粉末

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3/12/2025, 1:55:09 PM

笑ってる。こんな近くで。
優しい、優しいこの人が、笑って、楽しそうに。

手を伸ばしていただろうか。
ピース、なんてしていただろうか。
ああ、思い出せない。

夢の中のあの人。

笑って、何より、自分のために。

夢が

終わり、また始まる、

        今日

3/11/2025, 11:23:26 AM

「今日さ、なんか見れるらしいよ。流星群だかなんだか。」
ふぅーっと気だるげに吐いた煙の向こう側で
ほう、とすました声が聞こえた。

「そういうのは興味ない?」
「ああ…まあそうだね。すまない。」
「いいよ。僕もだし。」
そう、僕だって興味ない。

「はは、どうしたんだね。なんだからしくないな。」
「そうだね。らしくない。」

「そうさな、どれ、ちょっと外に出てみるか。」
「は。」
どうしたの、本当。らしくないのはどっちだよ。
というかタフ過ぎるでしょ。さっきまで死にそうな顔していたのに。
まだ長い煙草をぐしぐしと灰皿に押しつけて
僕の北極星がきらめいた。

「見に行こう、星を。」


3/9/2025, 4:06:46 PM

「ん、ああ、すまない。」
ああこの馬鹿。またやってしまった。
呆れたような、諦めたような彼の目が
愚か者の心臓をしめつけた。
「いや、いいよ。たいした話じゃないし。」
「もう一度話してくれないか。」
「え、ああ、もう忘れちゃった。」
もう寝るよ。おやすみ。
その手は優しかった。

昨日の彼、今日の彼。1分前の彼。
もう二度と会えない彼。
こうして私の知らない彼が増えていく。
それなのに私ときたら嗚呼。
本なんていつでも読めるじゃないか。
今すぐベッドまで追いかけて
すがりついてみっともなく泣いてみせれば
こんな私を可愛いと言ってくれるだろうか。
それともついに嫌われてしまうだろうか。
嗚呼この意気地なし。


嗚呼

3/8/2025, 2:47:35 PM

「どこ行くの。」
「秘密。」
「何それ。別に興味無いし。」
「じゃあ聞くなよ。」

ばしゃり。氷が溶けてほとんど水になったコーヒーが
あの人に買ってもらったコートの色を変えた。
ばたん。近所迷惑な音が鳴り響いて、
僕は静かな夜を歩いた。

「…これはまた、良い男に磨きがかかったな。」
「でしょ。」
冷たいドアを開けて僕を迎える声、目、手、そして唇。
「こら、私まで濡れる。」
「いいじゃん。濡れてよ。」
「…これ以上濡れたらふやけてしまうよ。」
「もうふやけてるよ、その顔。」

ぼふん。
ふかふかのひとつのベッドに
ふたつの息が沈んだ。


秘密の場所

8/18/2024, 10:23:59 AM

「見苦しいぜ。そういうの。」
左頬がじんじんと熱を帯びた。
暴力か。お前らしくない。
いや違うな。これこそがお前だ。
何年もかけてようやっと行動に移せるようになったのだな。よかったじゃないか。
「いい歳こいたおっさんが嫉妬だのプライドだの。」
いつまでもいつまでも心の中にしまいこんで
ついには捨て方がわからなくなった。
「いい加減あきらめろ。」
私を嫌いになってくれ。頼む。
「…謝るな。」
その顔に私は弱い。
だからお前を捨てられない。
いっそお前が捨ててくれ。
毒も薬も飲めない私を
君が捨ててくれ。



いつまで捨てられないもの

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