万物流転。この世は常に流れ続けて変化する。
時代に取り残されぬように私も必死にもがいている。
みっともない年寄りにはなりたくないし
なにより新しいものは面白い。着いて行くのでやっとだが。
「いっせーのーでーゼロ!」
「馬鹿。だから自分が指上げてどうするの。」
「あーっ!またやっちゃった!もうっ!」
今日も2人の仲は良好なようで何よりだ。
しかし、強すぎてつまらないという理由であのゲームを出禁になってしまった私の相手をしてくれるのはゾンビやクリーチャーだけなのはいかんせん寂しい。
ふう、ひと息ついたその時すらりとした影が私を覆った。
「おや、もう終わったのか。」
「馬鹿の相手は面白いけど疲れるよ。ひとりにしてごめん。ねえ僕もやっていい?」
「それはありがたい。このステージが難しくてね、手を貸してくれると助かる。」
疲れているようには見えないが。構ってくれるのは素直に嬉しい。年甲斐もなく浮かれてしまった。
「いいよ。あんたのことは僕が守ってあげるから。」
私の隣に座ったかと思えばふわりと自然な手付きで頭を撫でられた。なんという子だ。
「あっ!人にジュース取りに行かせておいて!私がいるのにいちゃつくなっ。」
「うるさいな。負け犬は黙って数の数え方でも勉強しなよ。」
「うぅ…あとで私にもコントローラー貸してね…。」
「もちろんだ。君がいちばん上手いからなあ。」
「へへっ。まあねえー。」
「うざ。」
「…可愛いな。君達は。」
「「?!」」
私達は人だ。生きている。歳もとる。
いつまでも同じではいられない。
わかってはいるがこのにぎやかな時が続いてくれと願ってしまう。
そう
これからも、ずっと
今日が終わる。
白かった太陽が真っ赤に燃えて夜の訪れを告げる。
1日の内でいちばん落ち込む時間かもしれない。
「はあ…。」
いつもいつも同じことの繰り返し。
変化を望んでいるのに行動出来ない自分。
俺、このままで良いのだろうか。
こんなので君を幸せにしてやれるのだろうか。
「はあぁぁ…。」
ため息しか出ない。
「おかえり。」
やさしい君の笑顔が出迎えてくれた。
安心と少しの罪悪感で心が締めつけられる。
ちゃんと笑ってただいまって言えたかな。
「な、なあ…疲れてるところ悪いんだけど。」
「うん?どうしたの。」
「散歩がてらその、コンビニ行かないか?」
「良いよ。何か切らしたの?」
「……コンビニ限定のアイス、食べたいなって…。」
「うん。」
「…あと今日暖かいし…一緒に散歩したいなって…。」
「…デートのお誘いってこと?」
「………こと。」
「…はああぁぁぁ……。」
夕日まではいかないけれどほんのり赤い君の頬。
キスしたい。けど我慢だ。止まらなくなる。
右手にアイスとその他いろいろが入った袋
左手にかわいい君のかわいい手を握って
少し遠回りに沈む夕日を見送る。
落ち込んでいる場合じゃない。
君とまたデートするために
明日からもっと忙しくなるのだから。
沈む夕日
人の目を見るのは苦手だ。女とか子どもは特に。
こちらが相手の目を見ているということは
相手もこちらの目を見ているのだから。
僕の頭や心にぐちゃぐちゃと汚い足跡を着けられている気分になる。
「うーん。ねえねえこれわかる?」
「わかんない。」
「もー!せめてちらっとくらい見てよ。」
嫌だよ。自分で考えろ。
そういえば。こいつってどんな顔してたっけ。
丁度いい。にらめっこしよう。
「ん?なに?問題わかった?」
「……ふっ。」
「なんだよ!人の顔見て笑うな!」
「お前、にらめっこ強いね。」
「はあー?どういう意味?でも強いよ!」
頭に?がたくさん浮かんでいそうなまぬけ面。
クロスワードの問題を考えるよりこいつを見ている方がよっぽど面白い。
今度から嫌なことがあった時はこいつの目を見ることにしよう。
なんでも笑い飛ばせてしまいそうだ。
君の目を見つめると
深い夜空。明かりは星々のみ。
そんなロマンチックなシチュエーション。
君を抱きしめて愛を語ったり
くすぐるようなキスをしたり
そしてあわよくば、なんて。
だがしかし
昼間よりもずっと果てしなく見えた空
輝く星の名前や物語は知らないけれど
しばらく何も考えられなかった。
となりにいる君の手を握ることさえも忘れていた
どのくらいそうしていたかはわからない。
はっとしてとなりを向くとやわらかな笑顔の星の女神、もとい君と目があった。
「…ごめん。」
「え。どうした?」
「いろいろと。」
清らかな時と場所で邪な思いを抱こうとしていた自分をお許しください。
星空の下きょとんとした顔の女神に
心の中で懺悔をした。
星空の下で
俺の足の間におさまっておとなしくブラッシングされている君は森に住むおだやかな動物のよう。
最初こそ自分で適当にやるとか人形じゃないんだからと言って嫌がっていたけれど、今は気持ちよさそうにうとうとしている。
花の香りがするふわふわな髪。ずっとこうしていたいけど時間がいくらあっても足りなくなってしまう。
「さて、そろそろ。」
「…ん。おわったのか。」
「ブラッシングはね。今度は三つ編みをするよ。
かわいいアレンジを見つけたんだ。」
え、いや、もう、と何やらごにょごにょしていたが
また俺に背を向けた。そうそうそれでいい。
「かわいいお人形さん。これにしてもいい?」
「…うん。それでいい。」
良い休日だ。なんてことない会話。やさしい沈黙。
こういう日常。
それでいい