はるさめ

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10年後の私から届いた手紙。

胡散臭いとか、本当にそんなことあるの?とか、
色々いろいろ思ったけど。

何よりも一番に、
あぁ、まだ生きてたんだって思った。

21歳の私は、それなりに充実していると思う。
大学にも行かせて貰えて、学びたいことを学べる環境にいて、仲良くしてくれる人も居て。
確かに幸せだと言われる人生だと思う。

それなのに、理想と現実の乖離に苦しんで、
どうしようもなく消えたくなる夜がある。
おかしいほど苦しんで。重く沈んで。そんな自分のことが嫌いで。だから他人にも縋れなくて。
眠ったらもう二度と目が覚めないんじゃないかという恐怖に、布団の端を掴んで耐えて。

そういう自分だから、あと10年の内のどこかで吹っ切れて本当に消えてしまうことがあるんじゃないのかなって思っていた。

だから単純に「生きていた」という事実に驚いて、そしてほんの少しだけ安心感を覚えた。



やたらと封筒に凝るところは30越えても変わってないんだなと思いつつ、宛名も差出人の名もない手紙の封を開ける。

角を揃えて折りたたまれた便箋の中身は、
書こうとした素振りも見えないほど真っ白だった。

30越えた私が何を思うのか、今の私には何も分からない。
けれど、「乗り越えた人に未来は明るいって言われても意味無い、だって私は今辛いのに」と20代の今思ったことを30の私は忘れないでくれているんだなと思った。
下手な励ましや慰めなんか書いていない白い白い便箋がそれを表していた。


この手紙をくれた自分と、今の自分の世界が交わらないことだって十分に有り得て、もしかしたらこの先10年で私は鳥になっているかもしれないけれど。

遠い未来、どこかで生きている私がいること。

それだけを伝えてくれるこの真っ白い手紙は、どんなものよりも価値があった。

2/15/2023, 11:05:40 AM