はるさめ

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だんだんと意識が朦朧としてくる。

ぼやける視界、とうに言うことを聞かなくなった手足、上手く回らない呂律、少しずつ速度を落とす心拍。
それら全てが私の終わりを告げている。

ここまで長かったようで、あっという間だった気もする。

私の身体が「私」でなくなったあの日から、悪化していくのは風のように早かった。
怖かった。毎日少しずつ私という人間の欠片を取られている気分だった。
そこからここまで、終わるまでの闘病生活は長かった。誰も来ない真っ白な部屋で、ただただ動かない己の手足を見つめるだけの日々。
はやく消えてしまいたかった。


…消えたかったはずなのに。


いざ終わってしまうとなると、ものすごく悲しい。
まだ終わりたくない。生きたい。
やりたいことが沢山あるのに。
なのに、もう目を開けていられないの。

いつかに話した出掛ける約束。
守れなくてごめんね。
一緒に退院するって話したのにね。ごめんね。
貴方がこの先健康に、幸せに、満ち足りた人生を送れることをずっと願ってる。
全部、話せなくてごめんね。

本当の限界、身体が離れていく。
ものすごく怖いから、どうか手を握って。
その温度も数分後には分からなくなってしまうけど。

私の世界に貴方がいてくれて良かった。
見送ってくれるのも貴方で良かった。


…なんて言ってるの?

ああ、もう、分からない、わからない。
みみだけはさいごまできこえるって、
だれかがいったのに、
嘘つき、嘘つき、嘘つき、
嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき



「〇時〇〇分、永眠」




『世界の終わりに君と』

6/7/2024, 2:25:22 PM