「ねえねえ、ひとくちあげるよ。」
「いらない。」
自分から着いて行きたいと言っておいて
ものの数分でつかれただの休みたいだの騒ぐから
仕方なく入った喫茶店。
少しはおとなしくなるかと思ったら逆だ。うるさい。
「なんで。あげるって言ってるだけじゃん。」
「もらったら僕のもお前にあげなきゃいけないだろ。」
「別にいいよ。いらない。」
「お前が良くても僕が嫌なんだ。」
貸し借りは嫌いだ。どんなに小さなことでも。
「はーん。案外気にしいだね。」
「うるさいよ。少しはおとなしくしていろ。」
「ねえ、あなたのケーキも食べたいからじゃない。
本当にただこれを食べてほしかっただけ。いちご、私に譲ってくれたんでしょ?」
「別に。」
つやつやのいちごのケーキは残りひとつで
僕はそれ以外の他のケーキには惹かれなかった。
そしてこいつもこれがいいって言ったからなんだかもうどうでもよくなっただけ。ただそれだけだ。
「じゃあいちご1つあげる。あーん。」
「ああもう…わかった食ってやるからおとなしくしてよ。」
1つだけのいちご。
今まで食べたどのいちごよりおいしくて
お腹いっぱいになった。
1つだけ
「じゃーん。これでしょ。」
荒れ果てた部屋に降りたった勝利の天使。
ずい、と目の前に差し出された銀色の光。
全身の力が抜けこの上無く安堵した。
「…それだ。よく見つけたな。」
「あなたの行動パターンなんか簡単に読めるよ。」
ふふんと得意げに鼻を鳴らす小さい体が
今は頼もしく見える。
「はい。大切なものならちゃんと仕舞っときなよ。
もしくは肌身離さず着けておくとか。」
これはそういうものではない、そんな言い訳が頭をよぎったがやめた。
「ああそうだな。気を付けるよ。」
この指輪をこの子の前で着けるのは初めてだ。
肩の荷が下りて軽くなるとはこのことか。
「必死に探してたんでしょ?見つかって良かったね。」
「ありがとう。私にとって君も大切な存在だ。
箱に入れて仕舞っておきたいくらいに。」
「うーん。一生養ってくれるならいいよ。」
「はは、そうか。彼にも相談しておくよ。」
世の中には替えが効く。
物でも。人でも。
だが替えが効かないものもある。
それがきっと
大切なもの
「俺のこと嫌いって言ってみて。」
「…嫌い。」
ぐうとお腹にパンチでもくらったような声を出して
うずくまってしまった。そっちが言えと言ったのに。
「…無理。耐えられない。」
「…ええ…ごめん。」
「いやいいんだ。自分への戒めだから。
実際にこう言われないようにまた努力しないと。」
この人とこういう関係になってかなり経つのに
いまだにこんなことを言う。
私はこの人の
「…そういうところ、わりと嫌い。」
「え?!え、本当に?嫌い?!」
ねえ、実は今日から4月なんだ。
からかってごめん。
本当の気持ちはもう少しあとで伝えるから。
エイプリルフール
幸せになってくれよ。
おだやかな寝顔を見ると心からそう思える。
彼女の幸せがいちばんだ。
そして出来ることなら俺が君の幸せになりたい。
でももしそうじゃないなら。
君を幸せにできなかったら。不幸にしていたら。
怖い。悪い考えがぐるぐるしてしまう。
どうしよう。
俺は君じゃないとだめなのに。
馬鹿。なるんだ。
私たちふたりでもっともっと
幸せに
何気ないふりで君と同じメニューを選んだり
君が好きなキャラクターの柄の靴下を履いてみたり。
さりげなく君と接点をつくりたくて必死だった。
格好つけたかったんだ。
賢い君にはばれていたかもしれないけれど。
そういえばあの時
急に髪型を変えたよね。
実はあれ、俺がいちばん好きな髪型だったんだ。
かわいい君が更にかわいくなってたまらなかった。
偶然ってすごいよな。
何気ないふり