題 静かな夜明け
何も起こってないようなそんな気がする日常。
僕の毎日はいつも、静かだ。
誰も何も入ってこないから、1人で起きて1人で散歩して1人で寝る。
そんな毎日だ。
ここは深い森。
だれとも行き合わない。
雪が降る。寒い中、毎日意味もなく散歩する。
家にいると1人を実感してしまうから。
動く物を見たいと思ってしまうから。
小さな虫でもいい。
冬眠している動物に思いを馳せるでもいい。
空を飛ぶ鳥を見るのでもいい。
1人ではない証を求めている。
歩けば歩くほど足はかじかんで、手にも痛みのあまり激痛が走る。
だけど、僕は歩く。
どこまでも歩いていると1人でも大丈夫な気がするんだ。
どこまでも歩いていると1人では無い気がするんだ。
散歩の最後は、ハイテンションになっている。
どこか少しだけ気分が向上して。
出た時の暗く虚無な気持ちから抜け出せている。
僕は1人なのか?
これからも毎日静かな夜明けを1人で見るんだろうか。
それでも僕の胸には期待がある。
春になって花が咲き誇り、命の誕生を目にするだろう。
僕は本当の意味で1人にはなれないのかもしれない。
そしてそれはとても幸せなことなのだろう。
題heart to heart
心臓ってただの臓器だよね?
感情ってどこから来るんだろう。
ドキドキしたり、ワクワクしたり、緊張したり、いつも心臓の辺りが動くような気がするんだ。
でも違うのかな?
ただの臓器なら、気持ちはないはずだもんね。
頭で感じてる信号が心臓に伝わって心拍数が早くなってるのを感情って思ってるのかな?
その割に、ただのドキドキとは違う、込み上げてくるような、沈むような、弾むような、様々な感覚に襲われてしまう。
私のハートには何があるんだろう。
他の人と暖かい感情の交流をしてるけど、それが心臓を弾ませるように嬉しくする。
大勢の人の前で発表する時、心臓が暴れ狂うようにのたうち回る。
人を好きになると、ドクドク早くなって甘い気持ちが込み上げてくる。
ただの臓器だとは思えない。
思えないけど、一体どこから感情は来るんだろう。
私は思う。
胸に手を当てて。
静かな鼓動を手のひらに感じながら、この胸で感じる無数の湧き上がる気持ちの正体は一体何なんだろうと考えながら、その正体は今日も分からないでいる。
題 永遠の花束
あなたに貰った花束、まだ私のそばにあるよ。
捨てられないでいる。
貰った時嬉しすぎて押し花にしてしまったから。
その栞をいつも持ち歩いてる。
ふと読みかけの本を開いた時、その花が目に入ると切なくなる。
いつも私に花束をプレゼントしてくれたあなた。
バラなんて、何十本ももらっても困るのに。
だけど、嬉しかった。
あなたがくれる気持ちが嬉しくて、私が笑顔になるとあなたもとっても嬉しそうな顔してくれるから。
だから、私の記憶の中のあなたは花束を抱えて満面の幸福そうな笑顔なんだ。
私の頭の中には永遠に色褪せない花束が消えないでいる。
そして、あなたから貰った栞がその記憶をいつも甦らせる。
昨日起こったことのように。
悲しいお別れの果てにあなたともう会えなくても。
あの鮮やかな記憶が、私にちょっぴりの切なさと微かな甘い感情を思い起こさせるんだ。
まるで淡い初恋のように。
もう色褪せてセピア色になってしまったとしても。
題 やさしくしないで
期待させないで
私は机の向かいで微笑んで私を見る高坂に非難の目を向ける。
高坂はなに?という顔でさらに微笑む。
「高坂って女の子に人気あるよね」
私はついつい不満を口にしてしまう。
「え~?そうかな?でもさ、女子男子に関わらず魅力的な人と仲良くしたいって思わない?話してて楽しいし。僕はカナミと話してる今楽しいよ」
「うん、そういうとこよ」
私は思わずツッコむ。
「え?どういうこと?」
楽しそうに笑う高坂を恨めしそうに見る私。
こうしてよくわかんない思わせぶりなこと言ってくるから、どうしていいか分からなくなる。
そして、その被害者の会は私の周りの女子に広がりつつある。
いつも褒めてくれるし、よく気がつくし、話してて楽しいんだけど、みんなもそう思ってるからな。
私に優しくするな、とさえ思ってしまう。
優しすぎるんだもん、高坂って。
「何か怒らせた?そうならごめんね、せっかく話すなら楽しく会話したいし、言いたいことは言ってね」
「⋯ううんいい」
というか、高坂みんなに優しすぎるからもっと冷たく接してなんて言われても困ってしまうだろう。
そんなこと望んでるわけじゃない、かといって、私にだけ冷たくしてなんて言うのもやだし、されるのもやだ。
結局どうしたいのかなぁ。
私は自分の頭の中の混線を解けないでいる。
「いいかぁ、それじゃ困るな、何か思ってることあったら言って」
高坂は机に肩肘をついて上目遣いで言う。
反則っ、反則技使ってきた!
⋯でもこんな風に食い下がってくるの、珍しいかも?
「いや、高坂みんなに、優しいじゃん?女子も男子も。女子が高坂好きになってる子多いから、ちょっと周りのみんなの事心配になって」
「えー。そうなの?でも、好きになってくれるのは嬉しいよ」
高坂はびっくりした顔をした後ニコッと天使みたいな顔で私に笑いかけた。
「それはそうなのかもだけど、みんな高坂に恋しちゃってもライバル同士喧嘩しちゃったりとか、振られて悲しい気持ちになる人が増えたりするでしょ?」
現に私の友人に高坂くん気になってるって言われてハラハラ。
友人とライバルになって気まづくないし、これ以上高坂好きなライバル増やしたくないよ。
「ケンカ⋯は困るけど、僕の態度ってそんなに勘違いさせてるの?」
「うん」
私はハッキリと頷いた。これは断言出来る。
「そっか~。じゃあ、恋人ができたら勘違いされないかな?」
「みんなに言えば勘違いされないかもね?」
私はそう言いながら、今度は恋人になる人に他の人に優しすぎって言われるかもね、と思いながら。
高坂に恋人⋯でもやっぱりそれは嫌かなぁ。
「じゃあカナミ、付き合って」
「え?なに?恋人探しに?」
いきなりそんな提案をされて私はビックリする。
恋人探し手伝うなんてそんなん嫌だと思いながら。
「違うって、僕とお付き合いしてください」
改めてちゃんと座って私に言ってくる高坂。
ガヤガヤする教室の中、非日常が私と高坂の周りをとりまく。
「え?」
私がビックリして固まってると、高坂は重ねて言う。
「僕のこと嫌いかな?」
「嫌いじゃないけど⋯この流れで告白って、私がいれば他の人に勘違いされないから告白したってこと?」
そうだよね、今までの流れからいくとそう思っても仕方ない気がする。
「違うって。前からカナミのこといいと思ってたんだ」
「そーなの?えっ、びっくりした⋯⋯」
私は突然すぎる告白の数々に頭がフリーズしてしまう。
「で、どう⋯かな?」
高坂は返事が気になるようで催促してくる。
「⋯いいよ、私も好きだから」
私はそう答える。
誤魔化す必要だってないしね。
「やった、ありがとう。じゃあこれから恋人ってことね」
高坂の言葉に、私は照れながら頷く。
「うん⋯」
やさしくしないでほしかった。
他の子にも私にも。
でも、こうなってくると話は別。
私にだけたくさん′優しくして欲しいな。
私はそんなげんきんなことを考えながら高坂に微笑みかけた。
題 隠された手紙
私の事なんてほっといて
私はそう言って家から逃亡した。
もう嫌だった何もかも。人生も。
だれも助けてくれない。
いつも私ばっかり辛い目にあう。
みんなと一緒にしてるつもりなのに、普通にしてるつもりなのに、弾かれる。
どうして?
どうして?
どうしてよ⋯。
ねえ、教えて。
私のどこがいけないの?
私の何が気に入らないの?
何で私だけ無視するの?
みんなは仲良いの?
私は1人なの?
いつもいつも1人なの?
みんなには私が見えてないの?
みじめだ⋯。
価値がないと思う。
だって1人なんだもん。
誰にも気にかけて貰えてない。
みんなは笑顔で話してるのに。
落ち込んだら優しく気遣ってもらえるのに。
喧嘩したら仲裁してもらえるのに。
私に何かが足りないばかりに、1人きりだ。
話すの好きなのに、最初は仲良くしてくれるのに、だんだん離れていくの。
私には原因は分からない。
でも、辛いことは分かる。
また1人になったんだって感覚はわかる。
「ここにいたのか、ミホ」
そんな声がして振り返ると兄が立ってた。
私が隠した置き手紙を手に持って。
「兄さん、よく見つけたね、その手紙」
私がそう口を開くと、兄は苦笑しながら言った。
「なんで家出するのに置き手紙隠すんだよ。でも、ミホはさ大事なもの隠す場所はソファーの上に置いてあるクッションの間って決まってるから、すぐ分かったよ」
「そっか⋯」
私のテンションは低く、そこで言葉も途切れる。
「家が嫌なのか?」
家の近くの公園で佇んでどうしようか悩んでいた私の隣までやってくると、兄は私の顔を覗き込んだ。
「学校が嫌なの。家に帰ったら学校に行かなきゃ行けないもん。誰も口きいてくれないの。帰りまで私1人でただ座っているだけなんだよ」
「なるほどね」
兄は隣で静かに相槌を打った。
「辛かったんだな」
ポツリと放たれた言葉に涙が溢れた。
「うん」
ゆっくり頷く私の方を見て、兄が言う。
「それじゃあ学校なんて行かなくていいんじゃないか?そんなに辛いならさ」
そう続ける兄に私は抗議する。
「そんな訳に行かないよ。だって欠席多かったら進学にも響くし、お母さん達に迷惑かけるし、私だって変に思われるし⋯」
そういう私を兄は視線を外さずに続ける。
「それで、お前は平気なの?辛いままで、耐えられるのか?」
私の涙が再び溢れてくる。
そんな姿を見ていた兄が再び言葉を放った。
「ミホが辛いことはやらなくてもいいんじゃないか?そんなに泣くほど辛いこと、無理にする必要ないだろ?」
泣くほど辛いこと。
確かに、私は今凄く辛くて辛くてどうしようも無い。
でも、頑張らなきゃ、でも行かなきゃって思うけど正直エネルギーが無さすぎて、朝は無気力だ。
「大丈夫、俺からも両親に話すよ。みんなで話して解決策を探そう。みんなミホが辛い気持ちになる事なんて望んでないんだから」
優しい声で言ってくれる兄の言葉に涙腺が緩む。
いつもは割とドライな兄だけど、今は優しくて、それが余計に胸に響く。
私はひとりじゃなかったのかもしれない。
ずっと無視されて、みんなに、世界に見捨てられたと思っていたけど。
こんなに親身になってくれる人がいるじゃないか。
学校にいなくても、こうして、身近で私の事を思って心からの言葉をくれる人がいるじゃないか。
私の価値は学校でいる私だけじゃない。
他の場所でも価値はできるんだ。
だから、学校だけの私で全てを判断なんてしなくていいんだ。
そこでどう扱われていようが、私の価値なんて決まらないんだ。
むしろ私が決めていいんだ。
ふと、そう啓示のように閃いた。
そうしたら、心がブワッっと軽くなった。
学校でいる私が全てで。
友人が居ない、孤独な私はダメ人間で。
評価もなにもされないバカにされるべき人間って思ってたけど。
どうしてそんなこと思っていたんだろう。
私は私の価値を決めていい。
兄は私の価値を見出してくれてて、私の両親だってそうだ。
だから、私は家族の評価を取る。
学校での評価を取らない。
どんな扱いを受けても、私の価値は揺らぐことはない。
私は価値がある人間なんだ。
そう思ったら心が文字通り水でざばぁっと洗われたようだった。
「兄さん、私ね⋯」
一緒に家に帰る途中だった。
兄に声をかける。
「私、もう少し頑張ってみる。本当に無理だったら言うから、もう少しだけ頑張らせて」
この私のままで学校へ行っても、やっぱり周りの環境でダメ人間だって思うのだろうか。
どうなんだろう、分からない。
それでもこの新たな気持ちで学校へ行くことを試してみたかった。
無理だったら他の考えを試してみればいい。
私の表情を見て、物問いたげな表情をしていた兄が頷く。
「そっか、お前がそう決めたならそうするといいよ」
兄の優しさも垣間見れた。
この家出は、無意味なんかじゃなかった。
私は言わずにはいられなかった。
「兄さん、ありがとう」
私の言葉に兄は微かに口角を上げた。
「何だよ、いきなり」
「言いたくなったの。これからも辛い時は味方になってね」
私の言葉に兄は頷いた。
「おう!」
その言葉が心強い。
私はそのまま弾む心と足取りで家まで軽やかに兄と帰ったのだった。