谷茶梟

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海へ
(ワールドトリガー夢創作)
「海に行きたい」
そう君がぽつりと呟くので、手を引いて電車に乗り、海が見える駅まで来た。何故私を選んだのか、私でよかったのかは、分からない。特に会話のない逃避行。君相手に不安になるのはやめた。きっとこれでいい。
「潮風の匂いがするねぇ」
海からの風が強く、髪に細かい砂がへばりつく。太陽は水平線の向こうへ沈みかけているところ。雲が多くて、ちょっぴりどんよりしてる。
「視たかったもの、視れた?」
「……視えた通りのものだけど」
潮風の匂いとか、ベタつきとか。波の音とか砂を踏んだ感触とか。期待通りだっただろうか。視えるだけじゃ、知り得ないこと。
「次はもうちょっと早く来ようよ」
「うん」
元気のない迅の、背中を叩く。裸足になって、波打ち際に足を入れる。
「ーーーー」
背中で迅の声が聞こえて、振り返る。切なげに笑って佇むので、なんて言ったのか聞き返せなくなる。
「危ないよ」
迅が私の腕を引いて、海から引き離す。一番星が、輝き出していた。

8/24/2023, 6:53:15 AM