「輪廻転生の話?」
「まあそんなようなものさ。信じるかい?」
「うーん。」
人には魂と肉体とがあって、死んだら魂が肉体から離れる。それが本当かどうかは死んでみなきゃわからない。けど。
「なんか信じられない。けど、でも、じゃあなんでこんな説が出来たんだろ。」
「うむ。」
「昔、そんな人がいたんじゃないのかな。魂が体からほわ〜って出てすっと別の体に入った人が。」
「ほわ〜っと出てすっと入ったか。そうか。」
ふふっと笑ってくれた。よかった。
この人は私のことを馬鹿にしない。だから好きだ。
「でね、なんでそんなことになるんだろ?って考えたんだ。きっとさ、納得いく人生を送るまで続けるんだよ。あーなんかイマイチだったな、次に期待、みたいな。」
「なるほどな。あくまで自分が決めているのか。神様ではなく。自分で。」
「そう。今考えて、そう思った。」
「納得いくまで続くわけだな。長い長い旅が。」
「人によっては終わりがない旅だね。終わりがないって嫌だな。飽きそう。」
「そうだな。飽きるだろうな。」
はは、とやさしく笑った。やっぱりこの人と話すのは楽しい。
そんな時、タイミングよく終点が近づいていることを知らせる音楽が鳴った。
「このくらいがいいよ。旅って。」
「気が合うな。私もそう思ったよ。」
うーんと少し伸びをして電車を降りる準備をした。
終わりなき旅
半袖
「そういえば君は半袖の服をあまり着ないよね。」
彼女の夏の装いは七分袖くらいがほとんどで、よっぽど暑い日以外では半袖を着ていない気がした。
「…うん。」
「どうして?半袖姿もかわいいのに。」
無理強いする気はないけれど。本音を言うともっと半袖の服とかスカート姿とか見たい。眼福だ。
「…腕太いから。」
「え、そんなことないって!」
「そんなことある…。」
「俺は好きだよ?君の二の腕ってむにむにでやわらかいからさ!あ、もちろんそこだけじゃないよ?足もおなかもおしりもむちむちで全部好き。それにさ、二の腕のやわらかさって胸の…いてっ!」
左肩に走った痛み。かわいい手でかわいい物理攻撃をされたようだ。へへ、かわいいなあ。
どれ、そのかわいい顔を見てやろう。ううん?
何故か彼女は真っ赤な顔で俺をにらんでいる。
「………ばか。」
「え?!え、なんで?!いや俺は馬鹿だけど!ああ待って!ねえ!」
ふたりの狭いベッドの上に小さなふて寝山がこんもりとできていた。ああかわいい。あわよくば、このまま。
「ねえ…本当だよ?君のぷにぷにしたところ大好きだよ?かわいいよ?今だって…うしろからぎゅーってしてさわりたい…だめ?」
「…だめ。」
「なんで…。」
嘘なんかついていない。本当に君の全てが愛おしくて大好きで食べてしまいたいくらいなのに。
「……謝れ。」
「え。」
「……ごめんなさいは?」
「…ええ…。あ、と、その…。」
「ごめんね」
もしあの世に天国と地獄があるのならば
この世でのボーダーラインはどのへんだろう。
「まあ地獄行きだろうな。私は。」
「だろうね。」
「別にいいさ。あるかないかもわからないあの世の話をしても仕方がない。」
「それもそうだね。僕も別にいいや。地獄でも。」
ああそういえばこの子は今私の膝を枕にして気ままに過ごしている。でかい猫のようで悪い気はしない。
「ここが天国だよ。この世の天国。」
「はは、硬くて寝づらいだろ。」
「僕、枕はかためが好きだからいい。」
膝の上の猫を少しくせのある髪越しに頭を撫でてやると
ううん、と顔をしかめた。
「嫌だったか。」
「うん。…いや、別にいい。」
「そうか。まあ嫌でもやめてやらんがね。」
「はあ。」
地獄は恐ろしい所なのだろうか。
それともこの世に比べると天国みたいなものだろうか。
所詮今を生きることしかできない私たちは
地獄のようなこの世界で天国を見つけるしかない。
天国と地獄
「もしもし。」
何度も何度も聞いた声。そのはずなのに。
この小さな機械越しに聞くと少し知らない人のよう。
「もしもし。遅くなってごめん。」
「ううん、いいんだ。俺こそ急にごめん。」
「大丈夫。ひまだし。」
「どうしても声が聞きたかったんだ。」
一緒に暮らすようになったのはもうずいぶん前。
これまでも何度か違う夜を過ごす日はあった。
その度に決して広くはない部屋がやけにがらんとして静かに感じた。
「そっちは楽しい?」
「あんまり。君がいないからさ。」
「そんな。」
「早くおみやげ買って帰りたいよ。」
「…うん。」
「会いたい。」
「…うん。同じく。」
しんみりした空気と少しの沈黙がふたりを繋いだ。
気をつかったのか先ほどより明るい声で彼が話題を変えた。
「あー…今日は天気が良かったから月がきれいだよ。」
「あ、こっちも…。月、見えるよ。」
「そっか、同じ月を見ているんだよな。当たり前だけど不思議だ。」
「うん。不思議だ。」
「あ、ごめん!いったん切るね。またあとで連絡する!」
「え、うん、またね…!」
あわただしくあちらへと戻っていった彼。
残ったのは私と、何も聞こえない機械と、月。
(無事に帰って来ますように…。)
誰にも聞こえない願いを月へ。
そしてあの人へ。
月に願いを
「まだ降ってる。」
「そうだな。」
「傘なんか持ってきてないし。足もない。」
「そうだったな。」
「どうしようかな。」
「どうしたもんかね。」
「はあ…何か言うことがあるでしょ。」
「はは、なんのことだ。」
「もういい。泊まっていくよ。」
「もちろん良いとも。そもそも最初からそのつもりだったんがな。」
「一応口実ってやつ。マンネリ防止。」
「そうかそうか。野暮だったな。」
降り止まない雨