ミントチョコ

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8/3/2025, 11:11:57 AM

題 ゆるい炭酸と無口な君

シュワっ

そんな音はとても清々しい割に、無口な君が手渡してきたのはぬるい炭酸だった。

「なんだよ、これ、ぬりぃっ」

俺はそう言って1口そのコーラを口に含んで缶を突き返す。

缶を受け取った君は口をへの字に曲げて言った。

「だって、遅かった、部活」

「あー」

俺は頭をかきながらいう。

この暑い中、俺が部活終わるの待ってたからぬるかったのか。
一体いつから待ってたんだろう。

不満そうな顔で俺を見つめる幼なじみのユマ。

「悪かったよ、待たせたか?」

俺の言葉に口をへの字にしたまま頷くユマ。
肩までの黒髪がサラッと揺れる。

「今日練習長引いてたんだから先に帰ればよかったのに」

俺がそう言うと、ユマは首を振る。

「コーラ、買っちゃった」

「渡すために待ってた訳?」

俺が確認すると再び頷く。
俺は部活用品が入った荷物を手で持ち上げる。

「暑い中ずっと外にいたら熱中症になるぞ。お前は水分とったの?」

俺が聞くと、ユマはフルフルと首を振った。再びユマの黒髪がゆらゆらと揺れる。

こいつはそういう所があるやつだ。
俺の物は買ったりするのに、肝心の自分のことがおざなりになったりする。

「それ、かせ」

俺はユマの手にあるぬるい炭酸を手にする。
一気にぬるい炭酸を喉に流し込む。

だいたい炭酸ってあまり水分補給としては意味をなしてない気がする。
俺は喉にしゅわしゅわぬるい感触が広がっていくのを感じながら思う。

ポカリとかの方が全然効率的に水分補給できる。
ついでにユマの分も買ってくればよかったのに。

なんて思いながら、空き缶を片手にユマを見る。

「行くぞ。飲んだし、今度はお前の水分補給の番だ。自販機言ってポカリ買うぞ」

「え⋯⋯」

ぽかんとするユマ。

「え、じゃないって。こんな炎天下にずっと水分なしで待ってるなんて無茶なんだよ。何か水分飲まなきゃ」

俺は、動かないユマの手を握って自販機へと歩き出す。

「⋯⋯優しいね」

俺に手を引かれながら歩き出したユマがぽつりと言う。

「⋯⋯優しいのかぁ?むしろお前は自分にもっと気を使えよ。俺の事より、お前が倒れたら困るだろ?」

オレはそういいながら歩く。

ユマはまたポツリと言う。

「⋯⋯ありがと」


⋯⋯無口な幼なじみは、いつもいつも世話がやける。

俺のこと気づかってるようで結局俺が気遣ってないか?と思ってしまう。

⋯⋯それでも、俺はユマの世話を焼くのがそんなに嫌じゃない。

ぬるい炭酸を持ってずっと待っていてくれるようなユマの性格が本当はどこか嬉しいからなのかもしれない。

7/28/2025, 11:44:44 AM

題 虹のはじまりを探して

「ねえ、虹ってどこへ続いてるのかな」

私は恋人と河原を歩いていた。
斜め上の空を見上げると、雨上がりの薄水色の空に虹が輝いている。

そんな虹を眺めていたら、ふとこぼれでた言葉だった。

「虹ねぇ、どうかな。わからないな」

彼氏は興味無さそうな返答をする。

「何その関心なさそうな態度」

私はつまらなくなってそう吐き出す。
彼氏はそんな私にため息をついた。

「何?なんていってほしかったの?」

作り笑いみたいな笑顔を貼り付ける彼氏を横目で見る。
この表情、キライだ。

「虹の国に続いてるのかな、とか、どこだろうね、世界の果てだったら面白いねとか」

「そんなファンタジーな感想、俺に求めるなよ」

彼は、眉をひそめて軽い非難口調で私に言った。

「じゃあ、逆に聞くけど、波花はどこに続いてると思ってるの?」

「え?そーだなぁ。あんなにステキな色なんだから、夢の国で、ユニコーンが沢山飛んでいるとか、むしろバクとかがいたりしてっ!それか、空の海に続いてて、虹色の海の中にオーロラ色のクラゲが漂ってるとかかもー」

「⋯⋯まぁ、そこまで想像力あるなら、ファンタジーな共感を俺に求めても仕方ないか」

彼氏は再び私を見てため息をつく。

「ため息つかないでよ、私の事子供だと思ってるんでしょ?!」

彼氏の反応にムカッとして、胸を軽く叩く。

彼氏は冷静に私の両手を捕まえて言う。

「はいはい。俺は波花みたいな想像力はないんだからさ、求められても困るわけ。別に波花が子供とか思ってる訳じゃないよ。すぐ想像力働かせられるのは凄いと思ってるし」

手をつかまれて、目の前で言われて私はドキッとする。
真剣な彼氏の顔。

「うっ、ほんと?でも、共感して欲しいんだもん」

「それは悪かったよ。共感かぁ。頑張る。⋯でもさ、俺、ファンタジーの国の住人じゃないんだからそこは大目に見てくれよ?」

そう言いながら、彼氏は私の頭をポンポンと撫でる。

⋯⋯これのどこが子供扱いしてない、なのよ?

と思う。

「じゃあさ、まだ時間も早いし、波花が好きなぬいぐるみ沢山のカフェに行こうか?ファンタジーワールドに浸れるようにさっ」

彼氏の言葉に、私の機嫌は瞬間的に回復する。

「ほんとっ?!嬉しいっ、大好きっ!行く行くっ!!」

「じゃあいくか?」

私は彼氏の差し伸べた手を握りしめる。

空には淡く消えていきそうな色の虹。
⋯はじまりは一体どこだったんだろう。

そんなステキな思いを馳せさせてくれた虹。

彼氏と共感できなくても、私はまた虹が出た時考えるだろう。

正解は分からなくても考える時間は楽しいから。
彼氏にはできないって言ってた。
ファンタジーな思考を巡らせられることは、実は私の特権だったのかもしれない。

7/27/2025, 3:18:39 PM

題 オアシス

オアシスだよ、あなたとの時間は。
誰にも壊させない。
絶対に。

そんなこと考えて、くるりと振り返る。
波がざぱんと軽く水滴を散らす。

「ねえ、好きだよ」

少し後ろを歩くあなたに伝える。

「いきなり何言ってるの?」

焦った顔で言うあなた。
夕日に照らされて赤い顔に見える。
それとも、本当に照れてるのかな?

私はあなたとの元へと駆け寄る。

彼の腕に自分の腕を絡ませて顔を寄せる。

「いつも思うんだ。あなたって海みたいって。絶対に水属性だよね」

「何かのモンスターみたいだね」

フフってあなたは笑う。
笑い方が可愛い。

「モンスターでも可愛いモンスターだよ」

「そっかぁ、攻撃力はそんなにないやつだね」

ガッカリするあなた。またそんなことにときめいてる私。

「いいの、あなたは癒しの力があるんだから。ヒーラータイプだと思うもん。あなたのそばに居ると癒されるし安心するんだー。だからね、いつもそばにいられるだけで愛してるって思うの」

私はジッとあなたの瞳を覗き込みながら言う。

あなたはドギマギした表情で言う。

「あ、ありがとう、ジッと見ないで、照れるから」

そう言って視線を逸らそうとするあなたの顔を両手で抱える。

「だめ、顔見せてよ」

「⋯これ、軽く拷問なんだけど」

私の視線を受けて顔が夕日のせいだけじゃなくて明確に赤くなる彼。

私は可哀想になって手を離す。

「分かった、じゃあ今は解放してあげる」

「⋯ありがとう」

彼は視線を逸らしながら言う。
今照れてるのかな?そんなとこもやっぱり好きだ。

そう実感する。

すっと、手に暖かさを感じる。

彼が私の手を取っている。

反射的に彼の顔を見るけど、彼の視線は向こうに逸らされたまま。

「僕も、僕も好きだから。君といると幸せだよ」

彼の柔らかい声。

私はその声を聞いた瞬間、彼に抱きついてしまう。

「わっ」

彼の驚いた声にもお構い無し。

だってあなたは私のオアシスなんだもん。

癒しの源からそんなこと言われたらこうなっちゃうのは不可抗力でしょ?

7/8/2025, 11:59:44 AM

題 あの日の景色

あの時見た景色が忘れられない。

いつまでもいつまでも⋯。

そんなこと考えてても仕方ないのに。

「またあいつのこと考えてるの?」

横にいた男友達のタツヤが言う。

「⋯⋯」

私は無言で答えた。

だってどうしても忘れられない。

そばで笑いあって、1年の初日の出を一緒に見た。
私たちの思い出の海で。

あの景色が不意に蘇ってくる。

切り取られた写真の1ページのように。

鮮明に。

ふと夕日を見た時。
朝、太陽を見た時。
日の出のニュースを見た時。

私の脳は電流のように弾けて、見たくなくてもハッキリと彼との初日の出の景色、彼の笑顔、彼の手の体温を伝えてくる。

それは恐ろしい程に。
呪いであるかのように。

彼はもう他の人を好きになってしまった。

私と一緒に初日の出を見ることもないだろう。

それなのにぐだぐだと考えてしまう。

思い出の景色だけが取り残されたように私の中を侵食している。

「もう忘れろって」

無責任な言葉をタツヤが言う。
忘れられればとっくに忘れてるよ。

「私だって忘れたいよ」

私の言葉に、タツヤは口を開く。

「じゃあ、俺と付き合おうよ、忘れられるって」

私は黙る。

そうなのかな。そんな気はしない。
タツヤと付き合っても、タツヤのこと不幸にするだけじゃないのかな。

だって私の中にはまだ前の彼の幻影が強くこびり付いているんだから。

何度も同じことを言ってくれるタツヤを見つめる。

「⋯ごめん」

結局、結論は同じだ。

私の中のこの消せない思い出を、消化しないといけないのだろう。
そうしないと、先に進むことは出来ないと、どこかで分かっている。

だからこそ思い出して、そして、少しずつこの胸の痛みを和らげているような気もする。

「分かったよ、でもそばにはいさせてくれよ」

タツヤはいつものように気にしてないトーンで応えてくれる。

まだ⋯まだだ。

いつこの呪いから解放されるんだろう。

私は胸に手を当てた。

解放されたらいいな⋯そしたら私はタツヤと⋯⋯。

そんな想いを抱きながら、私はタツヤを見て静かに頷いた。

7/7/2025, 10:19:24 AM

題 願い事

ねえ、今日は七夕だよ

そう言って振り返る私に、彼は微笑む。

「そうだね、願い事は決めた?」

私はそう言われて手を彼氏に突き出す。

「えー、決められないなぁ、まずお菓子を沢山食べられますように、頭が良くなりますように、テーマパークにタカシと行けますように、それからそれから⋯」

「ストーップ」

私がまだ列挙しようとすると、タカシに制止される。

「え?何?」

「何って、ちょっと待って、今の、お菓子なら買ってあげるし、頭良くなるのは、一緒に勉強しよう。テーマパークなら、チケット買っとくよ、今度行こう」

「ええ、全部お願いする意味ないよー」

私は優しく微笑むタカシの胸に飛び込む。

「じゃあ、じゃあね⋯」

「うん、何?」

優しく頭上から降ってくる声になんだか気持ちがふわふわする。

「じゃあ、ずっとそばにいてくれますように」

これなら?という気持ちでタカシを見上げる。

「願うまでもないよ」

タカシが私のおでこに軽くキスをする。

「じゃあ、私の願いは全部タカシに叶えられちゃうんだねっ、なら、タカシの願い事は?」

「もう叶ってるけど?」

タカシは私を優しく微笑んで見下ろした。

「君という人が僕と一緒にいてくれますようにって」

タカシの優しさ溢れる視線にどうしていいか分からなくなってしまう。

私の困惑顔に、タカシの笑みはより優しくなる。

ああ、こんなに大好きな人といる時間は幸せだ。

どうか、空の彦星様と織姫様も1分でも長く一緒に過ごせますように。

私は空を見上げてそう願わずにいられなかった。

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