの少し噛む。
「いつも通りだよ」
何気ない調子で答える。いつもの通りの、詳細がこっちは知りてぇんだが。
「配信は」
「あー配信は最近ちょっと人増えた」
訊けば答えるが、訊くまでこいつはなにも語らない。自分から話す時は、よっぽど機嫌がいい時だけ。……些細なことでも、把握しておきたいと思うようになったのはいつからだったか。
「人増えるの嬉しいけど、コメント捌くのが大変なんだよな」
「あんま無理すんなよ」
「しないよ」
お前はふんわりと笑う。楽しい時でも辛い時でも、同じように笑うから、俺は安心することが出来ない。ちゃんと見極めてやらなきゃと思う。
「拓磨は最近どうなの?」
「俺は、」
お前のこと考える時間が増えているのを、見ないフリをしてる。言えるわけがねぇけど。呑気にアイスティーを飲んでる姿を見ると、なんでこうなっちまったかなと、自分を後ろめたくもなる。確実に渇いていく心に、いつまで耐えられるのか、自分に自信がなかった。

8/31/2023, 11:04:30 AM

不完全な僕
(ワールドトリガー夢創作)
「拓磨」
「なんだ」
「呼んだだけ」
「あァ?」
生まれてから、ずっと一緒の幼馴染の、呼び慣れている、けれど飽きることはない名前を呼ぶ。随分背丈は越されたけれど、変わらず隣にいてくれるのに安心する。疑いもしない。多分これから先も一緒だ。
「寂しいなら寂しいって言えや」
上からヘッドロックをかけられる。ゲラゲラ笑いながら、腕を叩く。解放されて、顔を見合わせる。鏡のように笑ってくれる君がいる。
「で?なんだよ」
「マジで呼んだだけ」
「なんだそりゃ」
呆れた笑いに変わる。優しさも含まれる、その笑顔が好きだった。
「ノリ」
「なに」
「呼んだだけだァ」
また顔を見合わせて笑う。こんな日々がずっと続けばいいと思う。そのためなら、戦うことも厭わない。自分の半身と呼べる友がいることを、俺は誇りに思ってる。

※タイトル通りに着地しませんでした。すみません。

8/28/2023, 12:39:42 PM

突然の君の訪問
(ワールドトリガー夢創作)
「おう。今お前の家の前いるから、開けてくれや」
君が突然、訪ねてくるのはちょっと珍しい。驚きはしない。私も君のこと、よく突然に訪ねるし。けど、今は具合が悪い。
「……なんで」
「顔が見たくなった」
なんだそれ。1週間前には顔合わせたじゃん。でも、そう言われたら私も拓磨の顔が見たい気がする。重たい身体を引きずり、玄関を開ける。部屋が散らかっているけど、拓磨相手だし気にしない。拓磨はなんだかたくさん食べ物を買ってきてくれていた。でも、食べる気がしなくてソファに寝そべって、知らんぷり。見兼ねて、拓磨が私の鼻先にマドレーヌを差し出す。渋々受け取って口にする。餌付けだなこれ。マドレーヌが思ったより美味しかったので、身体を起こす。あれこれ買ってきて貰ったものを漁り、食べる。
「ありがとう」
「おう」
「でも、なんで来たの」
もう一度、質問をする。拓磨が私に構う必要なんて、ない。幼馴染だからって、面倒を見なきゃいけないわけじゃない。理由が知りたかった。
「…………心配だったからだよ」
「ふーん……?」
素直に受け取っていいものだろうか。本当に心配なだけで来てくれたんだろうか。君を疑ったりはしないけれど、ちょっと不思議で。
「ぶ」
「心配かけたくなかったら、さっさと元気になれ」
わしゃわしゃと頭を撫でられる。安心する。しばらく笑ってなかったが、少し笑みが溢れた。やっぱり、拓磨いないとダメなんだな、私。
「俺に隠し事とか、すんなよ」
「?してないよ」
「ならいい」
変なこと訊くなぁ。今日の拓磨、少し変だな。頬を撫でられるけど、これ多分誤魔化してるな。でもま、突っ込むほど今元気はないし。拓磨の大きな手を、両手で抱えて眠る。指を絡めたり、揉んだりするのが好き。それが許されるから、安心出来る。お腹が膨れて、また少し眠くなってきた。寝てもいいよね。

8/28/2023, 8:41:39 AM

雨に佇む
(ワールドトリガー夢創作)
迅が待ち合わせ場所に来ない。約束の時間から20分は経っている。LINEにも反応なし。どうしたものか。どこかフラついていても見つけてくれるだろうが。連絡くらい欲しいなぁ。それでも、勝手に帰るという選択肢はなくて、ぼーっと待っていた。ぽつ、と地面にシミが出来る。雨か。リュックから折り畳み傘を取り出して、差した。すると、凄い勢いで雨粒が落ちてくる。
「うわ、マジ?」
濁流のような土砂降りで、前が見えない。どこか建物の中に入ろうにも、動いたら濡れるのが分かる。今は大きな木の下にいて、傘も差しているから、多分ここから動かない方がいい。きっと通り雨だ、過ぎ去るのを待つ。雨が止んだら、帰ろうか。少し残念な気持ちで、足元を見ていた。
「遅れてごめん!」
視界に迅の爪先が入る。声に顔をあげれば、いつも通りへらりと笑う迅がいた。
「え、迅、傘は?」
「ん?忘れた」
「馬鹿なの!?」
慌てて自分の傘に迅を入れる。背中や肩が濡れていく。迅は呆れたように笑いながら、私の傘を押し返す。
「手遅れだって。気にしないでよ」
「気にする!」
「じゃあさ、一緒に濡れてくれる?」
ちょっと本気な声と表情。なにを試しているんだろう。私はため息を吐いて、傘を閉じた。
「しょうがないなぁ」
迅は目を見開いた後、やっぱりへらりと笑った。土砂降りの中、2人で歩く。ずぶ濡れになりながら、だけど確かに。
「そう言ってくれると思った」
迅が嬉しそうにそう言うので、濡れるのも悪くないと思った。

8/24/2023, 11:36:11 AM

やるせない気持ち
(ワールドトリガー夢創作)
「ん」
想い人が背負っているものが重そうだから、手を出す。貸せとか寄越せとは言わない。それでも、彼女は俺の意図を察する。
「えーいいよ別に大丈夫だよ」
「いいから」
「うーん……」
渋々渡されたそれを、自分の荷物として背負う。本当は、彼女がこういう扱いを好まないのも知ってる。レディファーストってやつが嫌いらしい。けれど、これくらいやらないと、男として意識されないから。
「帰りたくないな」
君は無垢に無邪気に笑う。俺の必死のアピールも、あまり意味はないようだ。幼馴染だから?いつかの初恋は、もう終わったから。
「どこへ行く」
それでも、君の隣を離れられなくて。ほんの少し、期待を残す自分がいて。どこへだって行こう。君が望んでくれるなら。

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