題 どこまでも
「どこまでも行っちゃおうか」
振り向いてあなたを見つめる私の瞳を見つめ返すあなた。
「⋯君が行きたいなら」
あなたはズルい。
そうして私任せで。
あなたはいつも私に選択を一任するよね。
いいの?
このまま行っちゃっても。
あなたは後悔しないの?
私を選んでしまって。
そんな思考に陥ってしまうから。
負のループに陥ってしまうから。
だからその次の言葉が告げられない。
「じゃあ行こうよ、あなたがいいなら」
って。
どんな壁があっても。
どんな困難に見える道でもさ。
あなたが一緒なら頑張れる気がするの。
だから私はあなたさえいいなら行きたいよ。
⋯⋯でもね、本当はずっとずっと待ってる。
「一緒に行こう」
その一言を。
本当にそれでいいのかわからないから。
選択しきれるほど責任を負えないと思ってしまうから。
だから私から行こうよって言えない。
行きたいのに。行きたいのに。何を投げ捨てても行きたいのに。
ダメなの。
やっぱりあなたの一緒に行きたいって言葉を、私はずっと待ち続けてしまうんだろうな。
それまでは私たちの関係は決して動かないんだろう。
いつまでも止まったまま膠着状態で。
いずれどちらかが音を上げるまで。
私たちの忍耐強い我慢比べは続いてしまうんだろう。
題 SecretLove
誰にも言えない
言う必要もない
伝えなくてもいいから
想っているだけで充分だから
なんで?なんで?
どうして?
どうして伝えられないんだろう
納得したはずなのに
たまに暴れ出す心が私の精神を乱す
好きだから
気持ちが毎日降り積って
1粒の気持ちが10粒になって
100粒になって
心に溢れたらどうしたらいいんだろう
伝えるしかないじゃない
それなのに
伝えるのは不可能なんて
そんなのないよ
でも伝えられない
伝えちゃいけないから
もう崩壊して
決壊して
あるトキ爆発してしまいそうで
こんな想いをどうしたらいいのか
誰かに教えてもらいたい
私のこの心は
秘密という拷問を受け続ける愛は
いつまで隠していなきゃいけないんだろう
あなたに伝える必要なんてない
伝えなくていい
なんて心を偽りの偽善でコーティングして
それでも本当は
いつだって
あなたに伝えたいと思ってる
あなただけに向けているこの想いを
間違っているとしても
伝えたいと思ってしまうこの心を
溢れる気持ちを
どうしたらいいんだろう
題 ここにある
ここにある、確かに
それは見えないけど私の心の中に。
どうして分かるのかって?
だって、感じるから。あなたを見ると感じるトキメキがあるからだよ。
誰にも否定できない。
それでも私にしか見えない。
そんな私だけのトキメキを心の中に感じてしまうからなんだ。
「ん?」
あなたは私をみて疑問形の問いかけをする。
「ううん」
私はなんでもない風を装って首を左右に振る。
あなたと教室の放課後。
テスト勉強の約束をしていたから、教室に向かい合って勉強してた。
あなたが、
「そっか」
と言って、またノートに視線を落とすのをボーッと見つめる私。
何も出来ない。
何も言えない。
ただこうして友達としての距離を保っていることしか。
あなたの姿を見られるだけで、声を聞けるだけで充分ラッキーだと思えるのに、それ以上を求めてしまう気持ちは何なんだろう。
今のままでもわたしは幸せなんだよ。
あなたと2人で勉強出来るなんて。神様からご褒美を貰えた気持ちにすらなるもの。
「またぼーっとしてる」
私へと視線を上げて、あなたは少しとがめるような口調で言う。
「えっ、ごめん、難しい問題だったから考え込んじゃった」
私はとっさにそんなことを言う。
⋯⋯でもそれも本当だ。
勉強の問題集はさっきから全然進んでない。
解き方も難しすぎて分からないでいる。
「どこ?見せて」
あなたが身を乗り出してくる。
ドキッ
フワッとシトラスの香りが鼻をくすぐって⋯⋯。
私は反射的に顔を下げた。
「あ、こことこことここと⋯」
「全部じゃない?ほぼ⋯」
あなたの呆れたような声。
だって⋯。
「分からなかったんだもん。数学苦手だし」
⋯⋯あと、あなたに見とれてたんだけど、それは内緒。
「じゃあ教えるから、聞いててね」
そうあなたは言うと、問題の解説を丁寧にしてくれる。
そんなことも好きなんだ。
自分のことだけじゃなくて、私の事もいつも気にかけてくれる。
あなたへの気持ち。
見えない気持ち。
でもね。
虹色みたいな、パールみたいな、オーロラみたいな、それでいて透明みたいな、自然の大気のように澄み渡っているみたいな。
⋯海の中みたいな。たゆたうみたいな。
見えないもの。
そう、全部見えないけどキラキラしてて。
希望に満ちていて。
どこか少しだけほの暗い。
そんな気持ちなんだ。
確かにここにあるよ。
確かにここにあると確信しているから。
だから私は今日もあなたを想う。
あなたへの想いはいつまでも続いていくと確信させられてしまうんだ。
題 ゆるい炭酸と無口な君
シュワっ
そんな音はとても清々しい割に、無口な君が手渡してきたのはぬるい炭酸だった。
「なんだよ、これ、ぬりぃっ」
俺はそう言って1口そのコーラを口に含んで缶を突き返す。
缶を受け取った君は口をへの字に曲げて言った。
「だって、遅かった、部活」
「あー」
俺は頭をかきながらいう。
この暑い中、俺が部活終わるの待ってたからぬるかったのか。
一体いつから待ってたんだろう。
不満そうな顔で俺を見つめる幼なじみのユマ。
「悪かったよ、待たせたか?」
俺の言葉に口をへの字にしたまま頷くユマ。
肩までの黒髪がサラッと揺れる。
「今日練習長引いてたんだから先に帰ればよかったのに」
俺がそう言うと、ユマは首を振る。
「コーラ、買っちゃった」
「渡すために待ってた訳?」
俺が確認すると再び頷く。
俺は部活用品が入った荷物を手で持ち上げる。
「暑い中ずっと外にいたら熱中症になるぞ。お前は水分とったの?」
俺が聞くと、ユマはフルフルと首を振った。再びユマの黒髪がゆらゆらと揺れる。
こいつはそういう所があるやつだ。
俺の物は買ったりするのに、肝心の自分のことがおざなりになったりする。
「それ、かせ」
俺はユマの手にあるぬるい炭酸を手にする。
一気にぬるい炭酸を喉に流し込む。
だいたい炭酸ってあまり水分補給としては意味をなしてない気がする。
俺は喉にしゅわしゅわぬるい感触が広がっていくのを感じながら思う。
ポカリとかの方が全然効率的に水分補給できる。
ついでにユマの分も買ってくればよかったのに。
なんて思いながら、空き缶を片手にユマを見る。
「行くぞ。飲んだし、今度はお前の水分補給の番だ。自販機言ってポカリ買うぞ」
「え⋯⋯」
ぽかんとするユマ。
「え、じゃないって。こんな炎天下にずっと水分なしで待ってるなんて無茶なんだよ。何か水分飲まなきゃ」
俺は、動かないユマの手を握って自販機へと歩き出す。
「⋯⋯優しいね」
俺に手を引かれながら歩き出したユマがぽつりと言う。
「⋯⋯優しいのかぁ?むしろお前は自分にもっと気を使えよ。俺の事より、お前が倒れたら困るだろ?」
オレはそういいながら歩く。
ユマはまたポツリと言う。
「⋯⋯ありがと」
⋯⋯無口な幼なじみは、いつもいつも世話がやける。
俺のこと気づかってるようで結局俺が気遣ってないか?と思ってしまう。
⋯⋯それでも、俺はユマの世話を焼くのがそんなに嫌じゃない。
ぬるい炭酸を持ってずっと待っていてくれるようなユマの性格が本当はどこか嬉しいからなのかもしれない。
題 虹のはじまりを探して
「ねえ、虹ってどこへ続いてるのかな」
私は恋人と河原を歩いていた。
斜め上の空を見上げると、雨上がりの薄水色の空に虹が輝いている。
そんな虹を眺めていたら、ふとこぼれでた言葉だった。
「虹ねぇ、どうかな。わからないな」
彼氏は興味無さそうな返答をする。
「何その関心なさそうな態度」
私はつまらなくなってそう吐き出す。
彼氏はそんな私にため息をついた。
「何?なんていってほしかったの?」
作り笑いみたいな笑顔を貼り付ける彼氏を横目で見る。
この表情、キライだ。
「虹の国に続いてるのかな、とか、どこだろうね、世界の果てだったら面白いねとか」
「そんなファンタジーな感想、俺に求めるなよ」
彼は、眉をひそめて軽い非難口調で私に言った。
「じゃあ、逆に聞くけど、波花はどこに続いてると思ってるの?」
「え?そーだなぁ。あんなにステキな色なんだから、夢の国で、ユニコーンが沢山飛んでいるとか、むしろバクとかがいたりしてっ!それか、空の海に続いてて、虹色の海の中にオーロラ色のクラゲが漂ってるとかかもー」
「⋯⋯まぁ、そこまで想像力あるなら、ファンタジーな共感を俺に求めても仕方ないか」
彼氏は再び私を見てため息をつく。
「ため息つかないでよ、私の事子供だと思ってるんでしょ?!」
彼氏の反応にムカッとして、胸を軽く叩く。
彼氏は冷静に私の両手を捕まえて言う。
「はいはい。俺は波花みたいな想像力はないんだからさ、求められても困るわけ。別に波花が子供とか思ってる訳じゃないよ。すぐ想像力働かせられるのは凄いと思ってるし」
手をつかまれて、目の前で言われて私はドキッとする。
真剣な彼氏の顔。
「うっ、ほんと?でも、共感して欲しいんだもん」
「それは悪かったよ。共感かぁ。頑張る。⋯でもさ、俺、ファンタジーの国の住人じゃないんだからそこは大目に見てくれよ?」
そう言いながら、彼氏は私の頭をポンポンと撫でる。
⋯⋯これのどこが子供扱いしてない、なのよ?
と思う。
「じゃあさ、まだ時間も早いし、波花が好きなぬいぐるみ沢山のカフェに行こうか?ファンタジーワールドに浸れるようにさっ」
彼氏の言葉に、私の機嫌は瞬間的に回復する。
「ほんとっ?!嬉しいっ、大好きっ!行く行くっ!!」
「じゃあいくか?」
私は彼氏の差し伸べた手を握りしめる。
空には淡く消えていきそうな色の虹。
⋯はじまりは一体どこだったんだろう。
そんなステキな思いを馳せさせてくれた虹。
彼氏と共感できなくても、私はまた虹が出た時考えるだろう。
正解は分からなくても考える時間は楽しいから。
彼氏にはできないって言ってた。
ファンタジーな思考を巡らせられることは、実は私の特権だったのかもしれない。