題 手のひらの贈り物
この手のひらに乗っている小さな存在。
ヒラヒラと漂うように飛ぶ蝶々は
私の心にほのかな暖かさをもたらした。
少し落ち込んでて
公園で今日の学校での出来事を思い出していたの。
そうして空を見ていたら
春の陽気ののどかな空気なのに
対照的に心は重くなって行って
悲しみがもやもやと心の中に溜まっているみたいだった。
思い出せば思い出すほど
悲しみとか悔しさとかが積もって行って
空の明るさすら眩しくて嫌になった。
そこへふいにヒラヒラと白い蝶々が飛んできたの。
私の手のひらの周りをヒラヒラフワと優雅に踊っているように
一瞬目を奪われた。
一生懸命羽を動かしている姿に。
その美しさに。
そうして思ったの。
蝶々の寿命はとても短い。
だから一生懸命なのかな。
私の命はとても長く感じる
だから苦しいのかな
これからも続く学校生活に
人間関係に
終わりが見えないって感じてしまう
こうして一生懸命羽ばたいて
ひらひらと美しい姿を見せてくれる蝶々に魅了されていた。
私もこんな風に一生懸命に見えるのだろうか?
もしも、もっともっと長い寿命の、もっともっと巨人が私を今手のひらに乗せて見ていたとしたら。
私の悩んでいる姿も、ほんの一瞬だって思うんだろうか。
頑張って生きているように思ってくれるんだろうか。
そう思うとよりひらひら飛んでいる蝶々が健気に見えた。
と、同時に、私も頑張ってるじゃん!
と思えた。
そうだよね、毎日頑張ってて偉いよね。
みんなそうだ。
落ち込むことあったって当たり前だよね。
だって一生懸命なんだもん。
適当に生きてるんじゃないもん。
だからこそ、悩むんだ。
それは、私が美しく、この蝶のように生きている証なんだ。
それは手のひらの贈り物
小さな気づきをありがとう
題 心のかたすみで
ずっと思ってた。
あなたのことを。
それでもあなたは気づかないよね。
言ってないんだもん。
気づくはずないんだ。
私は気づいて欲しいとばかり思ってて何もしなかった。
行動しなかった。
そりゃね。
行動したもの勝ちだよ。
私の親友はアピールしまくってたから、選ばれるのだって納得。
可愛いしオシャレだし、何も不足のない彼女。
私のように暗くてオシャレにも興味あまりないタイプと違う。
だから、仕方ないって。
仕方ないって思うけど。
でも悔しい。
私はあなたが好きだった。
そう思う深夜。
自室で私は涙を零す。
ポロポロと際限なく。
その気持ちがあなたに届くことはないと思うけど
それでも涙は止まらないの。
明日には親友におめでとうって言うから。
もうあなたのことを恋愛対象には見ないから。
今日は許して。
私のこの行き場のない爆発を
この抑えきれない気持ちが止められないのを。
どうか今夜が終わるまでは許してほしい。
題 君が見た夢
題 明日への光
明日への光を見たい。
見たいよ、私は希望を持ちたい。
でもね、毎日朝起きると辛いの。
重くて起き上がれない。
起き上がっても、進めない。
鉛みたいに足が重いの。
多分冬で寒いのも私のやる気を削ぎまくってる。
それでもね、がんばってるの。
駅にいって、満員電車に無理矢理乗り込む。
ぎゅうぎゅうで、もう窒息するんじゃないかという時間を、ひたすら目を閉じて耐えるの。
そうしたら、学校に着くから、学校に着いたら、何とか座ってればいいから。
誰とも話さなくても、一人で精神が蝕まれても、それでも1人の空間を確保できるというのはいい事でもある。
安心できるから。
教室で1人は嫌だけど、図書室の端っこの席が私の特等席。
いつも昼ごはん食べたら、図書室に行ってそこに座って、おとぎ話を読むの。
そうしたらその世界に飛んでいく。
昼休みのチャイムがなるギリギリまで、私は冒険している。
それから、また座って無の時間を過ごして、満員電車をやり過ごして、家に帰る。
家に帰った瞬間は何よりも安心するの。
私の居場所に帰ってきた。そんな気になる。
そう、また明日この安全基地を出なきゃ行けない時までは、私の居場所だ。
明日出る時のことは考えずに、せめて穏やかに時を過ごそう。
題 遠い鐘の音
遠くで鐘の音が聞こえた気がした。
「あれ?あの鐘の音ってなんの音だっけ?」
何度も鳴っている気がするけど、いまいち分からなくて、私は近くにいたマナさんに聞く。
マナさんは牧場を営んでて、いつも外にいるのだ。
遊んでいる時は、遅くなると、もう帰りなさいって教えてくれる。
「さぁ?なんの鐘だろうね?」
マナさんの返答を聞いた時に、不意に、この質問は何度もしているような気がした。
いままで無意識に聞いていて、そのまま消えていた返事。
でも、本当の解答はいつも得られない。
どこかで鐘が鳴ってる。
多分教会だ。
だけどミサがある訳じゃない。それは土曜。
いつも半端な時間、夕方になる時がある。
なぜ?
なんか気になってしまった。
マナさんの表情が翳ったように見えたのは、私が物事を邪推して見すぎているからだろう。
子供だけど、読書量が多いのは自覚があった。
きっと大したことは無いんだろう。
そう思った。
次の日、ミーンが行方不明になったって聞いた。
私と同じ小学校に通うミーン。
⋯⋯あれ?
記憶を遡る。
そういえば鐘が鳴った次の日は誰かが行方不明になっていなかった?
記憶力だけは自信がある、自分の記憶を思い返す。
確か、2ヶ月前はナキト、4か月前はフミヤ、6ヶ月まえは⋯。
2ヶ月置きにに誰か子供が行方不明になっている。
でもそれは、何となく流れていくニュースのように、大々的にならない。
だって居なくなった子供の両親は諦めているような、仕方ないような、そんな表情だったから。
私は思った。
次の時は真相を確かめようと。
次の鐘の音は、きっちり2ヶ月後に鳴り響いた。
私はどこで誘拐事件が起こるか分からないから警戒をしていたけど、もし私の知るところ以外に知るところ以外の時間帯で誘拐が行われているとすれば、もう追求しようがないと思った。
それでも、出来ることはしたかった。
夕暮れ時、マナさんがいつものようにやってくる。
「さぁ、そろそろ家に帰る時間よ」
「はい」
マナさんが私の手に触れた途端チクッと痛みを感じた。
疑問に思う間もなく、私は意識を失っていた。
しばらくして、私はふと目を覚ます。
ここがどこか分からなかった。
キョロキョロして、ようやく、鐘が近くにあるのを見て、教会の中にいることを悟る。
「はなしてー!!」
手足が縛られてて身動きできない。
私がなんとか逃れようとていると、そこへ誰かがやって来た。
「麻酔が弱かった?大人しくしなさい」
⋯それは、マナさんだった。
そして、後ろには神父さんがいる。
いつもニコニコして、子供には優しい神父さんだ。
今は歪んだ笑みを浮かべている。
「君はもっと後の順番だったのに、マナさんに鐘の意味を聞いたそうだね?危険因子から排除しなければいけなくなってしまったよ」
「大丈夫、この村のためになるのだからね」
マナさんはどこか狂気めいた笑みを浮かべた。
「この町はドラゴンに守ってもらっているのよ。あ、ドラゴンっていないって思ってる?私も見るまでは信じてなかった。ドラゴンはいるの、そしてね、子供の肉が大好きなのよ。仕方ないの、ドラゴンが外敵から守ってくれる代わりにドラゴンの好物を差し出さないといけないの。悪く思わないでね」
何を馬鹿なことを⋯と思ってた私の意識は、上空を被った暗い闇に途切れた。
緑の恐ろしい顔をしたドラゴンがこちらを覗いていた。
赤い燃えるような瞳、巨大な身体、硬そうなウロコ、口からはチロチロと舌か出ている。
「ひぃぃぃ」
私の口から無意識に悲鳴が出ていた。
「村の安全のために」
「村の安定のために」
マナさんと神父さんは、私の悲鳴など無視して、お祈りのポーズをしていた。
「ドラゴン様、どうかこの娘を生贄にして、村を守ってください」
神父が私をドラゴンの方へと追いやる。
誰かを犠牲にして何かを守るなんて、それが子供の命なんて、私は信じられなかった。
目の前に赤い瞳が迫る。
「しらなきゃ良かった!!」
絶叫が口から出る。
鐘のことなんて、そんな些細なことなんて見て見ぬふりをすれば良かった。
そしたらこんなことに⋯⋯。
私はドラゴンの赤い瞳が私の視界1杯を覆うのをどうすることも出来ないでいた。
「ミラリが行方不明なんだって!」
次の日、街の中にはそんなニュースが駆け巡る。
「まあ、仕方ないですね、家出してるのかも」
「わりと反抗的な子だったから」
「そうですよねー、年頃の子なら有り得るし」
「いちおう巡査に言っておきますか」
そんな事を言い合いながら、穏やかな調子で毎日が続いていく。
この平和の裏にある犠牲に、誰も気に止めることもなく⋯⋯。