花粉、黄砂、副流煙、虫…
ろくなものが飛んでこない。
暖かい季節がやって来ると同時にこういった最悪なものも身近になる。
こんなんじゃなくて
君がふわっと俺のとなりに現れてくれればなあ。
ふわっ
そうそうこんな風に…
「…え、わっ!」
「…お疲れさま。」
「びっくりした…。」
君に似た匂いがしただけかと思った。
本物の君がいるなんて。
「奇遇だね。」
「う、うん…。」
「ここ、普段通らないでしょ。」
「うん…あの、ね」
「ん?どうしたの?」
「いい匂いがしたから…。」
え、それって
…いや、どうやら違うみたいだ。
「お腹空いたね。食べに行っちゃう?」
「…うん!」
風に乗って広まったうまそうな匂いのせいか
ここのラーメン屋はなかなか繁盛していた。
風に乗って
「咲くのは一瞬かもしれない。けれど毎日姿を変えて健気に生きている。」
やさしく、愛おしそうに触れる。
「あなたは恋人にもそんな感じなの?」
「……は?!こ、恋人って…。」
動揺してる。ぎこちない動きでお花を愛でている姿が恋に恋をしている少女のようだった。
恋愛話だけでこんなかわいい反応をするなんて。
顔が良く見えないのが残念。りんご、いや桃みたいになっているのかな。
「ごめんなさい。嫌な思いをさせてしまいましたか?」
「いや、いやちがう…大丈夫だ。」
ええと、とか。ああ、いや、うーんとかひとりごとがお店の中にかすかに響く。なんてかわいいの。
「毎日違う姿を見せてくれるのは嬉しいですね。」
「あ、ああそう、です、ね…嬉しいし、面白い…あの、本当に…。花だけでなく、お客さんの顔とか反応も。ひとつひとつを大切に…。」
「そうですね。私もあなたとの一瞬を大切にしています。」
こう言うとそのお顔を私に向けてくれた。
「綺麗で力強くて健気でかわいい。
本当にあなたってお花みたいね。」
腰を抜かしてへたりこんだあなた。
甘く切ない時間。人生の中の一瞬の出来事。
刹那
生まれちゃったからには幸せになりたい。
生まれたらあとは生きていずれ死ぬ。
じゃあ幸せになった方がいいね。
「だから、幸せになるために生きてるんです。」
「君にとっての幸せって?」
「雨風をしのげる家でおいしいごはんを食べて
きれいな服を着て…。」
「うん。」
「そんな毎日を愛する人と過ごせればそれで。」
「幸せにする。絶対に。」
「ふふ。2人で幸せになるんですよ。」
「なあ。」
「あ?」
「お前なんのために生きているんだ。」
「死ねって言いたいのか。」
「そうじゃない。生きる意味だ。」
「意味なんかあるか。生まれちまったんだから生きるしかねえだろ。死ぬ理由も無いしな。」
「幸せか?」
「んなもん知るか。」
「俺と居るのは嫌か。」
「…なんだ。構ってほしいのか。」
「違う。触るな。」
「嫌じゃねえぜ。お前と居るのも生きるのもな。」
俺の生きる意味になってくれるか。
ただのひとこと言えなかったのは。
答えを聞くのが怖いからじゃない。
こいつに弱みを掴ませたと思われるのは嫌だ。
そう、それだけだ。
否定されるのが怖いからじゃない。
ひとりで生きることが怖いからじゃない。
そう、それだけだ。
生きる意味
「まだ外せないのか。」
「ああ、たぶん一生な。」
黒ではない。しかし白であると言いきれない。
薬指の誓いに縛られているのは自分だけなのか。
そうだとしたらそれはとても悲しいし何より癪だ。
「そうかい。なら一生待つまでだ。」
「待て、なんか出来ないだろ。あんたは。」
「はは、良くわかってら。」
「最低の奴だな。」
「お前さんもな。」
最低な人間には最低な人間がお似合いか。
そうだな。少なくともこの屑野郎と一緒に過ごす時間はとても気が楽だし空いた何かを塞いでくれる。
子供にだって理解できるくらいの善悪の
悪の方に染まってしまった体はもう戻れない。
「いざとなったら全部俺のせいにすればいいんだよ。
こいつに唆されたってな。なあ、俺って善い奴だろ?」
「そんなわけにいかない。俺もお前も同罪だ。」
「優しいじゃねえの。しかしな。」
理解のあるふりをするな。お前の中に善性を見付けたくないんだ。
「お前と俺と同罪なわけがあるか。」
知ってるさ。
善悪
私に嫌なことをしなくて
私に怖い顔をしない
そんなやさしいヒーローと
一緒に星空を見たいです。
「流れ星を見たことある?」
「…ある。」
「え、すごい。いいなあ。」
ずっと昔。今よりも夜が好きだったころ。
人と話すことが苦手で空ばかり見ていたころ。
きらり。ほんの一瞬、たしかに星が流れた。
「お願い事した?」
「…した。」
「どんな?」
「……恥ずかしい。」
「ふふ、じゃあそのお願い事は叶った?」
「うん…。」
「そっか。よかった。」
私の嫌なことは絶対にしない。やさしい人。
私だけじゃない。他の人にだってそう。
やさしくされなくてもこの人は。
「俺も流れ星見たいなあ。」
「私も。」
「そうだね。一緒に見たいね。」
今は見えないけれど
きらめく夜空のどこかで星が流れていると信じて
心の中でお願いした。
私のやさしいヒーローに
みんながやさしくしてくれますように。
流れ星に願いを