はるさめ

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2/19/2023, 12:47:49 PM

君と過ごす初めての秋。

落ち葉がいい感じだからお散歩デートしよ!なんて無邪気な君からの誘いで外に出た。
もう秋も終わりだからか、陽が出ていても外は寒くて、時折吹く風が僕の憂鬱な心をさらに冷たくしていく。

秋が終わって、冬が過ぎて、春になれば僕と君は離れ離れになってしまう。
遠距離恋愛なんて初めてだから、上手くいかなかったらどうしようと不安になってしまう。
自分の気持ちや君の気持ちを疑っているわけじゃなくて、むしろ好きすぎるから、離れた場所で1人で過ごせる自信が無いんだ。
…嫌だな。心が、寒いよ。

「見てこれ!」

急に視界に入ってきた黄色と君の声に、ハッとして顔を上げる。そこにはイチョウの葉っぱを手にもって楽しそうに笑う君の姿があった。

「すっごい綺麗だねぇ!だから私秋が大好きなの!」

そう言って落ち葉の中を楽しそうに進む君の姿は、僕のちっぽけな不安なんて吹き飛ばしてしまうほど眩しかった。

「私もちょっぴり不安だけど、きっと大丈夫だよ。枯葉の花言葉はロマンチックなんだって。こんなに素敵な花言葉を持ってる落ち葉の中にいる私達は、そう簡単に離れたりしないよ。」








…数年前の出来事をゆっくりと思い出して、僕は閉じていた目を開けた。僕は今日、あの日と同じこの場所で君にプロポーズをする。

色付いて風に舞う枯葉たち、どうか思いっきり祝福して。

ロマンチック、なんでしょう?

2/18/2023, 1:10:36 PM

あーむり、今日はちょっとむり。

起きたときからおかしいと思ってたんだ。
夜にだけ私の心を侵食してくる名もない不安感が、起きたときから付き纏ってきてたから。
こんな日はもう全部がダメって分かってんの。
思考も散らかるし、やりたいことは上手くできないし、そもそも何がしたいことなのか分からなくなるし。
毎日お題に沿って何かを書くこの場所は、普段の私ならもっとなんかこう…捻ってもうちょい中身あること書けたかもしれないけど。
今日は全部が煩わしい。

だからもう寝ます。全てのことは明日の私がどうにかしてくれるでしょう。てかどうにかしてくれないと困る。任せたぞ?

深い眠りに落ちて、幸せな夢をみて、そうして回復して明日を過ごすんだ。
もどかしくて苦しかった今日にさよなら!

2/17/2023, 10:31:11 AM

私は彼女のお気に入り。

何にも代わり映えのない日々を過ごして、
飾られた棚の上から過ぎ行く人々を眺め続けていたある日のこと。

とっても可愛いお客さまが訪れてくれたの。
それがあなた。

あの日のことは今でも鮮明に思い出せるわ。
お母さんにねだって、小さな手と身体いっぱいで私を抱き締めてくれた。
そしてお母さんと約束して、私を家に連れて帰ってくれたわね。

そこからの日々はとても楽しいものだった。
あなたの一番の友達として、おままごとに付き合ったり添い寝したり、時には好きな男の子の話を聞いたこともあったわね。
そのうちあなたは素敵な女性になって、おままごとや添い寝も今はもうしなくなってしまったけれど。
時々お風呂に入れてくれて、抱き締めてくれて、
お気に入りなんだって示すように大切にしてくれたこと、本当に嬉しかったの。

ああ、あなたのお父さんとお母さんが泣いているわ。
そうね、今日はあなたの結婚式だものね。
ただのぬいぐるみの私も、なんでかおめかしをしてあなたの隣に座っているわ。
お姫様のように綺麗なあなたの姿を、私も見ることができて本当に光栄よ。

ねぇ王子、私のお姫様をきちんと幸せにしてくれないと怒るわよ。

私をいつまでも大切にしてくれるこの子が末永く幸せでありますように。

2/16/2023, 2:05:28 PM

誰よりもダメだったと思う今日です。
なのでペンは持てません。綴れません。
綴るほどの思いがあるのかどうかさえも見えなくなっているのです。
今机に向かってしまったら、きっと私は訳の分からない焦燥感や悲しみに駆られ、商売道具である紙を破きペンを折ってしまうでしょう。
そうなってしまったら、正気に戻った時もっともっと自分を責めてしまいます。

10代の頃心の内を書き殴った作品が思わぬ形で評価され、随分と遠くまできました。
ありがたいことに私は文章でこの命を繋ぐことができています。
しかし、評価される作品を書くことばかりが求められ、気づけば私は野良の表現者ではなく名声の傀儡と成り下がっていました。

傀儡にも心はあるのです。どうしようもなく紙に向かえない、ペンを持てない、命を燃やせない時があるのです。それを分かってほしいのです。

私の身の内に眠る激情は、傀儡には到底相応しくありません。
どうか、どうか、誰か私を野に放って。

2/15/2023, 11:05:40 AM

10年後の私から届いた手紙。

胡散臭いとか、本当にそんなことあるの?とか、
色々いろいろ思ったけど。

何よりも一番に、
あぁ、まだ生きてたんだって思った。

21歳の私は、それなりに充実していると思う。
大学にも行かせて貰えて、学びたいことを学べる環境にいて、仲良くしてくれる人も居て。
確かに幸せだと言われる人生だと思う。

それなのに、理想と現実の乖離に苦しんで、
どうしようもなく消えたくなる夜がある。
おかしいほど苦しんで。重く沈んで。そんな自分のことが嫌いで。だから他人にも縋れなくて。
眠ったらもう二度と目が覚めないんじゃないかという恐怖に、布団の端を掴んで耐えて。

そういう自分だから、あと10年の内のどこかで吹っ切れて本当に消えてしまうことがあるんじゃないのかなって思っていた。

だから単純に「生きていた」という事実に驚いて、そしてほんの少しだけ安心感を覚えた。



やたらと封筒に凝るところは30越えても変わってないんだなと思いつつ、宛名も差出人の名もない手紙の封を開ける。

角を揃えて折りたたまれた便箋の中身は、
書こうとした素振りも見えないほど真っ白だった。

30越えた私が何を思うのか、今の私には何も分からない。
けれど、「乗り越えた人に未来は明るいって言われても意味無い、だって私は今辛いのに」と20代の今思ったことを30の私は忘れないでくれているんだなと思った。
下手な励ましや慰めなんか書いていない白い白い便箋がそれを表していた。


この手紙をくれた自分と、今の自分の世界が交わらないことだって十分に有り得て、もしかしたらこの先10年で私は鳥になっているかもしれないけれど。

遠い未来、どこかで生きている私がいること。

それだけを伝えてくれるこの真っ白い手紙は、どんなものよりも価値があった。

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