雨が降りそうで降らない、あいまいな空。
ギリギリで耐えてるその様子は、コップの水が表面張力で耐えてるのととても似てる。
いつ決壊するかな。
雨が降り出す前に早く帰った方がいいのに、
決壊のその時、雨が降る様を見たい私もいて。
軒下で空を伺って、空が泣き出すのを待ってる。
やりたいことですか?
たくさん寝たいです。
だんだんと意識が朦朧としてくる。
ぼやける視界、とうに言うことを聞かなくなった手足、上手く回らない呂律、少しずつ速度を落とす心拍。
それら全てが私の終わりを告げている。
ここまで長かったようで、あっという間だった気もする。
私の身体が「私」でなくなったあの日から、悪化していくのは風のように早かった。
怖かった。毎日少しずつ私という人間の欠片を取られている気分だった。
そこからここまで、終わるまでの闘病生活は長かった。誰も来ない真っ白な部屋で、ただただ動かない己の手足を見つめるだけの日々。
はやく消えてしまいたかった。
…消えたかったはずなのに。
いざ終わってしまうとなると、ものすごく悲しい。
まだ終わりたくない。生きたい。
やりたいことが沢山あるのに。
なのに、もう目を開けていられないの。
いつかに話した出掛ける約束。
守れなくてごめんね。
一緒に退院するって話したのにね。ごめんね。
貴方がこの先健康に、幸せに、満ち足りた人生を送れることをずっと願ってる。
全部、話せなくてごめんね。
本当の限界、身体が離れていく。
ものすごく怖いから、どうか手を握って。
その温度も数分後には分からなくなってしまうけど。
私の世界に貴方がいてくれて良かった。
見送ってくれるのも貴方で良かった。
…なんて言ってるの?
ああ、もう、分からない、わからない。
みみだけはさいごまできこえるって、
だれかがいったのに、
嘘つき、嘘つき、嘘つき、
嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき
「〇時〇〇分、永眠」
『世界の終わりに君と』
正直、もうやめたいなって思う。
やりたい気持ちもあったけど、今は苦しいなって気持ちの方が大きい。
でも振り返ることも立ち止まることももうできない。
ここにくるまでにかかった沢山のお金が私の手を引っ張り続けて立ち止まらせてくれない。
無理。もう無理。
朝起きるのが、長い時間をかけて学校に向かうのが、泣き出したい自分を抑えて机に座り続けるのが、どうしようもなく苦痛なの。
喚けるなら喚きたいよ。
もう無理って泣きじゃくりたい。
でも、そんなに子どもでいられる年齢でもなくなってしまった。
明日が来なければいい。
薄暗い部屋の中で、1人で、ただ布団に転がるだけ。
いつだったかなぁ、好いている2人が心中しちゃう物語を読んだことがあったの。
その時、あぁ愛があればなんでも出来るんだって思った。
だって死ぬのは誰でも怖いじゃない。
しかも外からの刺激で無理矢理なんて。
それでも、自分の命を途中で終わらせてでも好きな人と最期を共にしたいと思うのは愛以外の何ものでもないじゃない。
2人の世界で2人だけがいつまでも幸せ。
それでいいんだと思った。
心中はおそらく知り得る中で究極の愛の形だと思う。
私が見送った2人も、どうかずっとずっと2人で幸せでいてほしい。